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自分の細胞から再生臓器をつくる バイオテクノロジーが切り拓く「未来の医療」 オールジャパンのものづくりで目指す新たな医療のカタチ 自分の細胞から再生臓器をつくる バイオテクノロジーが切り拓く「未来の医療」 オールジャパンのものづくりで目指す新たな医療のカタチ

2026.02.20

体調の変化を感じる前に、日頃から身に付けているデバイスが病気の兆候を察知し、発病する前から治療を開始できる医療環境。自分自身の細胞からつくられた再生臓器を使用することで、ドナーを介さない新たな移植医療。個別化医療のさらなる進化により誕生した、自分自身の身体にとって最適化された専用薬。バイオテクノロジーの進化は、どのような医療を可能にするのだろうか。また、現在はどこまで実現されているのだろうか。独自のバイオ3Dプリンターで再生臓器を作成するスタートアップ企業、サイフューズの挑戦をベースに、「未来の医療の今とこれから」を紹介しよう。

「様々な治療選択肢が示され患者が適切に選べる」、
未来の医療が動き出す

2025年4月から半年間にわたって開催された大阪・関西万博の中でも、未来のヘルスケアや再生医療などの可能性を発信して注目を集めた「大阪ヘルスケアパビリオン」。その2050年の未来都市の一角に設けられた「未来の診療室」では、人間の体内の細胞を加工して製造した「再生臓器」を病気やけがの治療に用いている未来の再生医療の世界が描かれた(図1)。

未来の診療室では医師と患者がリモート対話していて、そこから、細胞を培養加工する自動装置やバイオ3Dプリンターなどの未来の医療デバイスが見え、患者自身の細胞など患者に最適化された材料から自動的に加工された組織・臓器や治療薬が製造されるプロセスを目にすることができる。そこでは、患者は医師から示された治療法や処方された医薬の提供を受けるだけでなく、自らの体に移植される臓器や治療薬が出来上がる工程を確認したり、科学的根拠やリスクなどの様々な医療情報にアクセスしたりしたうえで、複数の選択肢のなかから自身で治療を選べる。これが「未来の医療」の一つのイメージだ。

(図1)大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで公開された「未来の診療室」のイメージ(写真提供:サイフューズ)

身に着けたデバイスが日々の体調をリアルタイムに解析し、人工知能(AI)が食事や運動の提案をしてくれる。身体に関する情報は医療機関にも常時共有され、体調に異変が起これば医療機関がそのリアルタイムデータをもとに、即座に、的確な診療を提供する――。未来の医療現場では、こんな風に、現在の自宅にいながらのリモート診察も未来型に進化しているかもしれない。そのような未来都市では、多くの選択肢から自身の生活環境や価値観などと照らし合わせて、食品や日用品、ひいては医薬品をも選べる、日常生活に溶け込んだ未来の医療がきっと実現しているだろう。

自分の細胞で移植用臓器を作成、
支えるのはものづくりの力

そんな未来の医療を実現するキーテクノロジーの一つとして期待されているのが、バイオ3Dプリンティングである。患者自身の体から採取した自家細胞のみを材料とし、他の物質や添加物を混ぜず、クリーンな環境下で臓器や組織を作成する技術である(図2)。

大阪ヘルスケアパビリオンの協力企業として参画し、「未来の診療室」で現在の「バイオ3Dプリンタ」のさらなる進化系を公開したサイフューズの取締役CFO 三條真弘氏は、「こうした再生医療の取り組みはすでに研究開発の域を越え、実装段階へ歩を進めている」と説明する。

図2 サイフューズによるバイオ3Dプリンターを用いた先端医療への取り組み(資料提供:サイフューズ)

患者本人もしくは他人の細胞・組織を加工(培養)した上で、失われた組織・機能を再生・修復する再生医療。その歴史は1970年代まで溯るとされているが、近年は京都大学の山中伸弥教授が人間のiPS細胞作製に成功し2012年にノーベル賞を受賞するなど、日本の再生医療は、特に世界的にも注目を浴びることになった。

サイフューズの取締役システム開発部長 徳永周彦氏は、「再生医療の現在地はちょうど「医療×製造業」の交差点にある。バイオ3Dプリンターによって、移植医療に用いることのできる再生臓器を製造できるようになった。今後、再生医療の産業化を進めていくには、数量の担保と品質の均一性、生産能力、標準化、コスト最適化といった製造業が本来的に有する様々な課題に着実に取り組んでいくことが重要になる」と話す。

