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対談:デジタルビジネス・イノベーションセンター DXは単なるIT化ではなく社会変革 トランスフォーメーション時代の
新しい価値創造

コロナ禍で変化する顧客ニーズに応えきれていない企業が多い中、どのようにして顧客基点のコミュニケーションは可能となるのか。デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の西野弘氏と電通デジタルの安田裕美子氏の対談を通して、日本企業の現状分析から具体的な取り組み、今後の展望について紹介。これからの日本企業や社会のあり方を探る。

「顧客」のニーズに応えられていない
日本企業の現状

——デジタルトランスフォーメーション(DX)を基点としたビジネス変革の重要性が叫ばれていますが、日本企業のDX推進の現状についてどうお考えですか。

電通デジタル・安田裕美子氏(以下、安田)コロナ禍を契機に生活者の価値観や行動の変化が進み、DXが経営アジェンダ化しているのは間違いありませんが、企業はそのニーズに十分応えられていないのが現状です。電通デジタルで実施した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)」の結果でも、コロナ禍でDXの重要度が高まったと考える企業が65.1%を占める一方、変化する顧客の期待に応えられていないと感じている企業は39.2%にも上っており、“焦り”や“ジレンマ”が感じ取れます。

日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)

「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)」では、変化する顧客ニーズに応えられていない企業の姿が浮き彫りになった他、顧客ニーズへの対応とDXの推進度合いに相関関係があることも、うかがい知ることができる

DBIC・西野弘氏(以下、西野)顧客ニーズに応えられていないというのは、顧客基点のコミュニケーションができる時代になったにもかかわらず、社内業務の電子化やIT化だけがDXだと勘違いして、本質がつかみきれていない企業が多いからではないでしょうか。私はこれまで、コールセンターの改善にも取り組んできましたが、リアルなお客様、「個」の顧客の声が聞けるコールセンターが日本では経営層にあまり重視されないのも、顧客基点がつかめない要因の一つだと感じています。顧客第一と言いながら、顧客の声が唯一聞けるコールセンターに毎年行かれる経営幹部は何人いるでしょうか。

安田以前のように、歴史あるブランドだから、価格が安いからといった理由ではなく、社会の困りごとやニーズに対して臨機応変に対応する企業が選ばれる傾向は、近年さらに高まっています。西野さんのおっしゃるように顧客基点のコミュニケーションはますます重要になると、私たちも考えています。

西野 弘

西野 弘

特定非営利活動法人CeFIL 副理事長
デジタルビジネス・イノベーションセンター
共同創設者

航空関連会社に入社。1991年プロシードを設立し代表取締役就任、2017年退任。現在、NPO法人itSMF Japan理事長、インターポール・サイバー 犯罪専門家委員会委員兼務。2016年大手企業のデジタルインパクトの理解レベルに危機を感じ、横塚裕志氏と大手企業27社でデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立。

安田 裕美子

安田 裕美子

株式会社電通デジタル
執行役員
ビジネストランスフォーメーション部門長

電通入社後、ビジネスプロデュースやデータドリブンマーケティング推進を経て、2016年に電通デジタルの設立に参画。DX領域の企業コンサルティング、事業のサービス化、ビジネスモデル変革支援、顧客接点構築、施策マネジメントなどに従事。2022年から現職。

——変化する顧客のニーズに応えられていない企業が、その課題を乗り越えるにはどうすればいいのでしょうか。

安田デジタル化そのものだけに着目するのではなく、デジタル化された世界の中で、お客様が何に価値を感じるのかをしっかりつかむ必要があります。実は先ほどのデジタルトランスフォーメーション調査の結果で、もう1つ重要な示唆があり、「顧客の期待に応えられている」と回答した企業ほど、DXへの取り組みが進んでいます。DXがすべてではないのですが、やはりDXは顧客の期待に応える前提の力だと思っています。

西野DXは、顧客との関係も自社の意思決定や行動様式もひっくるめて、今までのものを作り替えましょうということなので、その調査結果には納得ですね。今、世界は破壊的企業(デジタルディスラプター)の脅威にさらされていますが、彼らが強いのは社会的価値をつくろうとしているからです。顧客というのは生活者ですよね。これからのビジネスでは、企業人ではなく一人の生活者として、経営層から一社員まで自分の企業がどのように社会的価値を創造していくかを考えていく必要があると強く思います。