AIエージェントの時代へ AIの価値を最大限に引き出すために求められる人とAIの協働

08.

AI時代に人材を正確に評価をするための5つのステップ
エンジニアリングチームをどう再構築するべきか

Art Hu レノボ 最高情報責任者(CIO)

AIコーディングアシスタントの登場によって、ソフトウェア開発が大幅に高速化し、エンジニアリングの生産性に新たな可能性をもたらす一方、人材の採用、育成、成長のあり方が急速に変化しています。企業がスキルをどのように評価し、チームを構築し、キャリアパスを描くべきかについて、新しい視点が求められています。同時に、AIは単なる協働ツールにとどまらず、「デジタルの同僚」へと進化しつつあります。

レノボでは、AIが労働力に与える変化を理解するだけでなく、AIを前提とした新しい基盤を構築することにも注力しています。AIの普及は、一見すると破壊的な変化のように感じられるかもしれません。しかし、実際には進化であり、人材戦略をより深く見直すことが求められています。企業は依然としてエンジニアの多様性を重視していますが、「優れたエンジニア」の定義は広がりつつあります。今後は、技術的な習熟度に加え、ツールの活用力、ドメイン知識、そして人としての判断力を組み合わせた総合力によって評価されるようになるでしょう。

AIエージェントの台頭が進む現在においては、もはや純粋なコーディングスキルだけでは十分とはいえません。インテリジェントなシステムと協働し、個々に最適化されたワークフローを通じてAIエージェントからROI(投資対効果)を創出する力に加え、不確実性に対応する柔軟性、そしてより広いビジネスおよびユーザーの文脈に基づいた意思決定を行う能力が求められます。言い換えれば、コーディングスキルが中程度であっても、高い解釈力やシステム設計思考を備えた人材の方が、役割によっては純粋なコーダーよりも実力を発揮する場合があります。

ここでは、AI時代におけるITおよびエンジニアリング人材のあり方を再考するための5つのステップを紹介します。

ステップ1:
面接をシナリオベース型に進化させる

確立された人材評価に対する変化は、最初のステップである「面接」から始まります。被評価者がAIを活用して完成度の高い成果物を提示できるようになった現在、企業は実務環境を反映した現実的な課題に基づく、より深掘りした面接を設計しなくてはいけません。

逆説的ではありますが、この課題に対応するため、多くの企業ではプロジェクトやデモと並行して、対面での面接の重要性を再認識しています。リアルタイムでのやり取りにより、候補者が自ら考え、判断し、問題に対応する実践的なスキルをより的確に評価できるためです。

例えば、役割別に以下のような重点を置くことができます。

  • 研究志向の役割:アルゴリズムの革新性
  • 実行志向の役割:ツールの活用力やコードの堅牢性
  • 設計・計画系の役割:アーキテクチャ設計や技術スタックの選定力

また、AIモデル単体だけでなく、システム全体をどう理解して説明できるかという「解釈力」も重要です。特にAI生成コードを含む場合、複雑性にどう向き合い、透明性を確保するかを示す必要があります。

ステップ2:
AIへの過度な依存を防ぐルールを設ける

コーディング支援の普及は大きな利点をもたらす一方で、重大なリスクも伴います。被評価者が面接や課題においてAIツールに過度に依存すると、基礎やコード実装への理解度を正確に評価することが難しくなります。ライブコーディングや詳細なコードレビューを通じて、思考の健全性や技術的負債を増やさないためのアウトプット管理力を見極めることが重要です。

AIツールへの過度な依存は、デバッグや最適化、全体設計に必要な基礎スキルの低下を招く可能性もあります。そのため、トレーニングやオンボーディングでは、ツールを活用しつつも、堅牢なスキル基盤を構築することが不可欠です。

ステップ3:
キャリアステージに応じた人材戦略を設計する

AI時代は、若手と経験豊富なエンジニアの双方に異なるキャリアパスを生み出しています。新卒層では、従来のエントリーレベル業務の一部が自動化されることで、求められる水準が引き上げられています。そのため、ツール活用力、データに対する理解力、学習スピードが重要視され、AIの支援を踏まえてアウトプットをどのように評価し、改善できるかが問われるようになっています。

一方、経験豊富な人材の価値は「抽象化」と「オーケストレーション」にあります。通常のコーディングがAIに任されるなかで、システム全体を見据えた設計や統合、さらには後進育成が重要な役割となります。ドメイン知識とAIによる生産性向上を融合できる人材は、より大きな影響力を持つ存在となります。

ステップ4:
新たなオンボーディングと育成の時代へ

企業は、理論中心の教育ではなく、AIツールを業務の一部として組み込んだ実践的な開発シナリオを再現する形へとオンボーディングを刷新する必要があります。これにより、ツールの活用力、自立性、学習適応力を実務のなかで評価できます。

しかし、採用は出発点に過ぎず、パフォーマンス評価は継続的に行われます。試用期間中においては、タスク完了だけでなく、どれだけ自律的かつ効果的に成果を出せているか、AI生成提案の品質をどう高め、弱点を見抜いているかが重要な指標となります。

ステップ5:
「人間+AI」へのマインドセット転換

最終的に、人材の進化はツールの話にとどまりません。戦略的な企業は、「人間+AI」モデルで機能する人材の重要性を認識しています。それは、ツールをいつ信頼し、いつその判断を補正・修正し、そしていつ新しいアプローチをとるべきかを的確に見極める力が求められているからです。

こうしたチームやワークフローの構築において、多くの企業は外部の専門パートナーに目を向けています。ROIに基づくユースケースの定義、AIエージェントの精度・安全性・有効性を担保するマネージドサービスは、大きな差別化要因となります。

AI時代に求められるエンジニアは、優れたコードを書く人ではなく、戦略的思考を持ち、倫理観を備え、学習し続ける人材です。組織に必要なのは新しいツールだけではなく、AIを責任ある形でスケールさせるためのライフサイクル全体のアプローチです。

AIが協働者となる時代において、成功は単なる技術力だけでなく、人とAIがどのように学び、設計し、問題を解決するかにかかっています。採用やスキル、業務の変革を通じて、この進化を受け入れる企業こそが、次のイノベーションを切り拓いていくでしょう。