トヨタ自動車が実証都市「コネクティッド・シティ」プロジェクトを発表するなど、「MaaS(Mobility as a Service)+街づくり」の取り組みがいよいよ現実味を帯びてきた。その実現によって、我々の生活にはどのような変化が起きるのか。都市型MaaSの現状を踏まえて、その未来像を深掘りする。

単独では不可能、さまざまな企業が連携して実現を目指す

 NTTドコモ・ベンチャーズは2020年2月12日、「都市型 MaaS がもたらす生活者の行動変容」をテーマに掲げたイベントを開催した。MaaSに関しては、昨年9月に「地方MaaS」にスポットを当てた勉強会を開催していることから、今回はそれに続く形で「都市型 MaaS」をフィーチャー。さまざまな立ち位置で都市型 MaaSの実現に挑む有識者を招き、都市型MaaSの現状や可能性、さらにはビジネスチャンスを探った。

 冒頭、NTTドコモ・ベンチャーズの井上正裕氏は、街づくりを見据えたMaaS事業が数多く生まれていることを背景に、「これからの未来を創る新しい産業を盛り上げたいという想いから、MaaSにまつわるイベントを開催した」と今回の趣旨を説明。一方で、世間的に「MaaSと街づくりの組み合わせ」があまり認知されていないことを憂慮し、イベントを通じて「不透明な部分をあきらかにするとともに、日本版MaaSが及ぼす影響などを議論していきたい」と呼び掛けた。

 イベントの前半は、MaaS Tech Japan 代表取締役の日高洋祐氏、ドコモバイクシェア 取締役 経営企画部長の武田有紀氏、京浜急行電鉄 新規事業企画室の橋本雄太氏、三井不動産 経営企画部 ビジネスイノベーション推進グループの林崎豊氏の4人が講演。それぞれが手掛ける都市型MaaSの取り組みの詳細や課題、今後の展望などを語った。

 MaaS Tech Japanの日高氏によれば、MaaSとは「さまざまな交通サービスを仮想的に1つとみなす概念」であり、これによって利用者は「最適な移動行動を簡単に選択できる」ようになる。その代表例として挙げられるのが、フィンランドのMaaSアプリ「Whim」。交通手段の検索やオンライン決済に加えてサブスクリプション(定額制)も導入しており、「自家用車を手放す行動変容につながっている」(日高氏)ことが注目されている。

 都市型MaaSの場合、「需要と供給のミスマッチによる混雑」といった交通課題がポイントとなる。このような課題に対して、ウィーンでは「公的投資でモビリティサービス基盤を整備し、その上に民間事業者がさまざまなビジネスモデルを作る」ことで、経済の活性化や都市の最適化を狙っている事例がある。データ活用には「そのデータをまとめる場所」が必要となることから、このようなサービス基盤が「将来的には日本でも必要になる」と日高氏は分析する。

 また、アラブ首長国連邦のドバイでは、道路交通局(RTA)が統合モビリティプラットフォーム(DIMP)とMaaSソリューションの「S’hail mobility app」を展開している事例がある。便利な交通アプリを一般向けに提供する一方で、そこで集めたデータをしっかり交通政策などに活かしている点が「都市レベルでのMaaS活用の参考になる」(日高氏)。そのほか、最近では駐車場のない共同住宅と配車アプリ「Uber」を組み合わせた「不動産+MaaS」や、観光施設への送迎や移動販売車と自動運転を組み合わせた「購入・物流+MaaS」といった取り組みも始まっている。

 このように、さまざまなMaaSアプリが登場するなかで、日高氏は今後の注目ポイントとして「定額制の組み方」や「データの活用方法」を挙げる。「何かが正解かはわからないが」と前置きしつつも、技術的な進歩は確実なことから「そのあたりを具体的に進めていきたい」とした。

MaaS Tech Japan 代表取締役 日高洋祐氏

 ドコモバイクシェアの武田氏は、同社が運営するシェアサイクルの現状と街づくりに対する考え方を、MaaSの観点から述べた。2019年12月末現在、ドコモバイクシェアは29地域に、約1万2400台の自転車と約1500ヵ所のポートを展開。導入の目的には、観光地の交通を補う「観光促進型」と、大都市などの二次交通の役割を担う「都市型」の2種類がある。

 また、同社としてはシェアサイクルを「公共交通に位置付けたい」と考えており、社会的な責務を果たすことに力を入れている。実際、東京都港区では、駐車場不足の解決にひと役買うことで放置自転車の削減に効果を上げているほか、品川区では災害協定を結んでおり、交通機関が停止した災害時の代替移動手段としての活用も見込まれているそうだ。

