企業が個人をエンパワーする時代へ物理世界と仮想世界が遍在化。メタバースが大きな注目を集め、エンターテインメント領域だけでなくビジネス領域での応用も広がりを見せつつある。また、デジタルアセットをやり取りするWeb3の世界では、個人がより大きな力を発揮するようになるだろう。物理世界と仮想世界が遍在化するメタバース・コンティニウムをベースに、企業が個人の能力や自発性を高める、すなわちエンパワーする時代へと突入する。
今、メタバースがバズワード化しています。この状況をどのように捉えていますでしょうか?
市川メタバースというと、「Fortnite(フォートナイト)」や「ROBLOX(ロブロックス)」といったエンターテインメント領域をイメージする方も多いかと思いますが、非エンタメ領域でも広がりを見せつつあります。社内トレーニングやオフィスのワークプレイスなどで活用され、その効果が立証されてきています。VRデバイスなどもさらに進化するでしょうし、企業のDXをさらに発展させるものとしてニーズが高まっていると感じます。
また、今話題のWeb3との関係も深く、オープンメタバースでデジタルプロダクトをNFT(非代替性トークン)として販売し、個人が稼ぐといったクリエイターエコノミーも形成されつつあります。これから、生活を一変するような思いもよらないユースケースがたくさん生まれてくるでしょう。インターネットやスマートフォンが出てきたときと似たような状況が、Web3やメタバースにも起きていると感じています。
市川博久氏
アクセンチュア 執行役員
テクノロジーコンサルティング本部 成長戦略統括
兼 メタバースコンティニウムビジネスグループ統括
1997年アクセンチュア入社後、大手企業の基幹系システム導入プロジェクトを中心に参画し、一貫してITアーキテクトとしてのキャリアを積む。2007年に新規事業のインフラストラクチャ・アウトソーシング部門を立ち上げ、事業統括を務める。2017年にはサイバーセキュリティ事業の立ち上げを経て、2022年からはメタバース事業の立ち上げを担当。また、2010年より同社が取り組むCSR活動のもと「若者就業力・起業力強化チーム」の責任者としてプロボノ活動にも従事。
先ごろ発表した「Accenture Technology Vision 2022」の中で「次のフロンティアはメタバースだ」とうたっています。アクセンチュアではメタバースをどのように定義していますか?
山根重要なポイントは、我々は一般的にイメージするVR世界のメタバースではなく、「メタバース・コンティニウム(連続体)」というより広い概念で捉えていることです。今回、我々は企業の新たなニーズを支援するための新組織「アクセンチュア メタバース コンティニウム ビジネスグループ」を立ち上げました。この名前が表しているように、メタバースは連続体である、という文脈で考えています。現実の物理世界と完全仮想世界が遍在化していき、その中を人々が生きて動いていくという体験を支援していく想定です。
山根圭輔氏
アクセンチュア
テクノロジーコンサルティング本部
クラウドインフラストラクチャーエンジニアリング日本統括
マネジング・ディレクター
東京工業大学生物工学科・東京大学大学院生化学専攻出身。金融機関を中心に、先端テクノロジーおよびプロジェクトマネジメントのスペシャリストとしてコンサルティング&デリバリーを実施。現在、日本のアクセンチュアにおける、クラウドインフラストラクチャーエンジニアリング日本統括を務める。
では、何が連続していくのかというと、大きく3つあると考えています。1つはテクノロジーがつながるということ。AR(拡張現実)やブロックチェーン、AI、デジタルツインなど複数のテクノロジーが相互につながっていくでしょう。次が仮想空間と現実空間の境界が曖昧になるということ。そして最後が、企業と顧客の接点が広がって、企業の役割が拡張されていくということです。こうした連続性を支えるものとしてメタバース連続体が重要であると考えています(図1)。
図1:メタバースを「メタバース連続体」として捉える
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「Accenture Technology Vision 2022」では、メタバース連続体を支える4つのテクノロジートレンドを紹介しています。簡単にご説明いただけますか?
山根1つ目が「Web Me」です。これはつまりWeb3のことで、個人が自身のデータをコントロールしデジタルアセットを所有できる世界が来るという話です。
2つ目が「プログラム可能な世界」。物理世界もプラグラマブルになり、より個人に最適化されていきます。どのような業務・サービス・商品も必ずデジタルツインありきで設計・構築していくという、『デジタルツイン・ドリブン』の発想が、あらゆるビジネスの変革の核(コア)として求められるようになるでしょう。
3つ目が「アンリアル」。AIによる生成技術や五感までを刺激するデジタルデバイスなどの発展によって、リアルとアンリアルの境界が曖昧になっていきます。ここでは、一貫性のあるストーリーや倫理観に基づく「ホンモノ感」の醸成が重要なポイントとなります。
そして4つ目が、これら3つのトレンドを支える技術基盤である「不可能を可能にするコンピューティング」です。量子コンピュータなどの次世代コンピュータに世界の経営幹部が大きな期待を寄せています。
こうしたテクノロジートレンドを踏まえ、企業はどのようなことを準備すれば良いのでしょうか?
山根これまでアクセンチュアは、時代の変化に合わせてエンタープライズ企業をサポートしてきました。今までは、「既存エンタープライズ企業vs既存エンタープライズ企業」や「既存エンタープライズ企業vsデジタルテクノロジー企業」という世界の中で、いかに生き残るかという話でした。しかし、これからは「既存エンタープライズ企業vs個人」になりかねないのです。
なぜなら、デジタルアセットが物理アセットと同じように価値を持つ時代になるからです。デジタルアセットを個人が作り、個人が評価し、個人に還元されるという世界が来ます。このとき、「エンタープライズ企業vs個人」となってはいけないと思うのです。
ではどうするのかというと、ビッグデータやデジタル基盤の提供、法律のサポートなどといった、エンタープライズ企業だからこそできることで、個人をエンパワーしていくという考え方にシフトしていく必要があります(図2)。そこをアクセンチュアはサポートしたいですし、価値があることだと考えています。
図2:個人をエンパワーすることが企業に求められる
市川Web3の側面から言うと、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)という新しい組織形態に注目しています。DAOによって発行されたガバナンストークンを持っている個人が、フラットに議論して組織の運営を決めていく。これはこれまで我々が見てきた資本主義では見られなかったアプローチだと思います。
2013年ごろ、アクセンチュアのCSR活動の一環として横浜市の地域課題を可視化して、地域市民が自分ごととして課題解決をしていくプラットフォームを作ったことがあります。我々が独自に作ったものですが、当時の市長の目に止まって、横浜市とアクセンチュアで協定を結ぶまでに至りました。今でも活動は続いていますが、貢献してくれた人にトークンを発行すれば、それこそDAO的ですよね。
今後、重要になってくるのは、こうしたインセンティブメカニズムをいかに作り込んで、コミュニティを設計していくかということだと考えています。これとメタバースをつなげていけば、可能性はまた大きく広がりますよね。
山根いやが応でも、すべてをコントロールしたいと考えるような企業は、支持されなくなってくるでしょう。典型的なのは、先日発表された、あるAIによるペアプログラミングサービスの事例です。ソースコードを学習したAIが最適なコードを提案してくれるサービスですが、オープンソースコミュニティからは、自身のコードの権利を侵害されたとして大きな反感を買っています。これからは、そのデジタルアセットは誰のものか、という議論はますます加速していくことになるでしょう。