AIエージェントの時代へ AIの価値を最大限に引き出すために求められる人とAIの協働

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マルチエージェントシステムが企業のROIを再定義する
Part 1 従来の自動化を凌駕する理由

RuoDong Yang レノボ ストラテジー/イノベーション/エンタープライズアーキテクチャ ディレクター

企業は近年、業務の定型化や反復作業の排除といった観点で自動化に価値を見出してきました。しかし、RPAや基盤モデルといった従来の手法では、例外的な事象や曖昧さ、不完全な情報、複数部門に関わるワークフローなどから生じる課題により、多くの企業で限界に達し、ROI(投資利益率)は減少しています。

レノボの『CIO Playbook 2026』によると、AIエージェントは生成AIに代わり、2026年の最重要テーマとなりつつあります。しかし、複数のAIエージェントが連携するマルチエージェントシステム(MAS)を本格的に活用している企業は、4社に1社もありません。

MASは、企業AIに革新をもたらす次世代の仕組みです。これにより企業は、単なるインサイト生成にとどまらず、自律的に目標に向かって行動することが可能になります。専門化された複数のAIエージェントを協調させ、推論や並列処理を行うことで、デジタル労働力全体を統合的に管理するという、構造的な転換をもたらします。

その結果、業務効率の改善にとどまらず、より柔軟でコスト効率の高い運用モデルが実現します。

マルチエージェントシステムは投資額の倍以上の効果をもたらす

ルールベースの自動化は、想定外の入力や定義外の要件が発生した瞬間に機能不全に陥ります。その結果、人手による作業が必要となり、コストの上昇とUX(ユーザー体験)の低下を招きます。

これに対し、MASは、ワークフローにセマンティック推論を組み込みます。実際にPoCを経て実稼働を達成した企業では、1ドルの投資に対して約2.79ドルの価値創出が報告されています。AIエージェントは文脈を理解し、曖昧さに対処するだけでなく、失敗時には経路を切り替えるため、人手によるエスカレーションを減らし、継続的な運用を可能にします。

価値を増幅させる並列性

システムやアプリケーション開発などで、すべてを1つにまとめたモノリシックな設計は処理が遅く、コストも高くなりがちです。単一のモデルに要約・計画・検証を担わせることは非効率であり、TCO(総保有コスト)を押し上げる要因となります。

MASでは、軽量なモデルが単純作業を担当し、高度なモデルは必要な場合にのみ深い推論を行うという役割分担を採用します。

また、単一モデルが逐次処理を前提とするのに対し、MASは非同期の並列処理を活用します。長期かつ複雑なワークフローでは、完了までに要する時間が日単位から時間単位へと短縮されます。これがMAS導入によりROI向上を実現する最大の理由です。

高いROIを生む業務パターン

MASは、複数の部門にまたがる一連の業務において、特に大きな効果を発揮します。例えば法務契約から営業活動まで、あるいは設計段階から品質保証までといったプロセスを複数のエージェントで分担することが可能です。

  • 長期タスク:調査、保険審査、サプライチェーン再編など
  • 反復的深掘り作業:計画→実行→評価→改善の継続的な循環
  • 大規模パーソナライズ:CS、オンボーディング、従業員支援

人とAIの協働による生産性向上

MASは人を置き換えるものではなく、人の役割を再定義するものです。人の立場は実行者から評価者・意思決定者へと移行し、例外的な業務の管理と成果の統括に集中できるようになります。

これにより認知負荷が軽減され、組織全体の生産性が向上します。

MASは単なる自動化の延長ではありません。学習し改善し続けるデジタル労働力を構築し、推論・専門化・並列性の相乗効果によって、持続的なROIを実現します。

続くPart 2では、マルチエージェント時代に求められる新しいガバナンスについて解説します。