これからの25年、
社会構造の変化とともに街のつくり方が変わる
――まずは2050年に向けた都市や社会の姿を立体的に捉えていきたいと思います。
安達 2050年の日本社会は「成長」を前提に語れなくなります。建築のストックは蓄積されているものの、これからの25年間は社会構造が大きく変化し、人口減少や高齢化によるひずみが表面化してくるでしょう。建築の大きな役割は、そのひずみをソフトランディングさせること、クッションとなって和らげることにあります。具体的には、サーキュラリティ(資源が繰り返し利用され、その価値が維持される概念)が鍵を握ります。
金子(公) 確かに25年後を考えると、建築やものづくり、物流も含めて、資源枯渇を前提にしたアプローチが必要ですね。今は新品の材料を使って建物や街をつくれますが、将来は壊して廃棄するのではなく、建物からマテリアルを取り出して再び使う方法が当たり前になるかもしれません。
小室 人手不足が進めば、清掃やメンテナンスはロボット化、デジタル化が当たり前になると思います。ただ、結局すべては電気依存であり、AIもロボットも電気が止まれば動かなくなってしまう。だからこそ、発電だけでなく蓄電できるファサードなど、電気インフラを備えた建物の価値が高まるはずです。構造や形より設備を軸に組み立てるような、建築やデザインのヒエラルキー自体が変わり、面白い建物が生まれる可能性もある気がします。
小堀 私は今、東京の吉祥寺で武蔵野公会堂の改修に関わっています。そのプロジェクトでは減築や用途変更など、小さな改修を重ねて建物を再編する提案をしました。ゼロベースで壊すのではなく、街の“ほつれ”を編み直すアイデアです。吉祥寺は小さな更新を積み重ねてきた街で、その物語こそが都市の力だと感じました。これからは大規模再開発一辺倒ではなく、小さな再編を連続させる点と線をつなぐ分散型の再編、すなわち物語を紡ぐ都市づくりが重要です。
津川 1960年代から2000年にかけては大きく変わりましたが、2000年以降は都市構造がほぼ飽和しています。その中で、私は道路に着目しています。日本人はもともと、道を交流の場や出会いの場として捉えてきました。『万葉集』の時代には「道」を「美しいに知る」で「美知」と書いていたそうです。道は箱物の外にあり、目的や予測を超えて人と出会える貴重な場所です。今は道路交通法下で管理されていますが、道をもっと開放すれば都市はもっと豊かになると私は考えています。
まちづくりでも「循環」と「経済」は
もはや切り離せない
盤指 これからのまちづくりでは、循環経済への貢献がもっと大きな価値を持つようになると思っています。ガラスはこれまで水平リサイクルされにくい素材でしたが、最近は建て替え時にガラスを再利用したり、カレットにして再び建築用ガラスに戻したりする動きが出てきました。紙と異なり、ガラスは溶かしても品質が落ちません。パナソニックHDと協業しているガラス型ペロブスカイト太陽電池でも、つくり方やコストだけでなく、50年後のリサイクルまで開発段階で考えています。このように企業の開発現場でも、循環を前提にした意識が確実に芽生えてきました。
金子(公) 具体的にどんな取り組みをされているのですか。
盤指 既存の汎用的なリサイクル手法を前提にしています。将来的には現在の太陽光パネルのリサイクルシステムの中に、ペロブスカイト製品もそのまま循環できる設計にできればと考えています。
金子(公) おっしゃるように、これからは循環と経済の概念は切り離せません。売り切りモデルのままでは真に「循環」といえるものにはならないと考えています。そのためには壊れないと新しいものが売れない構造自体を変える必要があります。Product as a Service(PaaS)のように、ガラスを置き換える際に買い取りや回収まで含めて設計する視点は重要です。ペロブスカイト製品も売り切りではなく、メーカーが所有し続け、最終的に自社製品を自社資源でつくり直す。資源枯渇が現実になる時代を考えると、企業の持続性としても合理的です。
藤田 脱炭素に取り組むには現状コストがかかる事象も多く、なかなか理解を得られないケースがあります。そんな時、私はよく、「未来の子どもたちのためにやるんだ」と話しています。地球は祖先から受け継いだものではなく、未来の子どもたちから借りている。だから今できることを、少しずつでもやる。ゼロを1にすることが大事なのです。今の発電量は数キロワットでも、ゼロではないことに意味があります。自ら再生可能エネルギーを創り出す、創エネにはコストがかかるケースが多いのが現実です。それでも社会課題を解決するために私たちはさまざまなことに取り組んでいます。
あと5年、10年もすれば、いわゆる環境価値という証書を買って「脱炭素に取り組みました」とは言えなくなる時が来るでしょう。それまでには、民間企業は積極的な創エネにもっと動き出すはずです。今は、そういう環境づくりに向けて、デベロッパー同士が一緒になって取り組むべきフェーズに来ていると思っています。ペロブスカイト製品が、その連携のきっかけになることを期待しています。
創エネを諦めていた都市に一石
発電ガラスを「人を集める設備」に
ここからは実際に、パナソニックHDのガラス型ペロブスカイト太陽電池を見ながら会話が進んでいく
金子(幸) 我々の本来は電機メーカーですが、あえて建築の領域にはみ出そうとしています。10年前の太陽光発電は、設備投資で生じたマイナスをゼロに戻すものでしたが、今はこの「ゼロをプラスに」したいというお客様が増えてきました。法律や社会要請で省エネ・創エネが求められる一方、都市部では「やりたくてもできない」現実があります。一方で、この“プラス”は、電気代だけで語られるものではありません。事業の安定やレジリエンス、取引上の信頼、評価や資本の視点まで含めて、企業価値に前向きな効果を積み上げていくという意味です。政策や市場の流れがそちらへ向かう今、こうした取り組みは経営にとって自然で戦略的な選択になりつつあります。経営者の方々からも「社会のために」に加えて、成長投資として前向きに進めたいという声が聞かれるようになりました。
