日本コンテンツの本当の実力は?

独自試算から見えてきた市場と商機

日本コンテンツ・クールジャパンの
本来の市場規模

議論の前提としてE&M市場の規模感や今後の傾向を確認したところで、ここからは日本コンテンツ・クールジャパン関連の市場規模の詳細に目を向けたい。PwCコンサルティングでは、「新たなクールジャパン戦略」(リブート版)をはじめとする政府資料の内容を基に、より詳細なプラン策定に必要不可欠な補完データの収集・推計を行った。政府は、23年時点で5.8兆円と目される日本コンテンツの海外売上を33年には20兆円まで拡大するという目標を掲げている。この5.8兆円という数字は日本コンテンツを取り巻く海外市場全体の実態を正確に捉えた数字なのだろうか、というのが議論の出発点である。

PwCコンサルティングでの検証の手順としては、まず主要な業界団体が公表している数値を合算した5.8兆円市場の構成内容を再度確認し、その内部および外部で含まれていない商財市場を特定。さらに、これに含まれておらずかつ市場規模が非公開のものは、独自に国内外の関係者へのインタビューなどを実施して推計を行う、という手法を取った。リブート版でも今後これらの数値を官と構成業界団体が連携しながら整備すること(インテリジェンス)の重要性が述べられており、今回の試算がこのような情報整理に資する内容となると同時に、今後この領域に関する具体的な数値が各団体から継続的に公表されることを期待したい。

既に14兆円以上の日本コンテンツ海外市場が存在

PwCコンサルティングが独自に行った日本コンテンツの海外市場調査では、23年時点で少なくとも14.4兆円規模の市場が既に存在しているのではないかとの推計結果が出た。これは政府の見込みと大きく乖離している。この背景には、政府が示している5.8兆円という値が主に映画・番組・アニメなど、クールジャパン戦略に記載されている市場(図表4)が中心となっているのに対し、PwCコンサルティングではより広範な定義で市場を捉えているという違いがある。

PwCコンサルティングの推計においては、コンテンツの提供の方法に応じて市場をa)~d)の4つに分類(a)は、さらに経緯から3種類の市場で構成)して、検証を実施した(図表4)。

図表4 現在の日本のコンテンツ海外市場規模推計

現在の日本のコンテンツ海外市場規模推計
* 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)推計
※ここで示す「市場規模」とは日本コンテンツの海外消費額を指す
出所:PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブ推計

a)は、国内事業者が自社・子会社で直接提供した、または海外事業者を介して提供されたデータである。政府資料で示されているのは、国内の業界団体などが示した海外市場統計を合計したa-①5.8兆円。それに加えて、a-①には含まれていない領域を補完するa-②を設定している。

a-②は、a-①の基となった統計から除外されている市場構成要素と、そもそもa-①に入っていない市場の2つから構成され、合計を2.6兆円と推定した。具体的には、例えばa-①の「アニメ」の海外市場の中で、アプリ・ゲームやグッズなどのデリバティブ(キャラクターや楽曲などの作品の一部を異なる商材として展開)で十分に網羅されていないものをカウントしている。また、そもそもa-①に含まれていないもの(ジャンル)として、アニメ由来以外のキャラクターグッズや楽曲などの市場がある。

a- ③は、2次流通の市場である。a- ①とa- ②の商材であり、かつ日本の消費者から海外の消費者へフリマなどのプラットフォームを介して販売されるものや、日本国内で仕入れられて海外に正規ルートとは別に販売されるものを合算している。海外におけるこのような日本コンテンツ関連グッズのクロスボーダーでの消費者間取引や並行輸出などの2次流通規模を試算したところ、総計で約1.1兆円の規模に達するとの結果になった。これは各国の主要なオンラインEC、日本からの越境EC、オフライン(店舗)でのトイ・ホビー系商品における日本IPのシェアを基に算出したものである。特に海外ではトレーディングカードやフィギュアの人気が高く、一部の希少な商品は高額転売される場合も多い。1次流通の金額規模と比較しても大きな市場となるが、エンタメ・ホビー系商品の取引量の多さ、価格幅を考えると妥当な規模と言える。なおこの金額にはコンテンツに当たるマンガ冊子、ゲームソフト、BD/ DVD などは含まれておらず、これらの2次流通を加えるとさらに大きな規模になると想定される。

b)は、海外で製作された日本のコンテンツ由来のゲームや、世界各地で開催されるアニメなど日本コンテンツ関連イベントの市場を指し、0.3兆円程度であると想定される。

そして、c)では、クリエイターたちが日本から直接、SNSなどのさまざまなプラットフォームを通じて発信する市場(2.6兆円程度) を挙げた。

最後に、d)では、上記すべてに含まれないいわゆる海賊版市場も、潜在的なコンテンツ市場として加えた。この市場については、被害額は2兆円程度との数値を採用している(なお、海賊版については書籍内で別途取り上げ、試算の内容や対策の必要性について述べている)。

以上の金額の合計が14.4兆円である。仮に33年に20兆円市場規模を達成することが目標として適切であれば、現状の2倍弱の成長を、どの市場で、いかに実現するかが重要になってくる。現状の市場規模が5.8兆円ではなく14.4兆円だとしても、コンテンツの世界市場を20兆円にするためには、それなりの戦略が不可欠だ。独自にコンテンツを作り、広げ続けるだけではなく、リブート版にも示されている通り、食やライフスタイルなどのジャパン・プロダクト、インバウンドなどジャパン・エクスペリエンスの良循環を幾重にも組み合わせるスコープをコンテンツ産業側から提示していくことが望ましいだろう。

その際、PwCコンサルティングで提唱しているコンテンツの生態系モデルを生かしながら、ジャパン・プロダクトやジャパン・エクスペリエンスへと市場を広げていくことが奏功すると考えられる(図表5)。コンテンツの生態系モデルとは、コンテンツを取り巻くCapital /Creator /Channel /Commerce /Community の5つのC(5C)が有機的に連携し、コンテンツへ投資し(資本:Capital)、コンテンツを創り(創作:Creator)、配る(配給:Channel)ことを通じて、生活者がファンとなり関連グッズなどを購入・所有(Commerce)、イベントへの参加やキャラクター、グッズなどを介したSNS などでのファン同士の交流といった体験(Community)として消費され、その経済活動による利益と体験から生じた人材が新たなコンテンツの創出へ還るという循環を指す。日本国内では複数企業の連携の形で既に実現できているこの方式を海外にも広げ、コンテンツを起点に異業種のプレイヤーが連携しながら大きな循環を創り出していくことが重要となる。

図表5 コンテンツ、食・ファッション・ライフスタイル、インバウンドが生み出す良循環

コンテンツ、食・ファッション・ライフスタイル、インバウンドが生み出す良循環
出所:PwCコンサルティング合同会社 エンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブ作成

書籍『世界で勝つエンタメビジネス ~異業種連携で広げるIP活用戦略~』では、本稿で紹介した市場推計をコンテンツ生態系の枠組みでより詳細に分析した内容や、コンテンツの生態系モデルを海外市場まで広げ、クールジャパン市場を拡大するための具体的な方策や試案に関する詳細内容を扱っている。その際、新しい資金調達やさらなるコンテンツ展開の具体策として、「コンテンツIP特別会社」や「クールジャパンボンド」といった具体的な施策の提案を行っている。ぜひご一読いただき、読者の皆様のさまざまな立ち位置から、コンテンツの生態系モデルの構築・発展につながる機会に目を向けていただけると幸いである。

※ 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA),「CODAの著作権侵害対応と正規流通促進への取組」, 2024/9/17