【座談会参加メンバー】

日本総合技術株式会社
代表取締役社長
大西 貴広氏

TOPPANデジタル株式会社
事業開発センター
LOGINECT事業開発部
部長
諸井 眞太郎氏

パナソニック ホールディングス株式会社
DX・CPS本部 事業開発センター
Nessum部 部長
荒巻 道昌氏
2026.02.10
バーチャルとリアルが連動し、AI・IoTが、意識せずともそこに存在し得る世界。目前に迫るこの新しい「当たり前」を支える、どこからでも「つながる」技術の社会実装を日本から世界に広げるべく、「Nessumアライアンス」が活動をさらに加速させている。今、そして今後、Nessumはどのように社会のAI・IoTインフラを支えるのか。そのポテンシャルは? 旗振り役のパナソニック ホールディングス (以下、パナソニックHD)とアライアンス会員が、その取り組みと、今後の可能性について議論した。
(モデレーター:日経BP 総合研究所 所長 河井保博)
【座談会参加メンバー】

日本総合技術株式会社
代表取締役社長
大西 貴広氏

TOPPANデジタル株式会社
事業開発センター
LOGINECT事業開発部
部長
諸井 眞太郎氏

パナソニック ホールディングス株式会社
DX・CPS本部 事業開発センター
Nessum部 部長
荒巻 道昌氏
——みなさんはこれまで、どうNessumに関わってきましたか。
大西 私は東京電力を退職して2008年に会社を立ち上げましたが、前職の頃は電線を持っていること自体が優位と考え、首都圏の通信インフラの一翼を担うべくオール電化と電力線通信(PLC)の組み合わせに期待していました。冷蔵庫や洗濯機など家電を含むさまざまなモノの通信を、電力線で一本化できるのではないかと。
一方で独立前後には、あらゆるものをインターネットにつなげるユビキタスネットワークが注目されていました。しかし当時の通信はまだADSLが主体。帯域自体が非常に脆弱でWi-Fiもつながりにくく、ユビキタスネットワークの基盤となるIoTの実現には難しい環境でした。今は状況がまったく違います。PLCが発展した、新たなブランドであるパナソニックHDの「Nessum(ネッサム)」はノイズ抑制や速度向上の工夫が効き、同軸線や電話線にも展開できます。
諸井 凸版印刷(当時)で新規事業のマーケティングを担当することになり、出会ったのがLPWA(Low Power Wide Area)でした。低消費電力で、マルチホップによってデータを長距離につなぐZETA規格に可能性を感じてきました。2018年には、LPWAがまだ浸透していない中で「ZETAアライアンス」を立ち上げ、工場や自治体、スマートシティ、物流現場などでの課題解決に関わる取り組みを進めています。
Nessumは実際に使ってみて、他の規格より通信が安定している手応えがありました。パナソニックHDの特殊な「マルチホップ技術」を生かす事業開発の面白さを感じたので、Nessumアライアンスにも関わるようになりました。
荒巻 私はパナソニックの研究開発部門にてソフトウェアエンジニアとしてキャリアを積み、その後、通信技術の責任者としてシリコンバレーのベンチャー投資部門に席を置き、新しい通信技術の調査や探索に関わりました。そこでWi‑Fiなどの規格化の現場に入り、IEEEの標準化にも携わりました。その間、日本ではNessumのベースになったPLCが立ち上がったのですが、当時は規制緩和が進まず苦戦していました。
そこで米国で実証を重ね、帰国後にNessumの前身であるHD‑PLCの規格化と事業戦略を推進しました。以後20年以上、パナソニックHD内外のパートナーと連携しつつ、ZETAアライアンスとも協調してNessumを育てています。
——2050年という未来を見据えた時に、Nessumによってどのような社会が描かれるのでしょうか。
大西 将来、IoTやAIは、特に意識されることなく当たり前に存在するようになるでしょう。そこでは、どこでもセンサーが動き、データがデジタルツインなどバーチャル世界に同期され、リアル世界とも連動するようになります。新規にこうした環境を構築するなら最初から設計できますが、膨大な既存施設をどうレトロフィットさせるかが課題になってきます。
そこでNessumが力を発揮します。電気は必ず、どんな施設にも来ています。その系統を使えば、壁の中や天井裏に新たな線を通せない現場でも、ローカルネットワークとセンサー群をつなぐネットワークが組めます。それによって、今後は都市におけるビル管理業務も個別管理からセンサーを使ったエリア集約管理へ移行し、個々のビルには人を置かず、異常が発生した時だけセンターから人が出向くようになると思います。
工場の場合も、構内に防護壁がたくさんあって新たに配線できないんですね。さらに、機密事項が多くて自由に工事できないとなると、今入っている線を利用するしかない。Nessumなら、どんな工場にも必ず入っている電力線を使って情報をやり取りできます。IoTセンサーから送られるデータの可視化、EMSとの連携など、既存のネットワークと連携してさまざまなデータ活用につなげられるでしょう。
