
久禮 記述情報をはじめ、企業情報の開示は年々増加傾向にあります。また、2021年3月期からは、有価証券報告書にKAM(Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項)の記載の全面適用が開始されるなど、開示制度の変革によって、企業のステークホルダーが目を通すことを期待される情報の量は急激に増加しています。
開示される情報量が増えることは、投資家などのステークホルダーにとって望ましい動きであるように思えますが、「本当に知りたい情報」が探しにくくなるというデメリットも生じています。企業にとっても、努力をして開示情報を増やしたにもかかわらず、「伝えたい情報」を見つけ出してもらいにくくなるのは、望ましいことではありません。
矢澤 国内全上場企業の有価証券報告書を過去にさかのぼって分析してみたのですが、企業が開示する情報の量は30年間で約3倍に増えているようです。法定開示だけでなく、統合報告書などの自主開示も含めて、爆発的に増加しています。我々研究者は、このトレンドを“情報爆発”と呼んでいます。
さらに、以前は財務諸表に計上される会計数値などの財務情報が中心だったのですが、最近は企業の経営方針や戦略、リスク、ガバナンスといった記述情報、つまり「言葉(テキスト)による情報」が増えているのが特徴です。
その背景には、「VUCA時代」と呼ばれる将来予測が困難な時代において、企業としてどのように企業価値を向上させていくのか、また、ビジネスのどこにリスクが潜んでいるのかという情報に対するステークホルダーからのニーズが高まっていることがあると思います。
久禮 おっしゃる通りだと思います。しかし、テクノロジーを活用せずして、膨大な記述情報の中から、「知りたい情報」だけを抜き出していくのは容易ではありません。とくに記述情報には、常套句や同じ文言の繰り返しといったボイラープレート(定型文言)もかなり含まれており、数年前まではそれらを排除しながら求める情報だけを抽出するのは至難の業でした。
こうした背景から、近年、テキストマイニングが急激に利活用されるようになってきました。最近ではAIを活用して、人間の力では物理的に限界がある記述情報の読み解きも行われています。この技術は、ステークホルダーが企業の開示情報を読み解くためだけでなく、企業が投資家や社会に「伝わりやすい」情報発信をするためのツールとしても注目されています。