Empowerment Report

エンパワーメントレポート

D&Iが当たり前の世界へ 変化を恐れず日々の意識を高めよう

Ridgelinez
執行役員Partner兼CIO

鬼束 孝則さん

2025.06.09 掲載

Ridgelinez(東京・千代田)は戦略から実行までを支援する富士通発の総合プロフェッショナルファームだ。2020年1月の会社設立から、富士通をはじめ停滞に悩んでいた大企業の変革を支援してきた。鬼束孝則・執行役員Partner兼CIOは、前職の日本アイビーエム(IBM)での33年間の経験を生かして、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I、多様性と包摂性)を推進・定着させる取り組みに突き進んでいる。

「D&Iは続けてこそ」IBMから転身して気づいたこと

 「D&Iは相当意識して継続しないと根づかない。空気のように当たり前にあるものという世界をつくりあげたうえで、それを維持する努力をしないと、すぐに崩れてしまうものなんです」

 Ridgelinez執行役員Partner兼CIOの鬼束さんは、D&Iの要諦についてこう語る。

 「日本IBMの親会社である米IBMは、1911年の創業時から積極的にダイバーシティに取り組んでいたこともあってか、前職ではD&Iが当たり前の環境でした。特に女性という観点では相当、意識的に力を入れていた印象です。私が所属していた部門では女性管理職の割合が公表されていましたし、キャリア入社してくる方もそれが当たり前の環境なので、定着していたのだと思います」

「D&Iカルチャーは継続することこそ重要」と鬼束さん

 ある企業では、「D&Iカルチャーはもう定着した」と判断し、あえて意識づけをする必要はないと考えて、積極的なD&I活動をやめた時期があったが、信じられないほど従業員エンゲージメントが下がりだしたという。慌てて活動を再開したものの、元の水準に戻るのに時間がかかってしまった――そんな実体験を聞いて、鬼束さんは「D&I活動は継続することが重要であり、従業員のエンゲージメントを高めるためにも欠かせないものであるという学びを得ました」と。

 「D&Iとは多様な個性や思いを掛け合わせ、新たな価値に変換しつづけることです。ちょっと気を緩めると旧来の会社のしきたり、社会のしきたりに戻ってしまう面を意識して、努力し続けながら改善していく息の長い取り組みです」(鬼束さん)

 こういった思いもあり経営陣を含めてD&IにコミットしているRidgelinezに転職しようと決意したそうだ。

「日本に貢献したい」33年のキャリアを経て挑む変革の舞台

 鬼束さんのキャリアは、ハードウエア担当の技術者から始まった。顧客の障害対応などの現場業務から経験を重ね、その後はシステムエンジニア(SE)としてソフトウエア分野の担当へと移った。その実績からビジネス系の業務を任され、チームを率いてソリューション展開を担当することに。ビジネス推進、サービス企画部長、グローバル対応のプロジェクトマネジャー(PM)、アーキテクトチームの部長などを歴任し、数々の要職を経験した。

 「33年間、外資系企業で働いてきて、ふと自身を振り返った時に『はたして日本に対してどれだけ貢献できたのだろうか』と考えるようになりました。より一層、日本企業で変革に貢献したいという思いが強くなった時に、経営戦略としてD&Iに取り組んでいるRidgelinezを知り、転職を決意しました」と鬼束さんは当時の心境を振り返る。

 新天地のRidgelinezでは、様々な気づきがあったという。

 「Ridgelinezの特徴は、D&I推進を単なる社会的責任だけではなく、データに基づいたビジネス戦略として位置づけている点にあります。これはコンサルティング業界において、当社の大きな差別化要素です。お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を支援する総合プロフェッショナルファームとして、真にお客様の役に立つものを届けるには可視化することが欠かせません。例えば、D&IであればRidgelinez社内で実践した活動をデータで表したうえで分析し、新しい示唆を得るための挑戦をしています。通常では考えないような情報の掛け合わせを、様々な面で試行しているのが当社の特徴であり、強みです」と、Ridgelinezのアドバンテージを表現する。

 実際に同社ではプロジェクトチームの女性比率と顧客満足度との関係、部門ごとの女性比率と従業員エンゲージメントスコアとの関係といった非財務面での評価だけでなく、売り上げや利益などに関連する財務指標との相関なども分析し始めているという。

D&Iの可視化が自社の強みを掘り起こす

 「当社の顧客満足度調査の結果を、プロジェクトチームメンバーの女性比率別に比較分析してみました。その結果、総合点だけでなく、コンサルティング力やチームワークといった項目においても、女性比率が20%以上のチームが最もお客様の評価を得ているという事が明らかになりました。これは多様性のあるチームの方が、よりお客様に価値を感じていただけたという事実であり、D&Iを推進することが、ビジネスへ好影響を与えることを可視化した事例です。このようなデータを示すことでD&I推進の“自分事化”が進みます。例えばプロジェクトマネジャーがチームを編成する際に『多様性があるかどうか?』という視点が自然と加わりますよね。意識が変わり、行動が変わるという好循環を生み出すことができるのです」と説明する。