ここからは実際に、パナソニックHDのガラス型ペロブスカイト太陽電池を見ながら会話が進んでいく
屋根に置けないなら、窓や壁、バルコニー等でできないか。1つの解決策としてガラス型ペロブスカイト太陽電池に取り組んでいます。創エネを諦めていた都市に、一石を投じたいという思いからです。当社のガラス型ペロブスカイト太陽電池は、建材として使われている窓ガラスをそのまま太陽電池にするという発想です。屋根の見えない場所に載せる太陽光パネルとは違い、あえて“見える場所”に入れていきます。窓ガラスになる以上、デザイン性や透過性は欠かせませんし、太陽電池用の特殊なガラスでは使いにくい。ですから建材用ガラスそのものに発電機能を持たせ、建築基準法の強度などもそのまま満たす形にしています。
重視しているのは、頑張りすぎず、街に自然になじみながら発電できること。大規模な工事で自然を壊すのではなく、小さな改修で発電を組み込める可能性を広げ、「建物そのものが発電所になる」街を目指しています。
街中の建築用ガラスを発電機能付きの建材に置き換えていければ、都市部から自然に電気が生まれ、炭素税や排出量取引といった課題にも貢献できる。電気代だけではない価値が回り始めることで社会全体が得をし、次の世代につないでいける街になればと思っています。
盤指 当社AGCには建材一体型太陽発電ガラス(BIPV)事業で培ってきたノウハウがあり、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の開発でもさまざまな知見を生かしながら開発を進めていきます。ただ、当社が現在展開しているBIPVは結晶シリコンを用いており、いかにも太陽電池という見た目で、建物のビジョン部に大々的に設置することは意匠上難しい認識でした。しかしガラス型ペロブスカイトには透過性があり、デザインの自由度も高い。ここが、社会受容性が変わる転換点になるのではないかとの感触を持っています。
小堀 まず思ったのは、デザインの自由度が高いことです。ファサードを考えるときに、最初から協業しながら一緒につくっていけるのは大きい。もう1つは、ユニット化すれば建材に限らず都市インフラとしても使えそうだという点です。手すりやブリッジなど、用途はかなり広がると思います。外壁だけでなくペリメーターゾーンの内側、例えばオフィスのパーティションのような建具的な使い方もあり得ます。デザインと機能をミックスしながら、かなり柔軟な展開ができそうですね。
中村 私たちの製品は、まず既築・新築の内窓・フェンス・バルコニーなどの用途でご利用いただきながら、価値の認知を広げていきます。その先には、現在の窓ガラスを置き換えることを目指しています。こうした取り組みにより、脱炭素社会への貢献インパクトをさらに大きくしていきます。
世の中に存在しない新しい製品を社会に普及させるためには、段階的なステップが不可欠です。いきなりすべてを変えるのではなく、用途を広げながら進化を重ねていく。その積み重ねの先に、私たちは未来があると信じています。
小室 現実的に考えると、まずは既存のガラス壁の内側に、後付けでパネルをはめるところから入るのが一番普及しやすそうですね。無理に透明性を求めるより、スパンドレルや金属外壁のような閉じた面でしっかり発電して、窓面にはブラインド的に部分使いするほうが合理的ですね。方角や光の当たり方に応じて、閉じた面でも発電できる意匠パネルとして展開できれば、屋根や外装全体に広がる。そうなれば意匠としても導入しやすく、可能性は広がると思います。
津川 道路上の工作物としても使えそうですね。夏は直射日光を遮りながら発電し、その電気を沿道に供給する。冬は自家発電した電気でヒーターを入れて、寒さで人が減る屋外空間を支える。真夏日や真冬日に人がいなくなることで苦しんでいる沿道のテナントも多いので、発電ガラスをインフラ的に使えれば、都市の公共空間をもう一度人が集まる「場」にできるのではと感じました。
コンセントがある場所に若者が集まるように、電気をつなげる「場」を人は探しています。それならば発電ガラスのような設備を、人を集めるためのインフラとして使えるのではないでしょうか。電気インフラそのものが人を引き寄せ、街の使われ方を変える装置になるポテンシャルは十分にあります。
藤田 ある再開発の案件ではオンサイトで発電することを求められています。ですが、超高層の物件では設置場所が限られますし、屋上に太陽光パネルを載せるのは不安もあります。そこで、建物同士をつなぐ通路等に屋根を架けて発電してはどうかと考えています。ガラス型ペロブスカイト太陽電池によって木の葉のようなルーバー状の屋根にすれば日よけにもなり、発電もできる。ヒートアイランド対策とも相性が良いですし、エネルギーを生みながら人と街をつなげられれば理想的です。
安達 先ほど金子さんがおっしゃっていた、建築の領域にあえて「はみ出そうとしている」という言葉は、本質的だと思いました。新しい技術の場合、議論は「既存の枠の中での置き換え」に寄りがちですが、意図的にボーダーを壊す方向に振り切ると、ストーリーとしてぐっと広がっていきますね。ガラス型ペロブスカイト太陽電池の価値は、建材か設備かといった境界を越えて、新たな使い方や都市像を描けるところにあると感じています。
金子(幸) 今日は本当に、多くのヒントをいただきました。これまでの当社のものづくりは工場で完成させてから届ける形でしたが、今は「開発途中でもどんどん出していこう」と考えています。ビジネスのやり方や、ものづくりのボーダー自体を越えていきたいと思っています。