東京大学 総括プロジェクト機構 国際建築教育拠点総括寄付講座(SEKISUI HOUSE - KUMA LAB) 建築・都市DX人材育成プログラム DXフォーラム レポート

東京大学が主催する「建築・都市DX人材育成プログラム」では、2025年10月から通算7回の講座を展開し、この分野でDXを担う人材の育成に取り組んできた。その集大成として2026年3月21日、東京大学(東京・文京区)のSEKISUI HOUSE-KUMA LAB にてDXフォーラムが開催された。建築家・東大名誉教授の隈研吾氏、PLATEAU標準化で幅広く活躍する黒川史子氏による基調講演の後、フォーラム後半では受講生5人によるピッチが行われ、成果の発表と識者による講評が行われた。

主催者挨拶

東京大学特任教授和泉 洋人 氏

BIM・PLATEAU・不動産IDの
連携で建築・都市DXを進化

「建築・都市DX人材育成プログラム」の講座は、①技術セミナー運営②政策コロキアム③建築・都市分野のDXフォーラムの3部構成となっている。①技術セミナーでは、測量・計測、情報通信、解析、ロボティクス、建築生産、仮想空間、施工管理の7分野で活躍する研究者・専門家による講義・討論を実施。②政策コロキアムでは、デジタル行政、都市行政、住宅・建築行政、不動産・建設行政の各分野の実務担当者を招致。そして今回、本稿でご紹介するのが、③建築・都市分野のDXフォーラムとなる。

フォーラムの冒頭では、東京大学特任教授の和泉洋人氏が主催挨拶に立った。建築・都市のDXが求められる背景として、同氏は「社会課題の複雑化」「人手不足の深刻化」「情報通信技術の進展」「組織・産業間の連携」「多様な主体の関与」の5つを挙げ、次のように述べた。 

和泉洋人特任教授

主催者挨拶に登壇した東京大学の
和泉洋人特任教授

「その実現に向けて、政府のDX推進体制はデジタル庁・国交省・科学技術イノベーション推進事務局の三層構造で動いており、関連予算は4年間で100億円台から500億円超に拡大しています。施策的には『BIM・PLATEAU・不動産ID』の三本柱をシンクロさせ、デジタルツインを日常業務の基盤として定着させていく必要があります」(和泉氏)

我が国の目指す社会と建築・都市のDX

図表

わが国の目指す社会と建築・都市のDXの全体像

基調講演

建築家、東京大学特別教授・名誉教授隈 研吾 氏

デザインの「人間化」をAIで実現
「小さな粒子」がDXを開く

続く基調講演で、「DXが建築のデザインをどのように変えていくか」というテーマで登壇した建築家・隈研吾氏(東京大学特別教授・名誉教授)は、1986年のコロンビア大学での体験をふり返る。

隈氏は、ちょうど当時が建築デザインのDXにおいては特別な時期だったと指摘。その例として、建築学部長のバーナード・チュミが「これからはペーパーレスで設計する」と宣言したことを挙げる。チュミ氏が立ち上げたスタジオでは、コンピューターが生成した曲線や曲面を使った「パラメトリックデザイン」が次々に生み出されたが、隈氏はそれに対して疑問を覚えたという。 

赤井 厚雄 氏

株式会社 隈研吾建築都市設計事務所
代表 隈研吾氏

「単に有機的な形を作ること、すなわちコンクリートでぐにゃぐにゃした形を作ればDXかというと、それはちょっと違うのではないか」と考えた隈氏が追い求めたのは、「小さな粒子を使って全体をコントロールする」という設計思想だと説いた。

こうした流れは、日本ではすでに1960年代から建築界に見られたと隈氏は指摘する。例として、丹下健三氏が代々木体育館で示した「有機的な造形」、黒川紀章氏が「メタボリズム(新陳代謝)」として提唱した1970年大阪万博の代表的な建物の1つである東芝IHI館などがある。 

だが隈氏は、「当時のメタボリズムはDXを予感させるものだったが、単位が大きすぎた」と分析。その延長線上に現在を位置づけたうえで、「より小さい単位でのDXこそが、建築デザインにおける日本的なDX技術と言えるのではないか」と仮説を共有した。

隈氏は、法隆寺が1400年間も持つのは「細い垂木や斗栱(ときょう)という小さな部材を組み合わせ、傷んだ部材を順次メンテナンスできる構造」だからだと指摘し、これこそがメタボリズムの理想形であり、小さな粒子の哲学の極致だと位置づける。

この思想は、自身の作品にも生かされている。2019年に竣工した国立競技場(東京・新宿区)では、10.5センチ幅の木の板という均一な「微粒子」が全体を構成し、椅子の配色もコンピューターで計算、大勢の観客がいるような視覚的効果を生んでいるという。

図表

©大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体提供
隈氏は、均一な「微粒子」が全体を構成する例として、自身が手がけた国立競技場の例を挙げた

またBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)も、積極的に活用している。スターバックス太宰府天満宮店では、グラスホッパーで細い木のピッチを計算し、データを構造設計と共有しながらデザインを詰めていった。さらに、アントニ・ガウディのカサ・バトリョの非常階段の増築ではアルミチェーンの粒子を用い、小さいアルミの粒をコントロールしながら、ガウディが目指したようなイメージを追求していったという。

