2024年6月18日、「RE:WorkLab 『ハタラク』を変えよう~ABW(Activity Based Working)推進で実現するウェルビーイング経営~」と題するコンソーシアム・ミーティングが行われた。様々な立場で新たな働き方をリードするキーパーソンが本音で語り合った。その模様を2回に分けて報告する。第1部では、まず参加者一人ひとりが自身の取り組みを紹介し、ウェルビーイングの実現を目指す最新の知見を共有した。日経BP 総合研究所の小林暢子がモデレーターを務めた。

「新しいハタラク」が求められている。第1部では、自社と自身の取り組みについて、参加者一人ひとりがショートスピーチを行った。ウェルビーイングという共通の目的に照準を合わせ、各社が得意とする技術とノウハウを生かして貢献しようとしていることが明確になった。お互いの取り組みやウェルビーイングに対する考え方を共有し、第2部のディスカッションにつなげる。

ストレス低減よりウェルビーイングの方が業績を向上させる

EVOL株式会社 代表取締役CEO
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科附属
システムデザイン・マネジメント研究所研究員
前野 マドカ 氏

約1600社の上場企業を調査した英オックスフォード大学と米ハーバード大学の研究(23年5月)によれば、業務のストレスを減らすより、ウェルビーイングを目指す方が業績の向上効果が高いことがわかりました。私たちは「心と体、社会的にも良い状態が続くこと」をウェルビーイングと定義しています。「アイデアが浮かびやすくなる」「俯瞰して物事を見やすくなる」「メンバーとの関係性がいい」「病気になりにくい」などの主な4つの効果により、業務のパフォーマンスを高めることがわかっています。重要なのは、幸福感の高い社員の創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%も向上することです。また、欠勤率も離職率も低くなることが知られています。

EVOL株式会社 代表取締役CEO
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科附属
システムデザイン・マネジメント研究所研究員
前野 マドカ 氏

私たちは1500人の日本人に調査し、「幸せの4つの因子」を見いだしました。「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」です。

前野氏の研究チームが見いだした「幸せの4つの因子」

この4つの因子を意識していただくことで、ウェルビーイングの実現が近づきます。夢を持ち、人とつながり、承認し合い、自分らしさを生かしながら、自分らしく働くことは組織全体の幸せにもつながる。その事実を認識していただきたいと思います。

一人ひとり違う「オフィスの快適性」をグラデーションで実現

新菱冷熱工業株式会社
エグゼクティブ・フェロー
阿部 靖則 氏

私たちの会社は、都市の高層ビルなどの空調や給排水などの設備を提供しています。建設業界は以前から時間外労働時間が長いと言われます。働き方改革担当役員として労働時間の短縮を進め、ウェルビーイングの実践を考えてきました。

新菱冷熱工業株式会社
エグゼクティブ・フェロー
阿部 靖則 氏

従来の空調の目的は、室内を均一な気温に保つことでした。しかし今は、職場に男性も女性も外国人もいて、快適な温度が一人ひとり違います。さらにコロナ禍で、オフィスの役割が大きく変わりました。必要な時に必要な人が来て、メンバーとコミュニケーションをとる、創造や共創の場として機能するようになっています。

今、「Shinryo Innovation Hub」(茨城県つくば市)で、ウェルビーイングの最先端を目指す取り組みを進めています。4種類の空調方式を適所に導入し、1つの大きな空間の中に環境の異なる複数の場所をグラデーションのように作ります。温度、光、気流、匂い、外の雰囲気(半屋外というスペースもある)などが場所によって違い、人が自分の好きな所へ移動しながら働くABW+e(Activity Based Working + environment)というコンセプトです。空調の力でウェルビーイングな働き方、イノベーションの創出を支援しようとしています。

複数の空調技術を駆使し、1つの大きな空間内に環境の異なる場所を作る。
快適な空間を移動しながら働けるようにし、ウェルビーイングとイノベーション創出を支援する。

ウェルビーイングのカギは「柔軟性」と「自己裁量」

株式会社ヴェルデホーエンカンパニー
シニアワークスタイルコンサルタント / 日本カントリーリード
岸田 祥子 氏

「ABW(Activity Based Working)」というコンセプトを世界で初めて提唱した企業で、ウェルビーイングの実現に向けた働き方をコンサルティングしています。従業員の可能性を引き出し、組織の目標達成と社会価値の提供へとつなげていくことが目的です。

株式会社ヴェルデホーエンカンパニー
シニアワークスタイルコンサルタント / 日本カントリーリード
岸田 祥子 氏

コロナ禍でハイブリッドワークが普及しました。コロナ禍が落ち着いた後、世界の多くの企業がオフィスへの回帰を目指しましたが、従業員が抵抗し、「週3日出社、週2日在宅勤務」がスタンダードになりつつあります。つまり働き手にとっては、ハイブリッドワークという柔軟な働き方の方が、立派なオフィス環境や手厚い福利厚生に勝ったわけです。

