
ブレインパッド
2025/1/30
ベビーケア、フェミニンケア、ウェルネスケア、ペットケアの4事業を柱に、グローバルに事業を展開しているユニ・チャーム。2024年に発信したコーポレート・ブランド・エッセンス「Love Your Possibilities」には、すべての人が秘める可能性を信じ「共生社会」の実現に貢献したいという思いが込められている。


「当社は、「SDGsの達成に貢献する」ことをパーパスとして定めています。その具体的な事例として、紙パンツ(紙おむつ)の水平リサイクルや、ホルモンバランスと体調の関係がわかる生理管理アプリ『ソフィBe』をリリースするといった取り組みを進めています。また、アフリカでの生理用品の販売開始に加え、インドでの女性起業家支援を通じて、生理用品の使用率拡大にも寄与するなど、未来を見据えた海外での取り組みも強化しています」と同社の東上 泰樹氏は紹介する。
同社は2000年代からクラウド型グループウエアを導入するなど、業務改善、生産性向上に向けたデジタル活用にいち早く取り組んできた。生成AIの利用開始も早く、2023年8月には社員専用の生成AI利用環境「UniChat」(読み:ユニチャット)をリリースして、全社員に提供している。

「ただ、実際の業務に使う中で課題になっていたのが回答精度でした。より一層の精度を実現するためには、「RAG」(検索拡張生成、*1)以外に「ロングコンテキスト(*2)」や「音声・画像・動画等のテキストデータ以外の入出力」の活用などが不可欠だと分かり、精度改善を図るための方法を検討しはじめたのです」(東上氏)
そこでパートナーに選んだのが、データ活用支援企業のブレインパッドだ。データや生成AIに関する高度な知見、技術力と、ブレインパッドならベンダーロックイン(*3)がなくマルチベンダーでの対応が可能である点で中立の立場で多彩な提案がもらえる事を高く評価した。
「お客様の課題を踏まえると、Google CloudのGemini とVertex AI Agent Builderを軸に、ユニ・チャーム様の活用目的に応じて柔軟にサービス選択ができる方がよいと考えました。そうすることで、精度を高めつつ、将来にわたる拡張性を確保できるからです」とブレインパッドの内田 健太氏は話す。また、過去に同様の仕組みの構築経験があり、効果が見込めることも提案した理由になったという。
こうして両社は、UniChatを実際に特定部門で活用する実証を開始した。対象としたのは法務部門だ。法務部門には社内から多くの問い合わせが日々寄せられており、その対応をUniChatに代替させられれば大きな業務効率化を見込めると考えた。

「少数精鋭の法務部門に寄せられる質問には初歩的なものや簡易的なものも多く、それらの対応に要する時間がコア業務を圧迫している状況を改善したいと思っていました。加えて法務部門には過去の問い合わせ対応データが豊富にあり、スムーズに実証を進められると感じたことも背景にありました」とユニ・チャームの中村 翔太氏は付け加える。
半年をかけて現場の声をフィードバックしながら、回答精度を向上させていった。また、社員の利便性向上を最優先に位置付け、チャットの利用状況の分析結果を元にしたUniChatのUIの改善も進めた。
「PoCでの正答率は90%を実現しています」と東上氏は満足感を示す。2024年8月には国内約3,000名、一部海外現地法人の社員にアナウンスを行い、法務部門への問い合わせにおける「UniChatバージョン2.0」の本番運用を開始した。
「利用開始後、月1人あたり100件あった問い合わせは、最小で3件になりました。そのため、1人あたり月17時間かかっていた問い合わせへの対応時間は、最大で30分に削減されています」(中村氏)。これにより、法務部門担当者の業務負荷は大幅に削減されている。
法務部での成功を受け、わずか2カ月後の2024年10月からは人事、経理、システム部門での運用もスタートした。このスピード感も特筆すべきものといえるだろう。法務部門向けにつくった仕組みをベースにすることで、スムーズな横展開を図った形だ。
「多部門への展開は、UniChatの構想初期段階から考えていました。法務部門と同様に、社内からの比較的単純な問い合わせが多く寄せられる部署の業務負荷軽減を狙うものです」と中村氏は紹介する。なお、特定部門への問い合わせだけでなく、どの部門に尋ねて良いのかわからない場合にも回答が得られる全体横断型のチャット窓口も設けた。これにより、どこに問い合わせるべきか分からない質問についても広くカバーできるようにしている。

さらに現在取り組みを進めているのが知財部門への展開だ。ここでは、新たな試みとして社外データとの連携にチャレンジしている。
「検索先に知的財産の特許を管理する外部データソースを含めます。これにより、日々更新される特許情報を踏まえて回答できるようにする狙いです」とブレインパッドの井出 大介氏は説明する。また、知財部門では特許を取りまとめた資料をパワーポイントで作成する機会が多いため、そのテンプレートに合わせた出力機能も搭載している(図1)。
なお、ユニ・チャームは、あらかじめ導入方針を明確に定めることで、現場との齟齬を減らすようにしているという。
「最初から精度100%を目指すのではなく、例えば60%前後の精度を最初の目標値としてアジャイルに改善をしていく。活用部門のメンバーやブレインパッド様と打ち合わせを繰り返しながら、この方向性で進めることに合意を得ています」と中村氏は述べる。“魔法の杖”と思われがちな生成AIは、現場社員の期待と性能のギャップが活用定着の阻害要因になることが多い。ユニ・チャームの進め方は、1つの参考になるだろう。
ユニ・チャーム全社におけるUniChatの利用率は、以前と比べて約1.3倍になった。法務、人事、経理、システム部門の担当者の負担軽減はもちろんのこと、これまで不明点が出るたびに問い合わせていた社員の待ち時間や手間も削減されている。それらの時間をクリエイティブな業務に向けることができれば、全社の生産性が大きく高まるだろう。「効果が増大するほど、利用率も高まっていき、それが結果的にユニ・チャーム様の従業員体験(EX)向上にも寄与するはずです」と内田氏は期待を込める。
今後もユニ・チャームとブレインパッドは、より多くの業務領域に生成AIを適用していく計画だ。ここまで行ってきた「社内情報(FAQ)の連携による業務効率化」「社外情報の連携による情報発信強化」に続き、次の段階では「開発領域のAIサポート」を目指す(図2)。
「今後は画像や動画の生成に取り組むなどで、マーケティングや開発業務にも貢献していきたいと考えています」と中村氏は語る。
ユニ・チャームがこのような実効性ある取り組みを進められている最大の理由は、同社の姿勢にあるといえるだろう。社内の課題やデータの所在、そして実現したい姿を自ら明確にした上で、ブレインパッドのような専門家とともに取り組む。専門家の伴走がカギを握る生成AI活用においても、その成果を左右するのは社員側の主体的に取り組む姿勢なのである。
「今後も、ブレインパッド様と様々なアイデアを交換しながら、広範な生成AI活用を進めていきたいと考えています。単なる業務効率化を超え、新たな価値を生む活用に踏み込んでいければうれしいですね」(東上氏)。両社の取り組みに引き続き注目したい。
TEL:03-6721-7002
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