流通・小売業界でもAIの活用が現実味を帯びてきた。いち早くAIを活用して効率化や業務改革を行うことが急務となっている。2025年3月4日~7日に東京ビッグサイトで開催された「リテールテックJAPAN」では、流通・小売業界に山積している課題を解決する最新のテクノロジーが紹介され、7万5000人を超える来場者が自社のDXを深化させるヒントを得る貴重な機会となった。その中で日本マイクロソフトは、「Retail Ready」の名のもとで流通・小売業界に4つのソリューション領域を提案する。「Microsoft 365 Copilot」「Microsoft Copilot Studio」「Microsoft Dynamics 365」「Microsoft Azure AI」といったテクノロジーをベースに、業界へいかに新しい価値を提供するか、ブースと併設のミニシアターにて明瞭に解説。多くの来場者の注目を集めていた。本稿ではその内容をレポートする。

全米小売業界のイベントで発表、「Retail Ready」とは

AIがビジネスの世界を席巻している。流通・小売業界も当然例外ではない。AIが持つパワーをできるだけ引き出し、自社ビジネスの価値を飛躍的に向上させる大きなチャンスだ。また業界の課題は常に多い。新規顧客獲得・定着とコスト管理、離職率の上昇、サプライチェーンの信頼性担保、活用データの複雑化など。急激な変化の中で、直面する課題に対応できるかが、成長の分かれ道となる。

日本マイクロソフトはAIによる流通・小売業界のビジネス変革を強く後押しする。その柱は4つ。「購買ジャーニーの変革」「持続可能なアジャイルサプライチェーンの創出」「未来型の働き方の支援」「データの潜在能力の活用」である。

マイクロソフトは、流通・小売業界の AI による変革を様々な角度から支援できる

日本マイクロソフト
エンタープライズサービス事業本部 流通サービス統括本部
インダストリー・テクノロジー・ストラテジスト
佐藤 周治氏

日本マイクロソフトの佐藤周治氏は、2025年1月に全米小売業協会が開催した「NRF Retail's Big Show 2025」でマイクロソフトが、「Retail Ready」というテーマを発表したことを明かす。2025年3月、東京ビッグサイトで開催された「リテールテックJAPAN」の出展ブースにて佐藤氏が開いた、「Retail Ready ~AIと共創する新時代のリテール~」と題するショートセッションでの言及だった。

日本マイクロソフト
エンタープライズサービス事業本部 流通サービス統括本部
インダストリー・テクノロジー・ストラテジスト
佐藤 周治氏

マイクロソフトがテクノロジーをベースに推進してきた流通・小売DX。その取り組みの中に、グローバルでAIを組み込む準備ができたことを「Retail Ready」は意味する。今回の出展ブースでも、「Retail Ready」は全面的に押し出されていた。

リテールテックJAPANの日本マイクロソフト出展ブース

流通・小売業界は、消費者ニーズの多様化、人手不足、環境負荷への持続可能性、経済/市場/社会環境への対応など、頭を悩ませるテーマを複数抱えている。「AIを導入することで、生産性向上や顧客との関係強化、サプライチェーン効率化など、改革が進むケースが増えてきています」と、佐藤氏は説明する。新しい情報や選択肢、判断ポイントは次々と増えていく。これらにスピーディーに対応していくには、生成AIやエージェントAIの活用が必須となっているという。

消費者ニーズの多様化、人手不足、環境負荷への持続可能性、経済/市場/社会環境への対応といった課題に流通・小売業界は直面している。乗り越えるには、生成AIやエージェントAIの活用が必須だ

「NRF Retail's Big Show 2025」のキーメッセージは「Game Changer」。2023年にAIが「発見」され、2024年にAIが導入されるようになった。2025年はAIで成果を出す時期に来ていると佐藤氏は示す。

マイクロソフトでは「NRF Retail's Big Show 2025」のブースで「Retail Ready」に重要な4要素として「Shopper Journey」「Supply Chain」「Employer Retail Workforce」「Unlock Data」を挙げている。

「Shopper Journey」では、Dynamics 365 と Copilot によってコンタクトセンターを改善し、顧客体験を向上させる方法。「Supply Chain」では、流通拠点で現実とデジタルツインを組み合わせてスループットを向上させた事例。「Employer Retail Workforce」では、Copilot エージェントを使ってマーケター、マーチャンダイザー、サプライチェーンマネージャー、ストアオペレーターのそれぞれをサポートするデモ映像。「Unlock Data」ではデータ統合基盤である Fabric を使って、流通・小売業界でAI活用が容易になりうるデータモデルを作成できることを紹介したという。

最後にリテールテックJAPANの日本マイクロソフトブースで見ることのできる4つのデモを簡単に紹介した佐藤氏は「ぜひブースにもお立ち寄りください」と話し、ショートセッションを締めくくった。

適材適所で利用できるAIエージェントとは?

