センサーやAIを活用して
安全な道路を作る
道路に関連した社会課題の一つは、自動車社会の発展とともに交通事故が増えたことだ。交通事故ゼロの社会に向けた大きなムーブメントとして自動運転があるが、それとは別に、道路自体をスマートにして交通状況を監視し、事故を防ごうという考え方もある。そのために必要なデバイスの一例が、路面に埋め込むスマートスタッド(道路鋲)だ。スマートスタッドには路面の状況を逐次監視するために、さまざまなセンサーが組み込まれている。イスラエルのスタートアップValerannは、複数のIoTセンサーを搭載したスマートスタッドを10~15m間隔で道路に埋め込んで道路の状況監視を自動化する、「スマートロードシステム」を開発している(図1)。
スマートロードシステムは、走行する車両の分類や、総数、走行速度だけでなく、雪や雨などの環境情報もリアルタイムで取得する。それらのデータを道路に沿って配置したゲートウェイを通じてクラウドに送信し、渋滞や事故、落下物などの感知から渋滞予測までを自動で行う。
(図1)ValerannのIoTセンサーが組み込まれたスマートスタッド(右)とクラウドにデータを送信するゲートウェイ(左)(出典:Valerannのユーザーマニュアルより引用)
(図2)さまざまなセンサーが取り付け可能な「多機能ポール」はモビリティから情報を受信するだけでなく、カメラでモビリティの接近を認識して信号を制御できる(出典:ウーブンシティにて著者が撮影)
歩行者の安全確保や交通の効率化の視点から考えるならば、道路だけでなく信号機などにセンサーを付けることで、さらに交通をスムーズに管理できる。トヨタ自動車が静岡県裾野市で次世代モビリティの実証実験を行う施設として建設している「Toyota Woven City(ウーブンシティ)」では、各種のセンサーが取り付け可能なスマートポールを信号機として使用する実証実験が行われている(図2)。
実験ではウーブンシティ内の道路において、自動運転バス「e-Palette」が信号機と情報をやりとりしながらフレキシブルに信号を動作させる。例えば、車道側の信号は常に「赤」、横断歩道の歩行者用信号は常に「青」となっており、e-Paletteが横断歩道に接近した時だけ車道側が「青」、歩行者側が「赤」に変わる。これによって、モビリティーの移動をスムーズにして渋滞が起きにくい交通環境を実証する。
自動運転との連携だけでなく、スマートポールにカメラセンサーなどを取り付ければ、交通の流れに応じた個別の信号制御も可能になる。例えば幹線道路の交差点で、交差する道路が空いている時には幹線道路側の青信号時間を長くすることで渋滞を防ぐ。信号待ちが少なくなれば停車時のアイドリング時間が短縮され、ガソリン消費量やCO2排出量を減らせるなど環境への効果も大きい。
道路が人の有無を検知、
渋滞解消から交通安全にまで効果
トヨタ自動車はウーブンシティ以外でも、さまざまな実証実験を行っている。スマートポールにカメラセンサーを取り付ければ歩行者の検知も可能になるが、道路脇に停車している車があったり街路樹の形状の変化などによって見落とされることもある。そこで、歩道に光ファイバーをセンサーとして埋め込むことで、歩行者の有無をドライバーに伝えて事故を防ぐ実験が行われている。
従来、交通インフラにおいて光ファイバーは、橋やトンネルといった構造物のたわみを計測したり、経年劣化を診断するセンサーとして利用されているが、道路に埋め込まれた光ファイバーの微細な変形を観測すれば、車のような重量物だけでなく人が踏んだ際のたわみでも検知できるという。トヨタ自動車が行った実験では、道路に一筆書きで切り欠いた溝に1本の光ファイバーを埋め込めば、物体が通ることで路面がたわみ光ファイバーの変形として計測できた(図3)。
(図3)AからEまでを1本の光ファイバーでつなげた実験では、道路上に物体が通ることで路面がたわみ、それが光ファイバーの変形として計測できた(出典:トヨタ自動車の公式サイトより引用)
光ファイバーを道路に埋め込み、わずかな振動や圧力の変化を感知するセンサーとして機能させ、スマート道路(スマートロード)として活用する構想もある。例えば、車が路面を通過する際の微細な振動を、道路に埋め込まれた光ファイバーがキャッチする。その振動パターンをAIに分析させ、車の位置や速度、さらには進行方向までを把握する。
