国内最大級のアクセンチュアは2022年11月、AIコンサルティング、データサイエンティスト育成事業を行うALBERT(アルベルト)の公開買付けが成立し、子会社となったことを発表した。これにより約250名のデータサイエンティストがアクセンチュアに合流し、国内最大級のデータ分析人材を有することになった。統合の経緯と今後の方向性を、ALBERT代表取締役社長の松本壮志氏、アクセンチュア執行役員の保科学世氏に聞いた。
変化が激しい時代と言われるが、その変化に柔軟に対応するには、経営の意思決定を事業部門に素早く反映させ、企業全体が俊敏に変化に対応する必要がある。
だが、とくに日本企業は部門間の連携がうまくいかず、縦割り組織の中の情報伝達も遅いという指摘がある。アクセンチュアの保科学世氏は、経営層とIT部門、業務部門を共通の「データ」という言語で結びつけることが必要だとするが、課題も多いと語る。
「部門間でデータをリアルタイムかつスピーディーに連携・分析して、意思決定できている日本企業はまだ非常に少ないのが現状です。米国では、9割ほどが部門間連携できていると言える一方、日本企業は4割程度と倍以上の差がついているという調査結果もあります。また、AI活用を進める上では、アジャイルアプローチが必須ですが、日本企業はアジャイルに物事を進めるといったことにも弱く、この点も米国と大きな差をつけられています。
世界的に見ても「AI活用先進企業」はまだ1割強にすぎず、6割以上の企業でAI活用が概念実証にとどまっています(図1)。一方で、これら先進企業は同業他社より約50%高い収益成長率を達成しています。日本企業が世界で戦うためには、コロナ禍で進展したDXをさらに押し進め、データとAIを活用した意思決定を強力に推進するべきです」
出典:アクセンチュアリサーチ調査レポート
「『AI活用浸透』の極意:実践から成果へ」
図1:世界のAI活用状況
日本でも屈指の数のデータサイエンティストを抱え、多くの大手企業とAIプロジェクトを進めてきたALBERTの松本壮志氏から見ても、日本企業はデータを意思決定につなげる人材が少なすぎると感じている。
「日本企業のデータ活用やAIの利用は、ようやく概念実証の段階を終えて、いよいよ本番活用の段階に入ると見ています。ところが、それを実行するデータ人材が圧倒的に不足しています。企業側からすると、育て方が分からない、育つ舞台がないということが深刻な問題になっていると感じています」
企業のデータ活用において共通の課題認識を持つ両社。だが、ある意味ライバルとも言えるのに、なぜ統合へと向かったのか。その経緯を次のページでは聞いていく。
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外資系テクノロジーコンサルティング企業であるアクセンチュアと、国内AIベンチャーとして成長してきたALBERTは、なぜ統合に至ったのか。
ALBERTはもともと、優秀なデータサイエンティストを多数抱える企業だったが、2018年に松本氏が社長に就任以降、大胆な事業転換を実施した。
それまでのプロダクト提供型サービスから、ビッグデータ分析・AIモデルの構築など一貫したAI実装支援型サービスへ転換し、主要事業として位置づけた。さらに、社会的な影響力が大きい産業である金融、自動車、通信、流通・インフラ、製造の5つの重点産業へ絞り込み、それら産業のAI導入にケイパビリティを集中させることで、社会的なAIの実装スピードを加速させていく方針を打ち出した(図2)。また、自社のノウハウを生かした企業内のデータ人材育成プログラムも立ち上げるなど、各産業のリーディング企業の信頼を得ながら業績を急拡大させていった。
出典:ALBERT公式ホームページより引用、作図
図2:ALBERTが重点領域としている5つの分野
事業としてはさらなる成長の余地が見込めたものの、5年後の自社の姿を考えたとき、松本氏には大きな課題が見えていた。
「当社の事業目的は、AIの社会実装によってクライアント企業がデータドリブンな企業に変革することです。ですが、これまではクライアント企業内にすでに顕在化している課題の解決支援にとどまることが多く、当社から課題提起などの積極的な提案がなかなかできていない状況でした。ここから先は、経営そのものにさらに近づき、見えていない課題へのアプローチが不可欠です。そのためには、経営やお客様の業務を理解したコンサルタントが必要でした」
松本壮志氏 ALBERT 代表取締役社長 大学卒業後、ワールドホールディングスに入社しIPOを経験。その後複数の事業会社、コンサルティングファームで事業再生や新規事業立案のプロジェクトを手がける。デジタルハーツホールディングスの取締役COOを経て、2017年ALBERT代表執行役員、18年代表取締役社長に就任。
ALBERTとして多くのコンサルタントを獲得する手段として、自らM&Aを行い、事業を成長させる手も考えられた。しかし、より迅速に効率的な方法がないかと模索していた。
保科氏も、企業のデータ分析には業務への理解が欠かせないと実感していた。
「データサイエンティストの中には、目の前のデータは正しいという前提で分析を始めてしまう人もいます。本来であれば、そのデータの信頼性はどの程度なのか、例えば人間が生成したデータならば、誰がどのような環境で生成したデータなのかなどの確認から入る必要があります。当然、分析そのものも、誰にどのように活用されるかを考えて実施する必要があります。これらを適切に行うためには、業務現場の知識が欠かせません。アクセンチュアには各業界の業務現場を知る専門のコンサルタントが多く所属しており、その人材とデータ分析の専門家であるデータサイエンティストの組み合わせによって、経営に新しい示唆を与えることができると考えています」
アクセンチュアでは、ALBERTとは反対に、業務コンサルタントに対してデータサイエンティストが不足しており、ALBERTの豊富なデータサイエンティストのリソースに魅力を感じていた。「日本中を見渡しても、ALBERTほどの陣容を持つ企業はほとんどありませんでした」(保科氏)。
共に、データドリブン経営で顧客企業の価値を向上するという目的は同じであり、ある意味ライバル関係にもあった両社は、統合に向けて動き出す。
保科氏は、統合に際しての思いを次のように語る。
「AIの力だけで企業の課題を解決することはできません。データサイエンティストを抱える組織と、総合的、複合的な能力を組み合わせ、かつそれをアジャイルに改善していくことが求められています。ALBERTのデータサイエンティストにとっても、アクセンチュアと統合することで、さらに広い世界で、いろいろな専門家と意見を交わすことができる場が提供されることは、魅力になると確信していました」
松本氏も、「経営者として、組織で働く社員がより能力を発揮し、成長できる環境にいられることを、何よりも優先していました。その意味で、この統合は最善の意思決定だったと思います」と語る。
では、実際にALBERTの社員はアクセンチュアによる買収をどう感じたのか。