東京デジタル

「自然災害との対峙」は壮大な夢の第一歩

東京海上グループが進めるデータ戦略の中核拠点、東京海上ディーアール(TdR)。
社会課題の解決を支援するプラットフォームビジネスを創出するというグループの戦略に沿って
自社のビジネス領域の再定義を前提にした様々なプロジェクトを展開しつつある。
その分野は「自然災害」「ファクトリー」「モビリティ」
「ESG(環境・社会・ガバナンス)」「エネルギー」など多岐にわたる。
こうした取り組みを進めるうえでの大きな原動力となっているのは、
長い期間をかけて培ったリスク評価の技術と知見だ。

巨大地震や、想定外の大規模水害など、激甚化する自然災害は早急に対応すべき重要な社会課題になっている。

そうであっても、自然災害そのものをなくすことはできない。だが、やるべきことはある。東京海上グループが広範囲で展開するデータ戦略においても、自然災害は重要な位置を占める分野の1つになっている。

このデータ戦略の目標は、社会課題を解決するプラットフォームビジネスを創出すること。そのために、まず既存ビジネスを含めて様々な社会課題に対応するサービスをデジタル化する。ただ、それだけではダメ。デジタル化によって業務プロセスの合理化は進むが、かえってそのことが、サービス価格の低下を呼び、事業を縮小させてしまう恐れがあるからである。だから並行して、事業を再定義して「業容拡大」し、新たな収入を確保していかなければならない。そのうえで様々な企業、団体、顧客を巻き込むプラットフォームビジネスを構築する。さらに情報が急速に広がる「スケールフリーネットワーク」(注1)の特性を生かし、一気にビジネスを発展させる(図)。この一連の戦略の一端を担うのが、TdRが手掛けている自然災害リスク評価の技術や知見である。

注1)

スケールフリーネットワークとは、ネットワークの形態を表す言葉。多数のリンク(ノードをつなぐもの)を備えたごく少数のノード(ネットワークの要素)と、わずかのリンクしかつながっていない大多数のノードで構成されているのが特徴。スケールフリーネットワークは、情報が急速に浸透する「パーコレーション」と呼ばれる現象が発生しやすく、これが近年登場した巨大IT企業に、ある時期から急成長するチカラをもたらしたといわれている。

図 東京海上ディーアールが進めるデータビジネスのフレームワーク

図 東京海上ディーアールが進めるデータビジネスのフレームワーク

早くも「業容拡大」の動き

自然災害リスク評価は、TdRの母体となった東京海上日動リスクコンサルティング(TRC)が、長年手掛けてきた事業である。そこから、どう業容を広げていくか。それには大きく2つの方向性があるという。1つは、自然災害関連のサービスを、予測や予防から、発災時行動の意思決定支援の領域まで拡大することだ。

「これまでは、過去の観測データや被害データを基に、平時の取り組みを支援してきました。これからは、災害発生後の最適な対応まで求められることになる。そこで、災害対応に係る様々なデータと『自然災害リスク評価技術』(注2)を組み合わせて、最適な『リスクへの対応』、つまり発災時の対応や復興までを支援するシステムを開発しています」(TdR企業財産本部 リスク定量化ユニットⅡ ユニットリーダーの金子雅彦氏)。

金子雅彦氏

東京海上ディーアール 企業財産本部 リスク定量化ユニットⅡ ユニットリーダー 金子雅彦氏

具体的な取り組みとして同社は、GIS(地理情報システム)を利用して災害状況を可視化し、防災行動の意思決定を支援する情報配信サービス「NADIAct」をIT企業と共同で立ち上げた。さらに防災用センサーなどの測定データや公開されている地形データ、SNS(交流サイト)で発信されている情報などを取り込むことで、特定地域のきめ細かい災害対応支援情報を提供するシステムの概念実証も自治体と共同で取り組んでいる。

「災害への対応」まで踏み込んだシステムが実現すれば、サービスの幅はぐっと広がる。

「政府が2025年までに100地域に実装する方針のスマートシティにおいて、個人向けの防災行動支援サービスが提供できます。その先にはデジタル化による被災者生活再建の迅速化といったサービスもある。企業間でBCP(事業継続計画)のデジタル化が進めば、早期事業再開を支援することも可能になるでしょう」(TdR 企業財産本部 本部長 佐藤一郎氏)。

注2)

ここで言う自然災害リスク評価技術とは、自然災害の影響が、どこで、どのように、どれくらい発生するのか、発災時にどのような行動をとるべきかなどを、様々なデータを基にコンピュータで割り出す技術を指す。

データ活用で広がる新サービス

もう1つの「業容拡大」は、保険関連ビジネス以外への展開である。その1つが、金融不動産市場だ。

自然災害リスク評価の技術を使って、不動産デューデリジェンス(投資先のリスク評価)のサービスを強化する。この分野では、気候変動リスク情報の開示を求めるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に対応するための情報提供を多くの顧客が求めている。その際に焦点になっているのが、これまで手薄だった水害リスクをどう評価するかだ。このために欠かせないのが自然災害リスク評価に関する技術と知見である。

さらに、TdRは、より多くの分野で業容拡大を進める。このために、「モビリティ」「エネルギー」「ファクトリー」など複数の分野で、データ収集態勢を構築するための共同プロジェクトを展開している。

「業容を拡大するためには、その方向に応じて必要なデータがあります。その必要なデータを1社で集めることはできないので、他社との連携が欠かせません」(金子氏)。

知られざる技術開発力

データ戦略を進める同社が強みとしているのが技術開発力である。

「TdRが博士号取得者を含む多彩な分野の専門家を大勢抱えていることは、あまり知られていません。専門家集団の多くのメンバーが社外との共同研究に従事し、研究機関や大学とのネットワークを広げています。こうした社外との連携によって生まれるエコシステムがTdRの技術開発の原動力になっているのです」(佐藤氏)。この態勢を使ってゼロからコツコツと鍛えてきた技術の1つが自然災害リスク評価技術だという。

「同業他社の多くが社外からこの技術を調達しているのに対し、うちは社外と連携しながら独自に開発、進化させてきました。データ戦略を進めるための基盤技術として、今後もこれを継続していく方針です。並行して、商品開発部門と連携しながらデータビジネスを意識した新しい保険商品の開発にも役立てていくつもりです」(金子氏)。

こうした同社の技術開発の成果の1つが、自然災害リスク評価に適用しているAI(人工知能)の技術である。

「TdRは、最小限の知識を与えてから学習させる『トップダウン型AI』を、早くから自然災害リスク評価ロジックに実装し、改良を重ねてきました。さらに最近は、業界で話題になっている、大量の学習によって知能に近づける『ボトムアップ型AI』を併せて使っています。こうしたハイブリッド型AIを採用した自然災害評価ロジックを使いこなす企業は、ほかにはなかなか見当たりません」(佐藤氏)。

撮影:栗原克己

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