NEXCO中日本は、NECの光ファイバーセンシング技術やAI技術を活用した、高精度監視システムを導入。光ファイバーの片端に取り付けられたセンシング装置で、走行車両に起因する振動情報からデータを生成する。そのデータを分析AIエンジンが連続的な走行の軌跡に変換し、1kmごと、1分ごとの平均速度と所要時間を推定する。
これによって、まるで道路に目や耳が付いてるように、広域にわたって交通状況の変化が取得できる(図4)。それらのデータを元にデジタル上に道路状況を再現することで、連続的な監視や事故・渋滞の早期検知など、道路管制の高度化を支援する。今後、天候や気温の影響などによる路面の変化を、通行中の車にリアルタイムに伝えらるようになれば、より安全な走行にもつながっていくだろう。
(図4)高速道路上の車両の行動を可視化する高精度監視システム(出典:NECのプレスリリースより引用)
まだまだある未来の道路、
次世代アスファルトによる自己修復も
道路のあり方はほかにも、考えられる。例えば走行中の電気自動車(EV)への無線給電機能を持った道路。一例が大成建設が研究開発中の「T-iPower Road」だ(図5)。同社は、同社グループ次世代技術実証センターの延長20m区間に構築し、最高時速60kmで走行する車両に対し、最大出力10kWの連続無線給電に成功した。EVの長距離・連続走行の可能性を広げる取り組みである。
(図5)大成建設が開発中の無線給電道路「T-iPower Road」(出典:大成建設のプレスリリースより引用)
機能的な進歩とは別に、街の魅力を増すという観点から道路を捉える動きもある。三井不動産や首都高速道路などが東京・日本橋で取り組んでいる「日本橋リバーウォーク」が代表的である。日本橋リバーウォークは、親水空間と川沿い歩行者ネットワークを中心としたエリアの再開発プロジェクト。首都高速道路日本橋区間の地下化と他の5つの再開発が互いに連携し、空と川に開かれた街づくりを進めている。自動車走行スペースを地下に収め、地上には歩行者が集う道をつくることで街の魅力を高めようというものだ。
もう一つ、道路の維持管理を自動化する取り組みもある。光ファイバーが埋め込まれた道路は、少量のわずかな歪みや路面の微細なひび割れ、地下の空洞など目に見えない構造上の問題も検知できる可能性がある。これによって、重大な事故が発生する前に早期に補修や対策を講じれば、インフラの維持管理コストも削減できるし安全性も維持できるだろう。地震発生時には、地震波の情報や地盤の変異を光ファイバーでリアルタイムに把握し、被災状況の早期把握にも貢献する。
さらに、道路自体が自己修復機能を持つようになれば、光ファイバーによって検知されたわずかな歪みや微細なひび割れなどが広がっていく前に修復できる。これによって大規模な修繕工事を未然に防ぎ、長期的な維持管理費用も大幅に削減する。
イギリスではキングスカレッジロンドンとスウォンジー大学の研究チームが、時間の経過とともにひび割れを修復できる自己修復型アスファルトを発表している(図6)。アスファルトのひび割れは、歴青(ビチューメン)と呼ばれる粘着性の黒い物質が時間とともに酸化して硬化することで発生する。自己修復型アスファルトにひび割れが発生すると、アスファルト内部に組み込まれた自己治癒カプセルが潰され内部の再生材が放出される。その後、再生材が歴青と化学反応を起こすことで歴青が軟化し、ひび割れ部分が「縫い合わされる」ように修復されるという。
研究チームによれば、この全プロセスは1時間以内に完了し、アスファルトの構造的完全性を回復させる。使用される再生材は生物由来やリサイクル材であることから、環境負荷も低く抑えられる。
(図6)アスファルトの自己修復に使われる生物由来やリサイクル材の再生材(出典:グーグルのブログページより引用)
こうなると、まるで人間の体が自ら病気の兆候を検知し、早期発見して病気を未然に防ぐ予防医療の概念が、道路にも適用されるかのようだ。道路の事故は人の交流や物流に大きな影響を与えることから、未来の道路はもはや都市の健康を支える神経や血管となって、私たちの生活を支えていくことになりそうだ。













