Creating Together

 

Vol.25寄附講座(スターバックス コーヒー ジャパン)レポート スターバックスが追求するDXとは

スターバックス体験を最大化する
DXを目指す

スターバックスは1971年、米シアトルに誕生。北米以外、初の海外店舗として日本に1号店をオープンしたのが、96年だ。現在(2023年3月末)では、日本国内1,811店舗を展開するほどの規模まで成長。社内で「パートナー」呼ぶ従業員は約5万人が働いており、週平均で660万人の顧客がスターバックスを訪れているという。

「『スターバックスは、コーヒーを売っているのではなく、エクスペリエンス(体験)を売っている』という言葉は皆様も聞いたことがあるかもしれません」(福島氏)

70年代ごろから喫茶店文化が発展してきた日本において、スターバックスも米国とは違った独自の進化を遂げてきた。米国では、朝コーヒーをテイクアウトする顧客が多いが、日本は、店舗をくつろぐ場として捉えているため、最も混雑するのは午後の時間だ。

「質の高い商品(P:プロダクト)、居心地のいい空間(P:プレイス)、オーナーシップを持った従業員(P:パートナー)の3つの『P』がスターバックスの魅力です。最近では、デジタルの活用で、店外にもこうしたスターバックス体験を持ち出していただくことができるようになってきました」(福島氏)

福島 巨之氏

福島 巨之

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
戦略本部
戦略部
部長

主な仕事は、全社戦略策定プロセスの推進。その前後、戦略策定のベースの一つである顧客インサイトの調査・分析、策定した戦略の全社コミュニケーションも管掌。

ただ、最近は課題も浮き彫りとなってきた。会社の規模が拡大するにつれて、単なるコーヒーショップにとどまらない活動も増えてきたのだ。インクルージョン&ダイバーシティを具現化する、手話が行き交う聴者と聴覚に障がいのあるパートナーで運営する店舗の立ち上げや、定期的に認知症の当事者やその家族たちが交流を図る会を開く店舗もあるという。こうしたパートナーの活動を充実させるためには、複雑化する店舗オペレーションをDXによってサポートしていく必要があったのだ。「また、少子高齢化、人口減少、物価高など外部環境の変化にも対応しなければなりません。DXへの取り組みは、避けては通れないものと考えています」と福島氏は話す。

こうした中、2019年に導入したのが、レジに並ばずに決済し、受け取りができる「Mobile Order & Pay」だ。サイズはもちろん、ホイップクリームを追加するかどうかなど、レジに並ばず自分好みのカスタマイズができるため、効率的な注文が可能となる。また、顧客のロイヤルティプログラム「スターバックス® リワード」も顧客データの分析に活用し、より顧客が楽しめるプログラムに進化を続けている。そして、多様なキャッシュレス決済への対応も進めている。

「『Mobile Order & Pay』については、経営陣も含めたステアリングコミッティ(運営委員会)を開催しています。なぜなら『Mobile Order & Pay』を単なるデジタル施策として捉えるのではなく、『店舗の延長』だと考えているからです。デジタルとリアルな店舗をどうつないでいくかは、体験を重視する我々にとって、重要な経営戦略なのです」(福島氏)

「人間の代替」ではなく
「人間の拡張」としてのDX

通常DXは、顧客の「ペイン」を取り除くために導入されるものだろう。しかし福島氏は、その「ペイン」の中にもプラスの価値が含まれていると言う。

「スターバックスでは、注文する際のレジ前でのパートナーとのやり取りや、自分のためにカスタマイズしたビバレッジを作ってくれているのを見る時間も、プラスの価値になります。注文したり、商品を待ったりする時間は、通常は『ペイン』と捉えられがちです。しかしスターバックスにおいては、ペインをすべて取り除いてしまうと、背中合わせに存在するゲインもなくなってしまう場合があると考えています。そこが難しいところですね」

パートナーが自分らしく働けるようにするためのDXを重視する姿勢もスターバックスの特徴だろう。「コロナ禍に入り、医療従事者の皆様にコーヒーを届けて感謝を伝えたいと『コーヒードネーション』を実施しました。店舗の作業が煩雑すぎては、こうした前向きの余白を生むことはできません。我々はこれからもスターバックスらしさを保つため、付加価値の低い作業はDXで負荷を低減させていきたいと考えています」(福島氏)。

かつてデリバリーサービスの導入を検討した際、「体験を届けるのがスターバックスのパートナーではない」という理由で、社内からは反対の意見もあったという。しかし、デリバリーサービスで注文するのは、近隣の住人だ。パートナーがカップに書いた「次回はお店でお待ちしています」というようなメッセージが届いたことで、多くのエピソードが生まれたということだ。

「いかにスターバックスらしくいられるかを考え、DXに取り組んでいます。個人的には、DXは人間を代替するものではなく、人間らしさを拡張するためにあると思うのです」と福島氏は語った。

そして講義の最後に行った福島氏と前田氏のディスカッションでは、「スターバックスは、47都道府県すべての地元フラペチーノを開発するなど、効率化とは相反するような活動にも積極的に取り組まれています。そういった活動の意義はどういったところにあるのでしょうか」と前田氏は質問。

前田 良樹氏

前田 良樹

株式会社電通デジタル
CXトランスフォーメーション部門
CX/UXデザイン第1事業部
リテールエクスペリエンス第1グループ
グループマネージャー

顧客体験のプランニングを中心としたDXコンサルティング業務に従事。店頭接客ツールの開発やオペレーション改善、FC店でのマーケ戦略策定およびIT導入など、リアル店舗におけるCX(顧客体験)とEX(従業員体験)の設計プロジェクトに携わる。デジタルの力を最大限活用しながら、顧客視点・従業員視点に立脚した体験価値の構築に強みを持つ。

それに対し福島氏は、「我々はストーリーを大事にしています。47都道府県フラペチーノは、日本上陸25周年を記念して取り組んだ大がかりな施策でしたが、DXに限らず効率化ばかりを追ってしまうと、我々らしさも同時に希薄化してしまいます。複雑なことは、難易度が上がります。ですが、丁寧に社内のモチベーションを形作り、伝えたい意思やメッセージの実現に皆で取り組むからこそ、唯一無二の存在になれるのではないかと思っています」と話す。

スターバックスが大切にしている言葉の一つに「We are performance driven, through the lens of humanity(私たちは人間性の視点からパフォーマンスを追求します)」というものがある。その言葉を引き合いに出し、福島氏は次のように講義を締めくくった。

「我々は、利益を出していく営利企業でありながら、人間らしさを大切にします。その両方の具現化を求め続けるのがスターバックスだと言えるでしょう」

寄附講座