東京海上ディーアール
ビジネスリスク本部
シニアマネジャー
上級主席研究員
未来学者
株式会社 盛之助
代表取締役社長
コロナ禍、ウクライナ侵攻…。想定外の事態が次々と発生し、未来は混沌としてきた。企業からすればピンチでもあり、大きなチャンスともいえる。リスクを見極め、新たな飛躍の機会を見いだす力量が問われるからだ。企業リスクマネジメントのエキスパートである東京海上ディーアール(TdR)の青島健二氏と、未来学者の川口盛之助氏が、その指針を探る。
青島氏ロシアによるウクライナへの侵攻が始まり、あわてて海外事業戦略の見直しを始めた企業は多いはずです。ニュースが流れた翌日にはもう、大手のメーカーや広告会社から立て続けにリスク評価の依頼がありました。ロシアのことかと思ったら、その先の台湾有事の際の影響についてでした。
川口氏さすが、一歩先を行っていますね。根底にあるトレンドを知っているということでしょう。ウクライナ侵攻やパンデミックも、偶然起きたように言われていますが、まったく想定外というわけでもなかったと思います。トレンドからすれば、こうした事態に陥る可能性が高まっていることは分かっていましたから。ただ、いつ発生するかを正確に予測することはとても難しいですが。
青島氏確かに、こうした事件がキッカケとなって起きた様々な現象も、想定通りだったと言えるかもしれません。例えば、リモートワークです。将来はそうなるというのは分かっていた未来です。ただ普及するには5年くらいかかると思っていたのが、コロナ禍で一気に当たり前になった。
川口氏往々にして、大事件は未来を加速させます。既得権やら何やらで、進む方向は見えていながら遅々として進んでこなかったことが「そうは言っていられない」とばかりに前倒しで実行されてしまうからです。だからこそ未来予測で大事なのは、一つひとつの出来事の背後にあるロジックを理解し、本質的なトレンドを見極めることでしょう。このトレンドを、「メガトレンド」と呼んでいます。
青島氏大事件が頻発したことで、事業の先行きが読みにくくなったとお感じの企業は増えたでしょう。メガトレンドをつかんで未来を読むことがさらに重要になったとも言えますね。
川口氏起こり得るリスクを想定し、あらかじめ構えるためには、メガトレンドを押さえるという作業は欠かせないでしょう。実際、メガトレンドは、ある種の物理法則のように、私たちの社会を変化させ動かしています。例えば、IPS細胞などを使った臓器の再生や、脳とコンピューターを接続する技術など、技術が人間と融合する方向に向かう、という流れがあります。その根本にあるのは「永遠に生きたい」「能力を際限なく拡張したい」という人間の欲望でしょう。それが根源的なものである以上、この流れを止めることはできません。それを理解するということが、メガトレンドを押さえるということです。
青島氏リスクを避けたいというのも根本的な人間の欲求ですね。その行きつく先の理想形は、「止まらない社会」を実現することかもしれません。ただそれが実現すると、東京海上グループのような「リスクに備える従来の保険業」は、必然的にカタチを変えていくことになるでしょう。デジタル技術があらゆる分野に急激な変化をもたらそうとしている今、私たちはこうした将来も念頭に置くべきなのでしょう。
川口氏固定観念を捨て冷徹にデータを眺めれば、未来は意外に簡単に予測できます。例えば人口動態を見るだけで、組織や国の成長がどのような経緯をたどるかをある程度予測することが可能です。歴史を振り返ると「時代をけん引する主役技術が登場したタイミングで人口ボーナス期を迎えた国が発展する」という法則があるようです。この主役技術は、人口動態とは関係なく変遷するので、2つのタイミングが重なって、その時の主役技術をマネタイズできた国や組織が栄えるわけです。日本だって、そうでした。主役技術がエレクトロニクスだったときに、たまたま人口ボーナス期を迎え、ベビーブーマーと呼ばれる世代の人たちがエレクトロニクスの技術をモノにした。それを原動力として国の経済を発展させたのです。
青島氏企業もそうかもしれません。ならば、自身の未来を開くうえで、「主役技術」をいち早くつかむことは不可欠ですね。技術とは縁遠いように見える保険業界でも、シード技術がもたらす新しいビジネスの可能性に注目している企業は増えました。海外の大手保険会社の中には、先端企業の研究開発部門にいてもおかしくないような、「技術の目利き」ができる専門技術者たちを集めた部署を設けているところもあります。この動きを見据えてTdRでは技術の「目利き」をする機能を強化しており、プロジェクトごとに関連分野の専門家が参画しています。
川口氏技術の目利きは、これからもっと重要になるでしょう。技術にはライフサイクルがあって、萌芽期の技術はやがて成長期を迎え、そして成熟化します。「目利き」とは、その技術がこうしたライフサイクルのどこにあるのかを理解し「次の主役技術はこれ」ということを見抜くことです。
青島氏保険業界をはじめとしたサービス業で、シード技術に深い関心を寄せる企業が増えているのは、これを起点にメガトレンドを捉えようという意識の表れかもしれませんね。
川口氏サービス業が技術への傾倒を深める一方で、デジタル技術の進化を背景に、産業界全体は「サービス化」に向かうというのが私の見立てです。その流れの出口の1つが「リスクを引き受けるビジネス」でしょう。つまり、ものづくりの業界が「保険業」に似てくるということです。ものづくりの技術が進むと、自社以外のどこの工場でも同等品質の製品を作れるようになります。片や中古品や型落ちでもいいというユーザーが増えている。この状況下で製品に自社ブランドを冠する意味は、「自社が認めた品質を満たすもの」ということに他なりません。つまりメーカーの主たる業務が「品質保証」になる可能性があります。 「保険業」に似ると言っているのは、品質保証とは、万一問題が生じたときのリスクを取ることだからです。
青島氏全産業界が「リスク」ということに取り組む時代が来るということですね。そうであればなおさら、メガトレンドを理解し、リスクを先読みすることが重要になります。実は、こういった観点から、技術の目利きができる弊社のリスクマネジメントの専門家が未来を展望した『リスクシナリオ 2032 全産業編』という書籍をまとめ、先日出版したところです。この試みも、実はメガトレンドに沿ったものだとのご指摘をいただき、一安心しました。
撮影:栗原克己