 こうした多角的な分析データや結果は、社内外へ広く共有しているという。

 そして、25年度よりCIOも兼務することになった鬼束さんは、よりスピーディーな経営判断を可能にするため、「財務×非財務情報」をリアルタイムで見ることができる経営ダッシュボード開発に取り組んでいる。

「財務×非財務情報」をリアルタイムで把握できる経営ダッシュボード開発にも取り組む

 「D&Iは非財務データとして、数値化&分析することが難しい領域だと思う方も多いかもしれませんが、D&Iに関するデータ(非財務データ)が可視化できるようになると、売上や利益などの財務データとの相関関係も見たくなるという好循環が生まれます。こういった活動は実践知として私たちの強みになると信じています。D&Iの支援業務で選ばれるコンサルティング会社になるためには、D&Iがもたらすビジネス効果を社内で実証し、データで証明できることが大きな優位性になります」と、鬼束さんは手応えを感じている。

ノイズをそぎ落とし、個の力を最大化するD&I推進

 「Ridgelinezに転職を決めた際にはIBMで働いた経験しかなかったので、日本企業特有の文化がわからないという不安もありましたが、自身の経験で感じたよい文化は積極的に広めていこうと思っていました」と振り返る。

 「IBMでは社長であっても部下であっても、誰に対しても『さん』付けでしたから、私は今でも『さん』付けです。例えば、メールの宛先を書く時に、役職をつけて表記している人を見ることがありますが、鬼束さんの役職はなんだったかな? と確かめて、鬼束『執行役員Partner』と書く。この時間がもったいないなと感じます。私が誰に対しても『さん』付けにすることで、『さん』は失礼という感覚は無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)かもしれないと、考えるきっかけになればいいと思っています。アンコンシャス・バイアスは、誰もが持つものですが、自分では気づきにくいものでもありますので、異なる価値観を持つ人とのコミュニケーションは私自身ずっと大切にしてきました」と、鬼束さんは新たな風を吹き込もうとしている。

 確かに、一つひとつは小さなことだが、積み重なるとものすごく時間を浪費することになりかねない。

 「アンコンシャス・バイアスを意識することも重要ですが、私はこういったことを、仕事を進める際の『余計なノイズ』だと捉えています。『ノイズ』は雑音と訳されますが、つまり不要な情報であり、『乱れ』という意味も持ちます。もしバイアスが解消したとしても、余計なノイズ、つまり乱れがあると的はずれな状態となり、本質にはたどり着けません」と強調する。

 メールは一例だが、社内に昔から残る古い慣習や考え方・思考が、こうしたノイズとして残ってはいないだろうか? 重んじるべき習慣もあるが、一方で非効率で、多様性を妨げかねないものは不要であるはずだ。

 「D&Iとは、『余計なノイズ』をできる限りなくす努力をすることでもあると思うのです。会社として求めるもの、お客様が本当に求めているもの、すなわち本質にたどり着くことに集中するために、『ノイズ』があっては的はずれになってしまいます。お客様の価値を導き出すうえで、『ノイズ』は余計なものでしかない。変革創出企業であるRidgelinezのメンバーそれぞれが持っている本来の力が発揮できない環境や偏見をなくす努力を怠らない。これが私の使命だと思っています」と力強く語った。

「社内にある『余計なノイズ』を減らすことが心理的安全性を高める」

 さらにD&Iの推進は「心理的安全性とも密接に関係している」と指摘する。

 鬼束さんは、その意図をこのように語った。

 「従業員のエンゲージメントを高めていくには、心理的安全性が重要です。自分の意見や気持ちを安心して表現できる環境で、従業員のポテンシャル、つまり一人ひとりが持つ本来の力をどれだけ引き出せるか。D&Iはそれをカバーできるものだと思います」

マイノリティー経験で学んだ他者への「想像力」

 企業の心理的安全性を高める本質を、鬼束さんは「相手に想像力を働かせること」だと言い切る。

 「一人ひとりが違うという前提に立って、この人はこうかもしれない、あの人はこうかもしれないと想像しながらコミュニケーションを取っていくこと。色眼鏡をまず外し、先入観を持たないことが大切です」

 これは、鬼束さん自身が経験したことが基盤にもなっているようだ。

 「妻とは年齢差のある結婚なのですが、親に結婚の意向を伝えた時に、猛反発されました。妻は外資系で働き、英語も堪能で人望も厚く、非常に優秀なビジネスパーソンです。しかし、親は年齢差という物差しだけを基準に、いわゆる社会的な常識や体裁を重んじる考え方から、当事者である私たちの幸せとは異なる視点で反応したのだろうと思います。その時に偏見ってまだたくさんあるんだなと感じましたが、そこで気づいたこともたくさんありました」