 一方で、シェアサイクルの知名度は約25%とあまり高くない。そこで現在は、認知度を高める一環として経路検索アプリとの連携を実現し、「移動ルートを検索すると、シェアサイクルも自然と出てくる」(武田氏)ようになっている。また、利便性を高めるために他の交通機関とのシームレスな連携も進めており、例えばJR東日本のICカード「Suica」だけで利用から決済までをワンストップで行えるような取り組みを検討中。クレジットカードを持たない若者層の利用を促進するために、NTTドコモの決済サービス「d払い」やdポイントにも対応済みだ。さらに、ドコモバイクシェアはトヨタ自動車や小田急電鉄のMaaSプラットフォームにも参画している。

 街づくりにおいて、武田氏は「自社だけが頑張ってもあまり意味がない」と考えており、街をよくするためには「さまざまなプレーヤーとの連携が重要になる」と訴える。さらに、日本のシェアサイクルには「設置場所がなかなかない」などの課題があることから、各プレーヤーが協力し合うことで互いの課題を解決して「街づくりを支援していきたい」と語った。

ドコモバイクシェア 取締役 経営企画部長 武田有紀氏

 MaaSの普及によって「鉄道会社のビジネスモデルも大きく変わる」と課題意識を持っているのが京浜急行電鉄の橋本氏だ。京急グループは鉄道をメインとする交通事業を中心に、生活・サービス分野の各事業を地域密着型で多角的に展開しているが、近年は事業環境の複雑化・高度化によって「従来のビジネスモデルでは限界になりつつある」(橋本氏)。そこで、橋本氏の部署ではMaaSを最大のフォーカス領域と捉えて、新規事業の創出に挑んでいる。

 ビジョンとして掲げるのが「モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出」だ。既存の移動手段のアップデートのみならず、その目的となる顧客体験を「いかに多彩で豊かなものにできるかが重要」と橋本氏は語気を強める。ただし、ニーズを捉えた新しいサービスの開発や、既存事業のデジタル化を自前でやることは非常に難しいことから、「スタートアップをメインとするオープンイノベーションを活用している」(橋本氏)。

 その取り組みの1つが、京急グループの経営基盤とスタートアップの革新的なビジネスモデルを掛け合わせて事業共創を進めるオープンイノベーションプログラム「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」である。製品やサービスの社会実装フェーズに特化しており、これまでに12社のスタートアップと8件の実証実験・協業を具体化。傘のシェアリングサービス「アイカサ」、相乗りマッチング・オンデマンド交通「nearMe.」、荷物預かりのシェアリングプラットフォーム「ecbo」などのスタートアップが選ばれている。

 また、京急グループの沿線には多彩なエリアがあることから「MaaSのやり方は1つではない」と橋本氏は考える。例えば、大企業の集まる品川は「MICEなどと連携したグローバルなMaaS拠点」、人口減少や高齢者の増加が進む横浜・横須賀は「パーソナルモビリティや海上交通との連携」、観光地の三浦は「課題である交通アクセスの改善を踏まえた観光型MaaSや移動自体のエンタメ化」を未来像として示した。

京浜急行電鉄 新規事業企画室 橋本雄太氏

 世界初の本格的なMaaSプラットフォーマーであるフィンランドのMaaS Global社と事業提携を結び、日本でのMaaS事業に取り組んでいる三井不動産。同社の林崎氏は、柏の葉キャンパス駅(千葉県柏市)を舞台に、「生活者の視点」に基づいたMaaSを活用して街づくりに取り組む共同プロジェクトを紹介した。

 MaaSの概念にはレベル0~4の段階があるのだが、MaaS Global社と三井不動産は「レベル3:サービスの統合」と「レベル4:政策との統合」の中間レベルを、同プロジェクトのビジョンとして設定。サービスが統合された先には「街の要所や目的地と交通サービスがつながっていく未来がある」(林崎氏)という考えから「レベル3.5:目的地との統合」を想定し、そこが「MaaSの次の未来になる」と述べた。

 同プロジェクトでは現在、MaaS Global社が提供するMaaSアプリ「Whim」の「柏の葉キャンパス駅周辺での実用化」を目標に掲げている。2020年の開始を予定し、料金プランは都度払いから開始するほか、適宜サブスクリプションの投入を目指す。また、地域住民へのインタビューなどから生活者の移動に関するペインやニーズを探ったり、スマートドライブと連携してマイカーの利用状況を可視化したりする取り組みも進めている。

 三井不動産が将来的に見据えるのは「価値変化」である。例えば、現在は「“駅”から徒歩〇分」が不動産の価値を決めるキートリガーとなっているが、今後は「“MaaSのモビリティステーション”から徒歩〇分」も影響してくると林崎氏は考える。また、不動産業界では「駐車場の不足や過剰供給」が課題の1つとなっていることから、MaaSで需給をコントロールして余剰となる駐車場を公園などに転用できれば、「社会課題の解決になるほか、地域価値の向上という形で不動産事業者にも大きなメリットがある」(林崎氏)と語った。

三井不動産 経営企画部 ビジネスイノベーション推進グループ 林崎豊氏

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