今後の製造業への発展において重要なのが「日本のものづくり」の結集である(図3)。現在は、それぞれが別個の工程として存在している細胞の保管、培養、加工、保存、搬送などの製造工程を、各分野に強みを持つ企業群との連携によりサプライチェーンへと統合する。その中で、三條氏は「サイフューズの役割は、バイオ3Dプリンターの開発・販売、あるいはその研究技術の提供だけではない。細胞加工関連機器の開発や製品製造工程の機械化・自動化へ向けた技術応用・新技術開発など、パートナー企業とともに、基盤技術の拡大普及と再生医療分野の成長発展を担っていく」と述べる。

図3 患者へ臓器を届けるまでのオールジャパンの取り組み(資料提供:サイフューズ)

現在、サイフューズでは、血管・神経・軟骨といった機能的に比較的シンプルな組織に焦点を当て、管状の構造体をプリントし、移植後に生体内で自家細胞に置き換わりながら機能を獲得するアプローチが行われている(図4)。末梢神経に関しては、3Dプリンターで作成したものを患者へ移植し、治療効果を上げることにも成功している。これまでの移植医療のような、ドナーから提供された臓器を移植するという以外にも、体外でバイオ3Dプリンターを使って作成した立体的な細胞構造体を体内へ移植することで再生臓器として機能する方法が生まれつつあるわけだ。

(図4) サイフューズが再生医療分野で製品化を目指す3つのパイプライン(資料提供:サイフューズ)

セルバンク、機能性細胞デバイスへと
広がる関連ビジネス

とはいえ、ドナーを介することなく人体の外で臓器そのものを製造して移植する、新たな再生医療実現へ向けた道のりは決して平坦ではない。そもそも、一般に「臓器」という言葉からイメージされる、大型で複雑な機能を有する臓器そのものの作成は技術的難度が高い。それが実際に移植して機能する再生臓器となると、技術革新に加えて、臓器そのものの仕組みや疾患メカニズムの解明など、今後の研究の成果に委ねる部分も大きくなってくる。

現在地としてこの領域では、様々な研究機関や企業がヒト細胞の活用に着目した研究を進めている。例の一つが自分の細胞を医療機関などに預けておく「セルバンク」である。自分の細胞を採取・培養して預けておけば、いざという時に自分専用の材料としてすぐに使える、治療薬も自分の細胞を使って事前に効能などを確かめたうえで用いることができるなど、未来の医薬品の材料としてヒト細胞が持つ可能性は大きい。

サイフューズの2030年に向けた取り組みで注目したいのは、健康寿命の着実な延伸という現代の大きな社会的課題へのチャレンジだ。そこで鍵となるのは再生医療向けの細胞製品とはまた別の、「機能性細胞デバイス」である。一例が、臓器が有する機能を体外で再現した「ヒト3Dミニ肝臓」などのアプローチである。

細胞を加工して生み出される新たなアプローチによって、肝臓や脳のようにその構造や機能が極めて複雑な臓器の再生や機能回復の仕組みを解き明かし、そのメカニズム解明に向けた研究が進展することも期待される。さらに先の未来には、アルツハイマー病やパーキンソン病といった現代の難病の治療に寄与する道が拓けるかもしれない。

さらに細胞加工技術の進歩は、現代医療を取り巻く社会的課題である動物実験の低減や医薬品の研究開発の効率化などに直結するだけでなく、化粧品や食品などのヘルスケア分野を含む広義のライフサイエンス分野の製品開発にも波及効果をもたらすことも期待される。

先端テクノロジーによる社会的課題解消への挑戦という意味では、このようなバイオテクノロジーが生み出すさらなる可能性、例えば、コロナ禍の経験を活かし、将来のパンデミックに備えて呼吸器などのシミュレーションでウイルス制御の条件出しを迅速に行い、海外依存のワクチン調達に伴うボトルネックを回避する国産プラットフォームとして機能させることもあり得るかもしれない。

さらにその先の2050年に向けても、再生医療の取り組みが進んでいる。「現在の再生医療分野での生産能力の拡大や工程の標準化、コストの最適化といった製造を中心とした課題に取り組みつつ、安全性を基軸に据えた高水準での製品開発の先には、国内から海外への展開がある。現地規制への適合、現地での製造体制、流通設計まで含めた世界展開を視野に入れた「日本発・世界初の製品」の創出を目指し、オールジャパンでチャレンジしていきたい」と三條氏・徳永氏は述べる。

未来の医療の実現に向けた目標は、バイオテクノロジーの追求ではない。臓器移植や未病、創薬、食品開発、パンデミック対策までを束ね、誰もが平等にアクセスできる社会インフラを築くことである。「現在は先端医療と捉えられている治療が、テクノロジーの力でより身近な「医」として人々に平等に存在している未来社会の実現に貢献したい」と、三條氏は未来の医療像を描いている。日本独自の強みである安全な医療、精緻なものづくり、国民皆保険を核に、ユニークなバイオテクノロジーの普及を加速させることで、再生医療が特別な治療ではなく、日常生活の中の身近な存在になっていくかもしれない。

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