生活者と価値ある関係を生活者の変化に追いつけない企業が変わるために、どんな考え方が必要でしょうか。
ブッシュ小林が提起した2つのアプローチのうち、1つ目の顧客理解の深化については、私たちは未来の予測に役立つ視点として生活者の「マインドセット」という考え方を提案しています。これまではペルソナやセグメンテーションが主流だったかもしれませんが、それらはあくまで属性をベースに過去のデータに基づいて作られたものでしかありません。未来の行動の兆しをヒントとして得るためには、1人の人間として、「なぜ」その行動を取るのかに着目する必要があります。
例えば、会社の仲間でランチに行くとき、ある人は、このところ健康志向になっていてヘルシーなものを食べたいと考えるかもしれませんし、別の人は、午前中頑張ったからご褒美で豪華にいきたいという気持ちだったりします。次の日には、また違うマインドセットを持つこともあり得ます。大事なのは、ヘルシーな食事や豪華な食事という最終結果としての行動ではなく、なぜその選択をしたのか、行動の裏にある動機を把握することです。
顧客接点から得たデータを分析し、個人個人のマインドセットを知ることができれば、次にどういう行動をするのかが予測しやすくなります。
レベッカ・ブッシュ氏
アクセンチュア
Accenture Song
デザインリサーチ
アソシエイト・ディレクター
UXやサービスデザイン、顧客調査を専門とし、ビジネスとクリエイティブ領域のチームマネジメント経験を持つデザイナー兼リサーチャー。デザインを戦略に生かすプロジェクトに4大陸で携わってきた。日本在住歴は4年で、仕事外でも陶芸や織物、食を通して豊かなモノづくりの文化を学ぶ。多様な人々と協働し非凡な成果を達成することに情熱を持つ。
小林マインドセットを理解するために欠かせないのが、“購入者”としての一面のみを見る「顧客起点」ではなく、多面的な生活者として見る「ライフ起点」の視点です。例えば同じ1人の人間でも、「母親」として取る行動と、「会社の役員」という社会的役割を持って取る行動や考え方は異なることが多いです。企業は、そうした1人の人間が持つ多面性に向き合い、価値観や状況の変化を捉えて、最適な選択肢を柔軟に提供し続けることが必要です(図1)。
「ライフ起点」で生活者に対応するには、フロント部分だけでなく、バックオフィスの仕組みやオペレーションの対応が必要です。AIなどのテクノロジーを用いた自動化も導入していかなければ、変化に素早く応えることはできません。さらに、複数の部門が機動的かつ柔軟に連携できるよう、新たな組織構造やKPIも必要になるでしょう。どこか1カ所を直せばいいということではなく、企業活動全体を再創造する変革が必要です。
図1:顧客起点とライフ起点の違い
番所「ライフ起点」でビジネスを再構築する際、自社の事業領域を拡大する動きも進んでいます。例えば、メーカー企業が従来のモノづくりからサービスを提供する企業へ変革する、アパレル企業がファッションエンターテインメント企業へ変革するなど、各企業が様々な変革に取り組まれていますが、それは既存ビジネスのコア領域から人々の「ライフ起点」で周辺領域に事業を拡大することを意味します。未知の領域に対して、どのように顧客理解を深めるかも、今後企業が解決すべき課題になっています。
小林非常に重要なポイントですね。いくら「ライフ起点」で顧客を多面的に理解しようといっても、1社がライフのすべてに対応することは不可能です。自社のコア領域を見定めつつ、自社の価値領域をどこまで広げるべきかをあらためて考えることが不可欠です。
やはり自社の従来の事業領域から広げていくことが無難なのでしょうか。
小林重要なのは、「生活者の本質的なニーズを理解する」ことだと思います。例えば化粧品を使用する生活者の最終的に満たしたい本質的な欲求が「健やかに美しく」ということであれば、化粧品だけでなく、肌をきれいにするために健康でストレスのない生活を支援するサービスの提供も含まれてくるでしょう。顧客の理解を深めることで、生活の中でまだ満たされていない本質的なニーズや課題に対して応えられるのではないかと思います。