社会や国の豊かさに直結する
女性へのエンパワーメント
2024年に国連女性の地位委員会(CSW)の日本代表に就任した大崎麻子さん。国連開発計画(UNDP)でジェンダー平等と女性のエンパワーメントを担当したことが、自身の大きな転機になったと話します。
「世界各地で女性の教育、雇用・起業、政治参加促進などのプロジェクトを手掛ける中で、その重要性を肌で感じました」と振り返ります。
「例えば、ベトナムで女子教育のプロジェクトを進めた際、教育を受けてこなかった母親の反発が課題になりました。そこで、母親への識字教育や収入向上支援を組み合わせたことで、母親自身が教育と経済力の価値を実感し、結果として女子教育の拡充につながりました。女性が教育を受け、経済力を身につけることは、本人だけでなく子どもの将来や世帯の収入にも直結します」
女性のエンパワーメントは地域や国の豊かさと切り離せず、持続可能な社会に不可欠だと、現場で幾度も確信したといいます。
そんな各国の動向を見てきた大崎さんは、日本の女性活躍やDEIについて「いまは転換点にある」と語ります。24年の米国大統領選後、世界ではDEIを縮小する動きも見られますが、「日本の状況はやや異なる」と指摘します。
「日本は他国以上に人口減少と高齢化が深刻で、ジェンダーギャップを放置すれば、企業も自治体も国も立ち行かなくなる段階にある。女性活躍の推進は“選択肢”ではなく“前提条件”であるため、取り組みを後退させる余地はなく、むしろ構造的な必要性が追い風になっています」
大きな課題は男女の賃金格差
22年から開示が義務に
とはいえ、日本の女性活躍を取り巻く現状は未だに厳しく、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2025」では、日本は世界148カ国中、118位で、前年に続き、主要7カ国(G7)で最下位。この点について大崎さんは、「アベノミクスは、多くの女性を労働市場に送り込むことには成功したが、男女間の賃金格差を埋められなかった」と話します。女性が活躍できない状況の背景にある、構造的な問題まで踏み込んでいなかったことが、その大きな要因だと分析します。
「男女の勤続年数の差は、ポジションの差を生み出し、賃金格差にも影響をおよぼします。働く女性が増えても、家事・育児全般を女性が担う構造は変わらなかったため、女性の勤続年数は短いままでした。働き続けたところで、時短勤務なども『女性が利用する制度』としてのみ機能し、結局は女性の負担が増えるだけでした。非正規雇用に女性が集中しているのも顕著です。主に低賃金のパート就労のため、平等には程遠い状況は今も続いています」
こうした構造を改革していくには、男性の育休取得やアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が、採用・昇進・評価に入り込まない仕組みづくりが不可欠、と大崎さん。
「ここ数年で、政府が大きく方向転換しています。その象徴が、22年から常時雇用する労働者数が301人以上の企業を対象とした男女賃金格差の開示義務(26年4月1日から101人以上の企業も対象に)。これは投資家にとっても重要指標であり、国際的にも透明性を求める流れが強まっているため、今後は日本社会全体に波及していくはずです」
しっかりとしたデータ分析で
女性活躍が活性化した豊岡市
日本においては、女性自身が高い地位を望まない傾向にあることも大きな課題だ。大崎さんは、自身が携わった兵庫県・豊岡市の地域再生の取り組みを事例に、データを収集・分析することの重要性を説きました。
「豊岡市役所が女性管理職の増加を図るために、まず人事データを分析すると、男女の異動や配置に明確な偏りがありました。女性は窓口や庶務など特定の部署に集中し、管理職につながるポジションへの異動が少なかったのです。そこには女性に対する無意識の思い込みや家事・育児負担の偏りがあり、個々の女性ではなく構造に問題があることを示していたのです」
こうした問題は、職場だけで解決できるものではなく、その地続きである家庭や地域社会、学校なども一体となって取り組む必要があるといいます。「そこで豊岡市が取り組んだのが、夫婦向けコミュニケーションシートの作成と普及。家事を『平等に分担する』という切り口ではなく、『どうすれば家事をもっと楽にできるか』を共に考えるためのツールとしました」
さらにアンケート調査で、女性の自己肯定感の低さが浮き彫りとなりました。それは、家庭や学校など、さまざまな場面でジェンダーギャップの価値観が内面化されてしまったことが大きいといいます。例えば一見、ジェンダー平等が進んでいるように思われている教育現場でも、学校行事・部活・進路指導などに、まだまだアンコンシャス・バイアスが未だ散見と言います。
「研修制度を設けるなどして教員や社員のトレーニングを積んでいくことも大切です。近年、政府もさまざまな施策を進めています」
今後は、男女平等に本気で取り組む組織とそうでない組織の差が可視化され「女性のキャリア形成にも大きな意味を持つ」と大崎さん。
「女性も声を上げずに受け入れたり、黙って去るのではなく、社内の取り組みに対してデータを根拠に疑問を投げ掛けたり、就職先や転職先も公開情報を見極めて選ぶようにしたりしてほしいですね」
