地域金融機関などと連携し、地域を支える中堅・中小企業の新規事業立上げやイノベーションを支援する。KPMGコンサルティングが通常のコンサルティング業務から一歩踏み込んだサービスのけん引役の一人が戸田静香さんだ。旺盛なアントレプレナーシップ(起業家精神)を心に秘め、スタートアップ勤務で培った「ゼロからイチを生み出す」ノウハウを磨き続けながら、さまざまな場所で事業の芽を育てている。
社会に貢献できる事業を残したい
戸田さんがアントレプレナーシップを抱くようになったきっかけは、高校生時代に受けた「60歳までの人生の設計図を描いてみよう」という問いかけがきっかけだった。祖父や叔父など、身近な存在が会社を経営していたこともあり、導き出した答えは、「将来、会社を立ち上げ、それを残すことで、持続的に社会に貢献できる」というものだった。そして大学時代、映像で見たある経営者の言葉から「日本の成長には新興企業の力が不可欠」と確信し、いつかは事業を立ち上げたいという決意はさらに強くなったという。
自らが描いた設計図を具現化するためには、大企業よりもゼロから事業を立ち上げる現場に身を置けるスタートアップで経験を積むほうが、自分の目的に必要なスキルを身に付けられると考え、就職活動はベンチャー一択で進めた。さまざまな起業家と面談する中で、「最も面白そうで、一緒に働きたいなと思えた起業家が立ち上げた会社に運よく入社できました」と振り返る。最終的に選んだのは、環境関連ビジネスで成長を続けるベンチャー企業であり、大学で環境ビジネスを学んでいたことも、この選択を後押しした。
スタートアップでゼロイチを体感
2013年4月に入社し、配属されたのは新規事業として進めていた飲食事業だった。台湾企業との協業で、日本に飲食店舗を展開するプロジェクトに参画し、商品や店舗の企画を担当。開店後は実際の店舗運営に加え、本部機能として戦略、コスト管理、システム導入・運用、マーケティング、人材育成など幅広い業務に取り組んだ。「新規事業を立ち上げ、前に進めるには、物事を俯瞰的に捉えつつも、日々生まれる課題を即座に解決することが重要で、そのためには行動力と思考力が不可欠だと学びました。もちろん、やり遂げる覚悟も必要です。」
入社して2年。事業は成長し、黒字化も見えてきた頃、戸田さんの中に「自分の目標を達成するためには、思考力をもう一段高めたい」との思いが募っていった。当時の上司がコンサルティング会社出身で、その高い思考力を間近で見てきたこともあり、2015年にKPMGコンサルティングへと転職した。
競合調査から始まり、コスト削減、BPR(業務プロセス改革)、システムの要件定義など、幅広い分野でコンサルティング経験を積み重ねていった。しかし、2020年に大阪に転居することになり、KPMGコンサルティングを退職し、別のコンサルティング会社に転職。「大阪でもKPMGコンサルティングで働き続けたかったのですが、当時の大阪事務所では多くのコンサルタントが週5日東京に出張して業務を行っていたため、この環境では続けるのが難しいと考え、大阪でコンサルタントを続けるための選択として転職を決めました」
大阪で再入社 社会課題に新たな価値を吹き込む
転職後もKPMGコンサルティング時代の元上司とは定期的なコミュニケーションを続けており、大阪事務所を拡大していく方針が伝えられたことをきっかけに、KPMGコンサルティングへの復職を決意し、2022年に大阪事務所で再スタートを切った。「現在所属している『Business Innovation(BI)ユニット』は、社会課題に対して新しい価値を提供できるモデルをつくり上げる、KPMGコンサルティングのこだわりが詰まった組織です。その取組みに魅力を感じたことに加え、気心が知れた上司や仲間と再び働きたいという思いも、復職の原動力になりました」
そのBIユニットを象徴するサービスの一つが、戸田さんも力を注ぐ「地域中核企業に対するオープンイノベーションスキームを活用した新規事業立案支援」だ。KPMGコンサルティング単独では難しい分野を、地域の金融機関などと連携し、プログラム形式で提供する仕組みで、これまでは支援が届きにくかった中堅・中小企業向けとして、現在までに9都道府県で展開している。
