大木日本のデータ活用は遅れている部分もあろうかと思いますが、今後、どのように対応していけばいいとお考えでしょうか?
恩藏私たちができる解決策としては、やはり研究と教育ですよね。大学によっては、データサイエンティストを育成する学部や学科を立ち上げているところもありますが、早稲田大学はそれを取りませんでした。「データ科学センター」という組織を作り、すべての学部生がデータ科学を学べるようにしたのです。学部教育の目的は、最先端の研究に取り組む研究者育成ではありません。経済やビジネスなどの専門を持ちながら、全ての学生がデータリテラシーを持てるようにしようという教育を目指しています。
今日、日本企業によるデータ活用が非常に遅れていることは間違いありません。自社の立ち位置をきちんと認識して、あらゆる業界でデータ活用を自分ごと化する必要があると思います。
大木データ活用のどのステージに位置しているかによって、おのずと電通デジタルに相談いただく内容は変わってきます。データ活用の先進企業でも、個別最適な小さな成果にとどまり、どのようにすれば事業に強いインパクトを与えるかという点で悩みを抱える企業も少なくありません。しかし、それで「データ活用は成果が出ない」で終わってしまったらもったいないと思います。データの分析結果から人間中心のマーケティングを高度化し、ひいては事業成長につなげる。それを、我々は企業様と一緒にひも解いていきたい、と強い覚悟を持っています。
また教育の面でも、2022年4月より早稲田大学、大阪大学、神戸大学の3大学において「デジタルトランスフォーメーション(DX)」をテーマとした寄附講座をしています。もっと産学が連携して、一体的に今の課題に立ち向かっていく必要がありますね。

大木 真吾氏
株式会社電通デジタル
トランスフォーメーションリードルーム
エグゼクティブトランスフォーメーションディレクター
2005年に31歳で大手広告代理店グループに参加。データマーケティングやCRM領域の戦略策定・施策立案・分析支援などを担当。エグゼクティブデータマーケティングディレクターとして100を優に超える多彩なプロジェクトをけん引・参加してきた。22年より電通デジタルに移籍。
恩藏今、ある企業とお掃除ロボットに関する研究をしています。もともとは省力化を目指して始まったのですが、ロボットを擬人化したりペット化したりすると、子どもが喜んでくれたり、導入した店舗のイメージが変わったりと、いろんな新しい価値が生まれています。販促ツールとして映像を流してもいいかもしれません。さらには、掃除完了データを自動で記録すればDX化も実現できます。そうなってくると、単なるお掃除ロボットとして扱えなくなってきます。
この事例のように、テクノロジーの可能性を様々なレベルに広げていく支援を電通デジタルには期待しています。
大木ありがとうございます。人間中心のテクノロジー活用の大切さを思い知らされます。当社にも、例えば「リアル接点のデジタル体験の強化」や「健康・栄養データを用い、日々の寄り添い型サービスの実現」等、多彩なご相談をいただきます。先生の事例もそうですが、共通しているのは「顧客のうれしい感情や求める状態をいかに実現するか」に尽きると思います。
大木「マーケティング5.0」の実現を目指す企業に向けたメッセージを、ぜひ恩藏先生からお願いします。
恩藏私は、マーケティング研究の世界で30年を超えて取り組んできていますが、これまでに研究のステージを3、4回は変えています。2000年以前のマーケティングと今のマーケティングでは全然違うものになっているので、自分自身の研究も進化させていかないと、全く付いていけなくなってしまいます。
企業の皆さんにも、世の中の動きに対しての情報に目を向けてほしいと思います。例えば営業でも、様々なデジタルツールが入ってきて、昔の営業とは数段違うものになってきているはずです。時代にキャッチアップして、有効なツールを使いこなし、パフォーマンスを上げていってほしいと思います。
私が監訳した『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』はそういった新しい時代のマーケティングのあり方を示した本です。この本を読みながら、世の中の動きを感じ取ってもらえれば幸いです。改めて自分の立ち位置を確認し、データ活用を自分ごと化することが大切だと思います。
大木電通デジタルは22年5月に「トランスフォーメーションリードルーム」というチームを立ち上げました。当社のトランスフォーメーション領域の専門部門を横断してリードしていく役割を担っています。企業のいろいろなお困りごとに対し、データを活用した人間中心のマーケティングに導くため、様々な方と取り組む場にしていきたいと考えています。
全社的な企業課題に寄り添い、解決に邁進するべく、電通デジタルの専門集団を束ね・リードする専門チーム。トランスフォーメーションディレクターが在籍する
データは企業のものというよりは、顧客のもの。つまり顧客に還元しないといけません。データをどう事業成長に貢献させていくのか? 最適解を見いだす伴走役として、当社の存在価値をも高めていく所存です。
本日はありがとうございました。