
─コロナ禍の今、企業を取り巻く社会状況をどのようにご覧になっていますか。
楠木:社会へのインパクトで言えば「因習」を壊す意味がありました。因習とは、合理性はなくともこれまでの成り行きからコンセンサスとして定着したもの。例えば長時間かけての通勤などはその最たるものです。そういった因習が流れていくことはいいのですが、本来は対面すべきところまでオンラインで済ましてしまうようなことが起きるとパフォーマンスの低下につながりかねない。
吉川:コロナ前から世の中の価値観は変化してきていましたが、それがさらに加速したと認識しています。オンラインによる活動の普及もその一つでしょう。
楠木:例えばリモートワークは、少ない投入量でより高い成果を出すという目的のための手段のはずですが、コロナのような大きな問題が発生すると手段が目的化してしまう。コロナ禍で学ぶべき大きな柱は、いかに人間社会が手段の目的化に陥りやすいかということです。だからこそリーダーは企業の目的を明確に示していく必要がある。大きなショックがあると、本当の経営力が見えてくるのです。
吉川:おっしゃる通り、このような時代だからこそ企業は確固たるビジョンが大切だと感じています。クボタでも、2020年に社長はじめ経営体制が新たになったこともあり、改めて経営の本質を再定義し、2030年に向けた長期ビジョンと、それを中期的にブレークダウンした「中期経営計画2025」を発表しました。我々の存在価値は何であるかを問い直し、一般的なESGの慣習にただ当てはめるのではなく、そこにクボタ独自のアプローチを取り入れたESG経営が「K-ESG」です。
─クボタはここ十数年間、好調な成長曲線を描けていますが、それらの要因と昨今の成長を支えている事業戦略はどのようなものでしょうか。
吉川:強い事業基盤が築けたのは、創業時から「社会課題の解決」を得意としてきたことにあります。例えば、お客様が現在困っている状態がマイナスだとすると、それを解決することで少なくともゼロの状態になるようお手伝いをする。特に農業や水インフラの分野では、課題解決が重要であり、真っ先に求められます。クボタは「命を支えるプラットフォーマー」として、いつの時代も社会課題の解決に取り組んできたと自負しています。コア事業である農業というセグメントで成長できたのは、農家の人手不足という社会課題の解決に、我々の製品が寄与できたことが大きな要因です。
楠木:「マイナスをゼロに戻す」、「ゼロからプラスをつくる」。この2つは、本質的な商売の分類軸です。ゼロからプラスをつくるのは、広い意味でラグジュアリーの追求。対して、マイナスをゼロに持っていくのは実需です。これは製造業と相性が良く、クボタがここに事業位置を定めたことに深さを感じます。
吉川:この10年の成長を支えてきた戦略の一つとしては、「相乗効果」を徹底したことが挙げられます。例えば北米市場では、1972年の進出後、安定した品質が評価され、1980年頃には販売拠点が約1000軒にまで拡大しました。その当時、20~40馬力の小型農業機械はほとんどなく、そこが空白地帯だった。そこに我々の小型トラクターを投入したことで、「サンデーファーマー」と呼ばれる休日に農業などをたしなむ層に受けた。これが成功の第一歩です。そして、その強い事業要素をつくった上で相乗効果を発揮したのが「ディーラー」の存在です。トラクターが売れ始めると、ディーラーがさらに売れる製品のアドバイスをくれる。その意見を基に開発と市場への投入を続け、品揃えを増やしていく。あらゆる機器に自社製の小型ディーゼルエンジンを搭載しているので、売れれば売れるほど量産効果も出てきます。このように、市場の開拓、ディーラーとの協力関係、量産効果など、様々な要素の相乗効果により成長を続けられたと言えるでしょう。おかげ様で、現在では北米のみならず、アジア、アフリカといった地域でも我々の製品を多くご利用いただいています。
楠木:北米で販売網を整えられたのは重要な出来事だと思います。あらゆるビジネスに共通する鉄則ですが、作るよりも売る方が大切です。クボタは高品質の機械を作っていますが、その起点が顧客にあることも大きな要因でしょう。顧客接点があるからこそ、長期的な好循環が生まれる。非常に説得力がある勝ちパターンで、多くの企業の教訓になる話です。惜しむべきは、それが世の中に広く伝わっていないこと。何に注力して、何を注力しないのか。それが分かるような競争戦略を示して、クボタならではの独自価値を主張してほしいですね。