諸井 将来は工場も、人材不足によってワンオペに近づくと思っています。IoTによって収集されたデータによって、AIエージェントが点検・需給調整・品質監視の勘所を提示し、自律移動ロボットが現場を走る。既に弊社の工場でも、点検時間の劇的削減やユーティリティのロス削減は実証済みです。可視化の先の自動是正が進めば、少人数でも高い安全性と生産性を両立できます。
荒巻 Nessumならば今はネットワークが届いていない、例えば海中通信のような未開領域にも展開できる可能性があります。日本の携帯電話網は人口の99%をカバーしているといわれますが、海外では都市部を中心に構成され、まだ電波が届いていない地域が多く残っています。Starlinkを用いる手段もありますが、森があったりすると難しい。取り組むべき領域と思ってます。
通信を使った完全自動運転や広域防災を今後実現するには、さまざまな場所・環境でセンシングしたデータを集める必要があります。そのためには、衛星通信、地上の既存通信を組み合わせていくことになりますが、そこでも隙間を埋める中間層の通信が重要になるでしょう。Nessumが「隙間を埋める」役割は今以上に大きいのではないでしょうか。
——今後、人手不足の対策としてロボットが社会に溶け込んでいくことになります。こうした観点でも、Nessumの活用範囲は広がるのでしょうか。
大西 そう思います。例えば建物の中をロボットが自在に移動できるようにする道が必要になるからです。日本の建物は立体移動が前提ですが、ロボットにとってはエレベーターがボトルネックです。強いノイズの影響で、かご内での通信が極めて不安定になります。そこで多段式フィルターなどを設計し、Nessumでエレベーター内にインターネット環境を構築する実証を重ねました。これでいかなるメーカーの機種でも通信が確立でき、ロボットがエレベーターで上下のフロアにも移動可能になります。新しいサービスの提供にも役立つでしょう。
荒巻 車載やロボット内部の神経と血管も、省線化の余地が大きいと思っています。ハーネスを減らせば、軽量化・故障点の削減に効く。法規制や安全基準との整合は必要ですが、2050年までのスパンで見れば、技術と制度の両輪で解を作りにいける領域です。
諸井 国内外の社会課題に、技術で応える視座も重要です。日本発の現場知見とIoTの積み合わせは、世界中の「人の手が行き届かない場所」でこそ力を発揮する。NessumもZETAも、最終的には人がいなくても回る社会の運用設計に寄与してこそ意義があると思います。
——現状でNessumやZETAなどの通信技術が、なかなか市場で広がっていない、もしくは市場が広がりにくい原因はどこにあるとお考えでしょうか。
荒巻 「どこからでも通信ができるようになります」と正面から訴えても、あまり関心を示してもらえません。むしろ、電力線と通信線の一体化による省線化や軽量化、施工や運用の複雑さの低減といった付加価値が大きな意味を持ちます。9割のエリアを通信は今でもカバーできている。でも残りの1割も通信エリアに加えると、何ができるのか。ここを語っていくことが必要でしょう。
諸井 まずはZETAを社内で普及させようとしましたが、テクニカルな特性を並べても浸透しませんでした。そこで、サービスパッケージとその事例を作っていくことに注力しました。例えば、日本の工場は建屋が分散して無線が通りづらい。中継機でエリアを拡張できるZETAの強みを生かし、屋内外を跨ぐアプリケーションを開発しました。見回り時間の削減、電力量の可視化、電力プラン見直しのエビデンスなど、リアルな効果を示すことで、これだったらお客様に提案できると認知されるようになりました。
お客様から「課題解決にこの技術を使いたい」などと指定されることはありません。どんな技術であれ実際にどういう効果が出て、どう役立っているのかを知りたいのです。
——技術的もしくは制度的な壁については、どうですか。
大西 日本の電波法ではNessumは2〜28MHz帯しか使えず、最大速度が約70Mbpsに制約されることがボトルネックです。一方、長距離通信が可能という強みもあります。仮に、将来的に今の地上デジタルテレビ放送などで使っている500〜600MHz帯などの通信への再割当てが実現し、その帯域を使った高速のNessumと併用できれば、マンションやビルのインターネットも電気系統一本で張り替えられ、新築時に照明系統だけで全域通信が可能になります。
とはいえ、電波法改正は難所です。放送や既存無線との調整を、業界全体の総意として粘り強く進めるしかないと考えています。
