日経ビジネス電子版 Special

青学教授とPwCの専門家が提言 いかに「伝わる」工夫をするか“情報爆発”時代の企業情報開示と対話

情報開示姿勢を客観分析できるテクノロジー

久禮氏
久禮由敬
PwCあらた有限責任監査法人
パートナー

久禮  矢澤先生は、テキストマイニングを利用して、様々な角度から学術的な分析をされているとうかがっています。テキストマイニングの概要や研究内容についてお聞かせください。

矢澤  はい、様々な分析に挑戦しています。テキストマイニングによって、有価証券報告書などの膨大な記述情報から、特定のキーワードの出現頻度やキーワード同士の関係を抽出・分析することができ、企業が重視しているトレンドや企業の環境変化への対応状況などを読み解くことが可能です。例えば「共起ネットワーク」という手法を用いて20年3月期の決算短信テキストを解析すると、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が売上高と資金、および財政状態にどのような影響を与えたのか」が主たる話題となっていることが見えてきます。

 テキストマイニングを用いることで、「知りたい情報」を探し出す作業負荷を大幅に軽減するだけでなく、最近では書かれている内容の「読みやすさ」(可読性)や「センチメント」(トーン)の分析、機械学習による不正判定なども行えるようになりました。つまり、抽出した記述情報が伝わりやすい表現になっているか、ポジティブな印象を与えているかといったことも評価・分析できます。

 記述内容に関して言えば、久禮さんからお話があったボイラープレートがどれほど多く含まれているのかをカウントできることも特徴です。

久禮  実際、日本の上場企業の制度開示では、どれほどボイラープレートが用いられているのでしょうか。

矢澤  過去15年ほどの有価証券報告書を分析した際、MD&A(経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュフローの状況の分析)の文言は年々読みやすくなっているのに対して、リスクに関する記述はボイラープレートが少しずつ増えていることが分かりました。こうした傾向をつかむことは、企業が自社の情報開示姿勢の変化を見つめ直し、軌道修正を図る上でも有効だと考えます。

久禮  変化が目に見えると行動しやすくなりますね。企業が開示する情報媒体は、有価証券報告書や事業報告といった法定開示のための媒体だけでなく、統合報告書や知的財産報告書、サステナビリティ報告書など、自主開示の媒体まで多岐にわたります。これらの開示書類は別部門が作成を担うため、表記などにも差異が発生しがちですが、テキストマイニングを活用することは、開示情報の整合性を保つことにも役立ちます。

 また、最近では、コロナ禍の影響で株主説明会や決算説明会等がオンラインで開催されるようになり、その対話内容は、音声認識技術の進展によってほぼリアルタイムでテキスト化されるようになりました。

 人間の力だけでこれらの膨大な情報をすべてチェックし、整合性を取るのは容易ではありませんが、テキストマイニングを用いれば、発行・開示前に、部門の壁を越えて、開示書類間の結合性や一貫性、整合性についての確認を非常に短時間で実施することが可能です。これによって、ステークホルダーから、企業経営者による発信の矛盾を指摘されるリスクが抑えられるでしょう。

「開示の進化」が「対話の深化」をもたらす

矢澤  もう1つ、最近の法定開示の傾向を分析して明らかになったのは、開示資料内に図版が増えていることです。企業は、重要な内容は文章で書くよりも図版で簡潔に示そうと考えているのかと思いますが、機械を用いて図版の文字を認識し、その意味を読み解くことはかなりハードルの高い作業となります。その結果、企業側が「伝えたい情報」が抜け落ちてしまうという問題が生じます。

久禮  企業は、開示情報の「読まれ方」が変わっているという現状を認識して、伝え方を変える必要があるのではないでしょうか。

 テキストマイニングの急速な普及とともに利用障壁は著しく下がっており、機関投資家の中には、開示情報の一次査読をAIに行わせるところも増えてきています。こうした環境変化から、開示する情報についての機械による可読性(マシン・リーダビリティー)に、配慮することも重要になってきています。

矢澤  人間に読んでもらうことが前提の場合は、図版の多用は望ましいかもしれませんが、AIに解読してもらうためには、むしろ図版の多さを追い求めるのではなく、検索可能性を高めるほうが良いですよね。さらに、センテンスを短くし、主語と述語の関係を明確にするなど、可読性を高める工夫も重要です。

久禮  ただ「伝える」だけでなく、いかに相手に「伝わる」ように工夫するかが大事ですね。

 PwC Japanグループは、「有価証券報告書から読み解くコーポレートガバナンスの動向2021―テキストマイニングによる分析」というレポートの公開をはじめ、企業のテキストマイニング活用を様々な形で支援することで、「開示の進化」による「対話の深化」という好循環をもたらしたいと考えています。引き続き、アカデミズムにおける調査・研究・分析に学びながら、持続的な価値創造に向けた企業による開示と投資家との対話がより実り多いものになるよう、私たちも挑戦を続けます。

DXが進化させる対話の形

DXが進化させる対話の形
資料:PwCあらた有限責任監査法人 作成
テキストマイニングの普及とともに、ただ「伝える」だけの情報開示ではなく、いかに「伝わる」ように工夫するかが求められている
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