日本マイクロソフト
クラウド&AIソリューション事業本部
ビジネスアプリケーション統括本部
ローコードテクニカルリード & エバンジェリスト
ギークフジワラ氏

ブースでは他にも、流通・小売業界でAIを活用するヒントとなるショートセッションがいくつか行われている。

日本マイクロソフト
クラウド&AIソリューション事業本部
ビジネスアプリケーション統括本部
ローコードテクニカルリード & エバンジェリスト
ギークフジワラ氏

「Copilot Agent が様々な店舗業務の負荷を軽減 ひとつの画面で! Copilot Studio で実現するローコードカスタム自律型エージェントのご紹介」と題するショートセッションで登壇したギークフジワラ氏は次のように説明する。

「マイクロソフトは、様々な用途をカバーするAIエージェントプラットフォームを提供しています。Microsoft 365 Copilot は、個人向けのパーソナルアシスタントの位置付けで、Office 製品で行っている汎用的な作業を代替したり、Teams での電話会議をリアルタイムで翻訳したり、AIと対話しながら業務を進めることができます。Copilot Studio は、様々なITレベルの方がエージェントを作成しても良いように、セキュリティーや運用ツールがセットになったフルマネージドAIエージェント作成ツールの位置づけで、様々な業務に対応できる専門のエージェントを内製で素早くカスタマイズでき、作成したエージェントを組織や外部に共有できます。Azure AI は、プロ開発者向けのフルカスタムエージェントの開発プラットフォームの位置づけで、あらゆる用途に対応できます」

マイクロソフトは様々な用途をカバーするAIエージェントプラットフォームを提供している

Copilot Studio の説明に移ったギークフジワラ氏は、「Copilot Studio で作成した様々な用途のAIエージェントをUIとなるWebや Teams、Copilot に公開することで業務に必要なあらゆる専門知識を補ったり、タスクを実行してもらうことができると説明する。

例えば在庫確認の場合、Teams などの画面から問い合わせることで Copilot Studio のAIエージェントが即座に回答してくれる。同様に、注文状況や返品ポリシーの確認、トラブルへの対処方法、製品カタログの印刷なども、Teams などの画面から問い合わせるとAIエージェントが適切なデータベースから情報を示してくれる。データソースとしては SharePoint はもちろん、RPAなどの他社製品をつないで利用することも可能。このようにしてこれまで現場スタッフが様々なアプリケーションや手作業を行っていたことを、 AI エージェントと対話するだけで完結させ、人手不足やスタッフのトレーニング工数の削減、トラブルやお客様の声をリアルタイムに本部へ収集することができるのが魅力だ。

最後に「なぜマイクロソフトのAIなのか」という問いを立てたギークフジワラ氏は、その回答を次のように話す。「我々は、認証基盤やデータガバナンスに非常に力を入れています。Copilot Studio もその基盤上に構築されています。安心・安全・信頼できる環境で、包括的にAIエージェントを管理・利用し、自社の業務に合わせて組みこむことができます」。

「自律性」「目標指向」「高度な推論」がAIエージェントの特徴

「AIエージェントの進化が激熱! マイクロソフト社員が伝授するAI活用術」というショートセッションを行った日本マイクロソフトの鈴木敦史氏は、2025年のAIのキートレンドを「マルチモーダル・マルチモデルによる革新」と「エージェント化の加速」だと説明する。

日本マイクロソフト
シニア テクニカル アーキテクト
上智大学理工学部 AI・プログラミング講師
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術委員
鈴木 敦史氏

Azure 上には1800を超えるAIモデルが提供されており、より多くの業務での活用が可能だ。これまでは1つのAIモデルに膨大なデータを与えて回答を得られるようにしてきたが、より専門性の高い複数のAIモデルを使うことが現在の潮流と説明する鈴木氏。電気工事の配線図のような専門性の高い図面をAIモデルが読み取っていくデモ映像を披露し、配線図上の線の種類や本数、長さ、配置などをAIが正確に読み取ることを示した。

日本マイクロソフト
シニア テクニカル アーキテクト
上智大学理工学部 AI・プログラミング講師
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術委員
鈴木 敦史氏

これまではAIをクラウド上で使うことが一般的だったが、鈴木氏はAI技術を搭載した Windows PC の定義である「Copilot+ PC」を紹介する。Copilot+ PC は、CPUやGPUに加えてAIの処理に最適化されたNPU(Neural Processing Unit)というプロセッサーを搭載。デバイス側でAIを処理することが可能となり、通信遅延などのクラウド課題を解決できる。

具体的な活用例として鈴木氏は、Windows の「ペイント」を使ったデモを披露。「ペイント」には Copilot が搭載され、テキストのプロンプトで絵を作成したり、簡単に手書きした絵のクオリティを瞬時に高めることが可能となる。

鈴木氏はAIエージェントに話を進める。AIエージェントは人が入力した言葉に応答するだけでなく、AI自身があらかじめ立てられた目標に向かって自分で処理する「自律性」と「目標指向」があることに加え、AIエージェント同士が連携することで「高度な推論」が可能となるという。

上記3つの特徴を持つAIエージェントを活用することで、大いに効率化と創造性の向上が期待できる

マイクロソフトはオフィスワーカー向けの Copilot、ローコードでAIエージェントを開発できる市民開発者向けの Copilot Studio、開発者向けの高度な Azure AI を提供している。ここからは鈴木氏自身がどのように Copilot を活用しているかを紹介していく。

資格を取るための勉強をしていたという鈴木氏は、テキストを読み上げて Teams で文字起こしを行い、AI分析の機能で内容を要約していくことで勉強の効率を上げていったという。この要約を暗記するだけでなく、テスト形式で学習するために、Teams の文字起こしを基にテスト問題を Forms から Copilot を使って作成していった。これはアンケートや質問票などの作成にも活用できるという。テスト問題を自動的に作成するAIエージェントを Copilot で作成し、部門やチームで共有することも可能だ。

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