ハイブリッドワークで重要なことは「出社するタイミングを誰が決めるか」です。ウェルビーイングに寄与するのは「柔軟性」と「自己裁量」です。ベストな働き方を自分たちで相談し、合意形成できることが求められています。

自分たちにとってベストな働き方を自分たちで合意形成できることが、ウェルビーイングにつながる

自分にベストな働き方をするには、自分の働き方を観察し、日々改善を続け、働くスキルの向上を図っていく必要があります。ABWとは「自分に必要な活動に基づいて働く」という意味です。自分にとって、いま何が最適かを自分自身で判断し、主体的に選択できる働き方のことを指します。

1日の仕事時間に応じて、オフィス空間をデザインする

株式会社イトーキ
スマートオフィス商品開発本部 ソリューション開発統括部
酒井 美帆 氏

新たなワークスタイル「XORK Style(ゾークスタイル)」を実践し、働き方とオフィス環境を一気通貫で提案しています。社員が自らXORK Styleを実践しながらお客様に提案する空間として、本社オフィスを「ITOKI TOKYO XORK」にリニューアルしました。

株式会社イトーキ
スマートオフィス商品開発本部 ソリューション開発統括部
酒井 美帆 氏

XORK Styleを支える2つのコンセプトは、「自己裁量をベースとしたABW」と「高い空間品質を示すWELL」です。まず、1日の仕事時間の割合を定義します。ヴェルデホーエンカンパニーの知見に基づいて「高集中」「コワーク」「対話」「二人作業」「アイデア出し」「情報整理」など、9種類の活動に分けて考え、1日の勤務時間の中で各活動がどれくらいの割合を占めているかを吟味し、どれくらいの割合を占めているか、どういった割合に変えていきたいのかをワークショップを通じて合意します。その結果に応じて、オフィスのレイアウトを決めていく仕組みです。

「高集中」「コワーク」「二人作業」「対話」「アイデア出し」「情報整理」など、働き方の時間割合を基にオフィスのレイアウトを設計

これに、WELL Building Standard™(※)に基づいて「空気」「水」「食物」「光」「フィットネス」「快適性」「こころ」という、ウェルビーイング空間を創る7つの概念を導入し、五感を通じてオフィス体験を大きく向上させます。

ITOKI TOKYO XORKでは、多数のセンサーを設置して人流データを収集しています。ワークエンゲージメントが向上した人は、オフィス内のどの場所をどう活用しているかなど、活動実態の可視化を進めています。

※International WELL Building Instituteが定めた建物・室内環境評価システム

リモートでも疎外感を感じさせず、公平に信頼関係を築ける環境を創る

株式会社ロジクール
執行役員 法人営業本部本部長
猪瀬 小里江 氏

コロナ禍の3年間で、働き方の常識が大きく変わりました。当社が2023年9月に20~30代の働き手に調査したところ、「82%がリモートワークを支持している」「オフィスでのフルタイム勤務に戻らなければならない場合、62%が離職を検討する」という衝撃的な結果を得ています。その一方で、リモートワークの普及によって「65%が同僚とのつながりの減少を感じている」という課題も浮上しています(Harvard Business Review、2022年1月)。

株式会社ロジクール
執行役員 法人営業本部本部長
猪瀬 小里江 氏

どこで働いても疎外感を感じず、誰とでも公平に信頼関係を築けるようにすることの重要性が求められています。それを実現することで、企業は優秀な人材を定着させることができます。スイスのローザンヌにある当社の研究所では、相手の目や表情、話し方、身ぶり手ぶりなど、非言語的なコミュニケーションを研究しています。その成果を活かし、会議室にいる人と、リモートから参加する人が、カメラ越しでも本物の信頼関係と一体感を築けるようにするための会議システムを提供しています。AIを活用し、対面によるコミュニケーションと変わらない世界を目指しています。

コロナ禍の3年間で働き方の常識が変化。リモートワークは優秀な人材をつなぎとめる重要な要件になっている

どこで働いても疎外感を感じず、誰とでも公平に信頼関係を築けるようにすることの重要性が求められています。それを実現することで、企業は優秀な人材を定着させることができます。スイスのローザンヌにある当社の研究所では、相手の目や表情、話し方、身ぶり手ぶりなど、非言語的なコミュニケーションを研究しています。その成果を活かし、会議室にいる人と、リモートから参加する人が、カメラ越しでも本物の信頼関係と一体感を築けるようにするための会議システムを提供しています。AIを活用し、対面によるコミュニケーションと変わらない世界を目指しています。

企業には、働き方の中に多様性を組み込んでいく責任がある

Neatframe株式会社
Japan Country Head
柳澤 久永 氏

2019年にノルウェーで設立された、新しいビデオコミュニケーションの実現を目指すスタートアップ企業です。最大の特徴は、会議室にいる人とリモートにいる人の一体感を大事にしたソリューションです。