最後に紹介したのは、ヴェネチア・ビエンナーレでのAI活用事例「森に帰るための家 Domino 3.0」だった。ル・コルビュジェが1914年に提唱したグリッドフレーム「ドミノ」に対し、AIを用いた有機的な構造体「Generated Living Structure」を提案。コラボレーターとして迎えたAI研究の第一人者・松尾豊氏(東京大学)とともに、イタリアの嵐で倒れた倒木を素材として3Dスキャンした。併せてAIで動きに追従し、自由に形を変える、やわらかなジョイントを設計。3Dプリンターで出力して人が住める木のフレームを組み上げる実験的な取り組みを展開した。

この試みを振り返って隈氏は、「AIによって小さな粒子によるデザインの可能性が広がっている。DXとは機械化ではなく人間化だ」と述べ、これまで設計不可能と思われていた繊細な構造を、デザインの力で実践していきたいと語り、講演を締めくくった。

基調講演

アジア航測株式会社先端技術研究所 技術部長
一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会(AIGID)理事黒川史子 氏

PLATEAUを支える標準化
3D都市モデルエコシステムの今

基調講演2人目には、アジア航測株式会社先端技術研究所技術部長でAIGID理事の黒川史子氏が登壇した。

同氏が関与するPLATEAUは、国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクトとなる。建物・道路・橋梁などを3次元のオブジェクトとして表現し、用途・建築年・階数などの属性情報を付与したデジタル基盤で、都市計画・防災・エネルギーシミュレーションなど多様な用途に応用が可能なものとなる。単なる「きれいな3D画像による地図」ではなく、コンピューターが建物の種類や属性を認識し、解析できる点が特徴だ。黒川氏は、そのPLATEAUの中でも、3D都市モデルの標準化を進める専門家として活躍してきた。

黒川史子氏

アジア航測株式会社
一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会
理事 黒川史子氏

同氏の講演テーマは「標準化が支える3D都市モデルのエコシステム」。すなわち「『PLATEAUを整備して終わり』ではなく、継続的に更新され使われ続ける基盤にすること」を重要視しているという。だが全国の自治体の数は1700を超え、その中で都市計画区域を持つ自治体は約1300件にも上る。それらの自治体が、各自ばらばらの仕様で3D都市モデルを作れば、相互運用は不可能となる。そのためPLATEAUでは、「3D都市モデル標準製品仕様書」を定め、全国共通の仕様の整備を進めている。

この仕様書の核となるのが、PLATEAUなどの3D都市モデルにおける詳細度を定めたLOD(Level of Detail)だ。LODには0~4の5段階が設定されており、例えば都市全体の建物密度の把握にはLOD1、日影計算にはLOD2以上、屋外・屋内をつなぐナビゲーションにはLOD4が必要となる。

3D都市モデルのLOD

1つのオブジェクトの幾何をその利用や可視化の目的に応じて、
複数の段階に抽象化することを可能とする。

図表

LOD0から4を模式的に示した図。利用や可視化の目的に応じて、5つの段階に抽象度が分かれている。

PLATEAUにおける3D都市モデル標準製品仕様書の役割

目的により、3D都市モデルに含むべき地物や属性は異なる。
つまり、目的が異なれば、3D都市モデルの仕様は異なる。
そこで標準製品仕様書では、都市ごとに3D都市モデルの仕様を作成するためのルールを「標準化」している。

図表

3D都市モデル標準製品仕様書は、PLATEAUの根幹となる重要な役割を果たしている

一方、BIMモデルはBIM分野の国際標準「IFC」で記述されているが、こちらもPLATEAUの3D都市モデルが採用するGIS標準「CityGML」との相互変換コンバーターを開発・公開することで、BIMデータを都市モデルへ取り込む仕組みが整備されている。

講演の中で、改めて黒川氏は標準化の本質に立ち戻り、それを乾電池に例える。単3・単4のようなサイズが国際標準で決められているのは、用途に応じた合理的な選択肢を確保するためだと説明。標準化とは単なる統一ではなく、選択肢を絞り込んで秩序化することであり、その考え方がPLATEAUの設計哲学にも貫かれていると強調した。PLATEAUがこの6年間で急速に普及した背景には、30年以上にわたる地理空間情報の標準化の積み重ねがあるとし、その基礎の上に構築された標準化は、エコシステムの血液と説明した。

黒川氏は、「更新継続性の担保という点では、各自治体の都市計画の法定データ(都市計画基本図・都市計画基礎調査)の活用も大いに貢献します。都市計画法で整備・更新が義務付けられているこれらのデータを基盤にすることで、3D都市モデルの更新継続性が確保されるからです。標準化は一朝一夕にはできませんが、最終的にすべての人の便益につながるものだと確信して取り組んでいます」と講演を締めくくった。

ピッチ

建築・都市DX人材育成プログラムDXフォーラムは、例年通り東京大学のSEKISUI HOUSE - KUMA LABで行われた

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