荒巻 法整備は他にも遅れがあります。たとえば日本はDC配電に関する法体系が未整備で、電圧上限も海外に比べ低めと、制約が多い。一方、船舶のように業界連携で使える範囲を広げた例もあります。地道に適用範囲を拡大し、特区など制度の柔軟性も活用しながら前進させる必要があるでしょう。
——お客様の困りごとを探しながら、Nessumで課題解決の提案ができるパートナーづくりも必要ですね。
荒巻 既存の通信のアップグレードに関しては、決定的なトリガーが必要だと思っています。セキュリティーの向上であったり、通信速度の向上によって付加的なサービスが可能になることであったり。ただし、そこまで理解いただくには、誰かに先鞭をつけて成功してもらうことが非常に重要。だからこそパートナー選びも、かなり深い部分まで一緒になってやり遂げられることを重視しています。
一方で、通信の技術と電力の技術は資格も違うので、電力の方は得意だけど通信の方は苦手とか、その逆もあります。我々が効率よくサポートすることが鍵になると思います。
大西 例えば、NTTさんは電力の部分は専門外ですし、電力会社さんは光ファイバーの方に向いています。ゼネコンから宅内工事を請け負うサブコン事業者も、NessumによってLANケーブルを施設する作業がなくなると、利益が削られてしまう。ですから、弊社も含めてNessumアライアンスのメンバーで、まずは事例を作っていく。さらに、サブコンがNessumを使うことで、新しく副次的な利益が得られる仕組みを作らないといけないと思います。
諸井 もともと通信分野に関わってきたZETAアライアンスのメンバーが、それだけではなかなかスケールしないので、デベロッパーと一緒にビジネスを始めました。すると、ZETAのマルチホップ機能を活用して例えば20階建てのビルでも、1つのアクセスポイントで全体をカバーできるようになりました。これを契機にBACnet(Building Automation and Control Networks)などいろいろと勉強され、ビルディング分野に注力していくことで、今や開発も含めて以前よりも大きな仕事に関われるようになった。業種、職種を越えたパートナー連携は多くの面で有効です。
——社会課題の解決には、どのような通信技術が必要になるのでしょうか。
諸井 私どもはNessumとZETAという2つの通信技術に関わっていますが、無線であれ有線であれ、長短を組み合わせてどうお客様に価値を提供するかが本質と考えています。例えばZETAカメラソリューションでは、IoTカメラでLTE通信を利用しながら、LPWAで送信可能なデータにおいては、ZETAとSigfoxの通信を組み合わせてアプリケーション上でデータの推移を見せる。更に、上流のネットワークでは衛星通信とも組み合わせれば、日本国内だけでなく、アフリカのような土砂災害リスク地帯での傾斜センサーやため池監視など、グローバルの社会課題にも応えられるでしょう。
大西 インフラの老朽化と人手不足は待ったなしです。NTTさんの光ファイバーの微振動検知で水道管の異常を察知するように、既存インフラにセンサーや解析を重ねていく発想が重要です。地方の通信撤退が進む現実も直視し、行政がStarlinkと非常用電源のパッケージをBCPとして備えるといった設計も必要でしょう。Nessumは電気が来ている限りは線を増やさずに通信路を作れるのが強みなので、都市でも地方でも、既設の分電盤を情報ハブに変える設計もありえます。
荒巻 実証で裏付けを積み上げ、媒体も巻き込んで成功事例を広げることも必要です。既に下水道管、地下の洞道やトンネルなど、無線が届かない施設において、老朽化の監視や検査、点検作業者の安全モニタリングなどのために、Nessumを活用した実証が進みつつあります。こういった取り組みをさまざまな媒体を通じて積極的に紹介し、広く知っていただく努力が重要と感じます。新たな法整備の必要があれば、実験局や様々な制度を使って一つずつ実証と検証を増やしていくしかありません。
——最後に、今後の展望をお聞かせください。
大西 次の世代が、安心して暮らせる社会をつくりたいと考えています。そのために、2024年問題や2030年の高齢化ピークといった日本の難局に、テクノロジーミックスで挑みます。電気が来ている限り、どこでも通信できるNessumの可能性を、現場とともに形にしていきたいと思っています。
諸井 インフラの力で社会を支える、という軸足は電気から通信へと広がりました。IoTに必要なのは「何キロ飛ぶか」ではなく「何を良くするか」です。現場の課題解決と通信技術をつなぐストーリーで、価値ある事例を積み上げていきます。
荒巻 日本発の規格を世界の標準にするために頑張ってきた成果を、次の世代が引き継いでさらに前へ進めるようにしたいと思っています。無線でも有線でも、使えるメディアはすべて使い、その隙間をNessumが埋める。標準化と実装の両方で、地道に、しかし確実に前進させます。


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