Neatframe株式会社
Japan Country Head
柳澤 久永 氏

超音波で人を検出して背景ノイズを削減するマイク、人数カウントや物体認識、深度センシングを備えたカメラシステム、照明の状況を判断する環境光センサー、アイコンタクトを最適化する加速度センサーなどを駆使し、遠くにいる人と近くにいる人の表情が同じように見え、リモートにいる人が積極的に参加したくなるようなソリューションを目指しています。

特長として、天井からつったカメラとマイクが会議室にいる人が見ている方向を自動検出し、映像を切り替えてリモートにいる人に疎外感を与えない機能などがあります。

会議室の中心に置いたカメラとマイクが、人々の見る方向を検出し、映像を自動的に切り替える

最近は学校でもリモート学習の仕組みがあり、小中高校で生徒の10%以上が不登校であることが社会課題化していますが、リモート学習で中学校を卒業した後、高校からは普通に登校できるようになった事例もあります。色々な経験をしてきた人が社会に出てくる中で、私たちは働き方の中に多様性を組み込んでいく責任があると感じています。

PCは仕事のモチベーションを高めるアイテムに進化

VAIO株式会社
開発本部プロダクトセンター センター長
黒崎 大輔 氏

ソニーから独立して法人向けのPCに特化し、今年で10周年を迎えました。現在は販売台数の約8~9割が法人向けです。コロナ禍でPCに2つの大きな変化がありました。1つは「在宅勤務ニーズ」です。大きな画面、カメラやマイクなどが重視されるようになっています。もう1つは「PCという道具に対する意識の変化」です。在宅勤務をきっかけに、PCが働き方の質を決める大きな要素だという気付きを得て、必要最低限のPCではなく、より良いPCへの投資意欲が高まっています。

VAIO株式会社
開発本部プロダクトセンター センター長
黒崎 大輔 氏

これからのPCには、2つの価値が求められます。1つ目は「自由な働き方(ABW)の実現」です。例えばオフィス回帰の流れの中で、オフィスの中のさまざまな場所で業務やWeb会議を行うことが増えてきており、周囲に人がいる状態でビデオ会議をする場面が増え、AIノイズキャンセリング機能のニーズがさらに高まっていきます。2つ目は「働く気持ちを高める道具」です。ABWにおいてPCは働く環境の中心。オフィスという存在が働く人のモチベーションを上げる役割を持つように、PCも機能的な側面に加え、働く人をワクワクさせ、モチベーションを高めるという役割を通して、事業成長と働きがいの両方に貢献することが求められています。

これからのPCには「自由な働き方(ABW)の実現」と「働く気持ちを高める道具」という2つの価値が求められる

企業の健康経営を2つの取り組みで後押し

経済産業省
ヘルスケア産業課
山崎 牧子 氏

経済産業省が健康経営の推進を始めたのは、10年ほど前のことです。その数年前に、ヘルスケア産業課ができました。「持続的な社会保障制度構築への貢献」と、少子高齢化対応を日本のビジネスの柱にしていく「経済成長」、そして若いうちから健康に投資することで実現する「国民の健康増進」。この3つを同時に実現するため、当課でヘルスケア産業を後押しすることになりました。

経済産業省
ヘルスケア産業課
山崎 牧子 氏

その土台になるのが、健康経営です。かつては社員の健康維持をコストと考える企業が多かったですが、今日、社員の健康への投資は人的資本経営の柱であり、パフォーマンスを高める取り組みとして戦略的に実施されるようになっています。「健康」と「経営」がつながっている、という認識が広がっています。

健康経営を後押しする仕組みは2つあります。1つは上場企業向けの「健康経営銘柄」です。原則として1業種1社という形で選定しています。もう1つは「健康経営優良法人」です。健康経営度調査という180問くらいの調査票の回答内容を一定レベルでクリアすると認定されます。

ウェルビーイングについても言及した、健康経営の概要図を、健康経営研究会からお借りしてきました。経営者が倫理観に基づいて経営戦略に取り組むことで、従業員の働きやすさ、働きがいや生きがいにつながり、それが企業を成長させ、社会の発展につながります。これを目指して施策を展開してほしいと考えています。

健康経営の概要図。経営者の倫理観に基づく経営戦略を土台に、段階的かつ戦略的に実践することで、企業の成長と社会の発展に寄与する

日経BP 総合研究所
チーフコンサルタント 主席研究員
小林 暢子

最後に小林が「最新の知見を、業界・業種の境界を超え、このような形で共有できたことは、皆さんにとっても大変有意義だったのではないか、と推測されます。第2部では、皆さんの取り組みを踏まえ、さらに詳しいテーマについて議論していきます」と述べ、第1部をまとめた。

日経BP 総合研究所
チーフコンサルタント 主席研究員
小林 暢子

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