 年齢差のある結婚生活では、世代が近い夫婦とは異なるライフステージの問題にも直面したという。

 「もし私が同じぐらいの年齢の方と結婚していたら、その年齢に応じたライフステージを経験していたでしょう。でも私の場合は、その進むステージが早く例えば30代半ばごろには妻の両親の介護が始まりました。実際に、介護の場面では妻の献身的な姿を見て、その振る舞いを尊敬し、逆に我が身を振り返って猛省するなど、多くの気づきを得ることができました」と振り返る。

 このマイノリティー経験が、誰に対してもフラットに、役職や立場に関わらず分け隔てなくコミュニケーションを取る鬼束さんの基本姿勢となり、周囲からの信頼を集めているのだろう。

“モーターボート”の強みを生かして

 従業員数が約500人という規模感がD&I推進においてRidgelinezに優位性をもたらしている。

 「D&Iの推進でも、この規模だからこそできるスピード感やダイナミックさがありますね。大企業では情報が滞ってしまう、行きわたる血流が滞ってしまう面があるかと思いますが、我々はこの規模感を活かし、情報の流れも共有もスムーズに行うことができます」

 部門間のコラボレーションがスムーズに行われる点も強みだという。

 「テクノロジー、デザイン、ストラテジーなど異なるコンピテンシーを持つ多様な人材がいて、雑談から始まったアイデアがすぐに形になることがあります。お客様が『うちの会社でも再現性があるのか』と問われた時に、『実際やってみたら、こうなったのです。だから御社もこうしなきゃいけませんね』と説得力を持って伝えられますから」と、鬼束さん。「当社が実践知を持っていることは強みになります」と、自社の成功事例を他社に提供することの意義を強調する。

 CIOとしてデータドリブンD&Iを推進する鬼束さんの視線は、日本社会全体にも向けられている。D&Iの推進は一企業の問題ではなく、日本社会全体の課題だと認識しているからだ。

 「日本は深刻な人材不足に直面しています。にもかかわらず、社会の仕組みや偏見など様々な事情で働くことができない方がたくさんいらっしゃいます。その貴重な人材の力をしっかりと引き出すという観点からも、D&Iの推進はこれほどの価値を生むのだという数字による証明は、大きな起爆剤になると思います」

 D&Iの推進は、大手企業だけでなく、すべての企業が取り組むべき重要な課題だ。D&Iの浸透によって今までは働くことが難しかったマイノリティーにも活躍の場が広がる。誰もが働きやすい環境と文化を築くことで、企業の枠を超えて日本全体が元気になる。

 鬼束さんはRidgelinezの強みをこう表現する。「大企業が巨大船だとすれば、我々はモーターボート。モーターボートだからこそ先を見て、早く走り、失敗ポイントを発見し、『ここはつまずくから、左に舵(かじ)を切った方がいい』と方向転換できる。当社が見つけた進み方には再現性があるので、それを大企業に提供できれば、必ず巨大な船も動かせるはずです。時間はかかるかもしれないが、推進し続ければ日本が変わる。それがRidgelinezの使命でもあると信じています」

二拠点生活で得たメリット

二拠点生活ではゴルフ場などへのアクセスが良いなどのメリットも

 鬼束さんは現在、長野市にも拠点を持ち、二拠点生活をしているという。普段は横浜市の自宅からオフィスに向かうが、週に3日は長野市で過ごしている。

 「コロナ禍の後で、二拠点生活がしやすくなりました。場所を変えることはメンタルヘルスにもすごく効きます。食べ物もおいしいですし、観光名所である善光寺には訪日外国人も多く、多様なコミュニケーションが刺激にもなります。都心とは違う多様な楽しみを日々発見し、新しい物差しが見えてきます」と、笑顔で話す。

 これまでのキャリアの中で得た経験と、プライベートでも実感している多様性の「価値と効果」を、鬼束さんはD&Iという形にしてRidgelinezにもたらそうとしている。自社にD&Iを浸透させ、自己変革していく組織にすることが、ひいては顧客である日本企業の進化につながると見定めているようだった。

PROFILE

鬼束 孝則(おにつか・たかのり)
33年にわたり、IT戦略立案からアーキテクチャ設計、開発、導入、維持管理、技術支援に至るすべてのフェーズを多数手がける。事業会社としてのサービス企画開発、ソリューション推進、社内DX、セキュリティ&運用センター長、8か国にまたがる大規模グローバルプロジェクトをリードした経験を有し、業務プロセス改革、プロジェクトマネジメント、チェンジマネジメントのエキスパート。IBMに33年在職し、2020年8月にRidgelinezに合流、2023年7月より現職。PMI日本支部理事。

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