KPMGコンサルティングは新規事業およびオープンイノベーションに必要なスキルを提供し、国内外のスタートアップ企業との連携をサポート。資金面や地域の企業とのつながりなどは地域の金融機関が支援し、大学などが加わることで知識の深掘りを図り、行政も巻込むなど、地域全体で企業を底上げする仕組みだ。「新しい価値を地域の企業にお届けできることに、やりがいを感じています」
学習塾に新たなビジネスを創出
すでに売上げの拡大や特許取得といった成果も生まれているが、成功事例の一つが、ある学習塾の取組みだ。人口減少による市場縮小という課題を克服するため、KPMGコンサルティングとの連携で地域の金融機関が提供するプログラムに参加。離島や通学の難しい子どもたちへの学習機会の提供や、学校に行けない状況にある子どもたちに新しい学びの選択肢を提供するために、メタバース技術を活用した「バーチャルキャンパス」サービスを事業化した。モニター生を募集したところ、初日から100人を超える応募があったという。「新たな事業の柱が生まれたことで、これまで新規事業を全く考えたことがなかった人たちのマインドを変えることにも成功し、翌年度の別事業の立ち上げにもつながりました」
戸田さんが力を入れているもう一つの領域は、KPMGコンサルティングが社内外で進めている女性をエンパワーメントする活動「WOVEMENTS®」だ。ウーマンとムーブメントを組み合わせたネーミングであるこの取組みは、女性比率が低かったコンサルティング業界で、ネットワークをつくり女性の働き方を社内から変えて、活躍できる環境を整えていくことを目指して、2020年にスタートした。当時は女性同士の横のつながりが希薄で、職場単位で孤立しかねない状況であり、一人で悩むケースも少なくなかった。戸田さん自身も、家庭との両立や体調不良で退職していく同僚の姿を見てきた経験から、再入社を機にこの活動に加わった。
社内向けには定期的なネットワーキングイベントや座談会などを開催し、社外向けには女性活躍の取組みを発信。さらに、KPMGコンサルティングが培ってきたノウハウを生かした支援にも動き出している。
大阪・関西万博で女性起業家コンテストを開催
(提供:KPMGコンサルティング)
さらに6月30日に大阪・関西万博の会場内で決勝戦を実施した、WOVEMENTS®発のピッチコンテスト「価値創造イノベーションコンテスト:女性が導くサステナブルな未来」の企画立案や当日の司会進行も担当した。「どんな社会にしたいのかという内に秘めた思いを発表する場を提供したいという思いもありましたし、女性起業家が活躍できる環境を少しずつでも整備して、応援したいという考えもありました」
決勝戦に残ったアイデアは、オーバーツーリズムの問題解決や出産環境をめぐる課題解決など、それぞれが身近な課題に着目して、日本をより良くする視点で未来を描いたものばかりだった。「少子高齢化の進展で出生率が低下し、分娩施設がない自治体が増えているという課題に直面している中、看護師の方が起業という選択肢を持って未来を変えていきたいというアイデアを示されるなど、みんな素晴らしいことを考えているなと実感しました」
「自らが事業を立上げ、社会に貢献できるものを残したい」。その想いを胸に、コンサルタントとして新規事業支援を通じて種をまき続けている戸田さん。自らが携わったプロジェクトでクライアントから感謝の言葉をもらえることが、何よりのやりがいになっていると打ち明ける。「どの取組みも社会に新しい価値を提供するだけでなく、自分のやりたいこと、そして人生の目標につながっています。」と視線は未来を見据えている。
PROFILE
戸田 静香(とだ・しずか)
2013年新卒でスタートアップに入社し、海外企業との協業による飲食事業の立上げに参画した後、2015年にKPMGコンサルティングに入社。2020年大阪への転居を機に別のコンサルティング会社に転職したが、2022年にKPMGコンサルティングへ復職。大阪事務所に所属し、新規事業の創出支援業務などに従事。
※WOVEMENTS®は、KPMGコンサルティング株式会社の日本における登録商標です
