脱炭素社会の実現に向けて、CO2排出量の少ない貨物鉄道輸送への期待が高まる。日本貨物鉄道(以下、JR貨物)は、鉄道ネットワークの強靭化とともに、貨物駅の高度化・結節機能の向上を図る。目指すのは、鉄道を軸に輸送手段を最適化するモーダルコンビネーションだ。実現に向けてJR貨物はパナソニックをパートナーに、“勘と経験”に依存する現場作業のシステム化を拡大してきた。ものづくり現場で培った「IE(インダストリアルエンジニアリング)とテクノロジー」により、鉄道コンテナ輸送現場が大きく変わり始めている。JR貨物の犬飼新社長とパナソニック コネクト(以下、パナソニック)の樋口泰行社長が対談。アナログ作業からデジタルへ、改革を成功に導くポイントや現場を理解することの大切さについて語り合った。
―日本の物流を担う輸送手段が抱える課題と、その解決策についてお聞かせください。
犬飼 物流網は、社会のライフラインです。安定した輸送を実現するためには、輸送手段のバランスが重要です。しかし日本の物流は、トラック輸送が占める比重が非常に高い。トラック輸送偏重により直面する社会課題は大きく2点あります。1つ目は、2050年カーボンニュートラル実現の観点から、トラック輸送のCO2排出量の削減。2つ目は、トラックドライバー不足・高齢化に伴う輸送能力の低下です。
日本貨物鉄道株式会社
代表取締役社長兼社長執行役員
犬飼 新 氏
2つの社会課題を解決に導くアプローチが、複数の輸送手段を組み合わせるモーダルコンビネーションです。貨物鉄道輸送は、貨物列車1本分の輸送力が10tトラック65台分、輸送単位当たりのCO2排出量がトラックの約10分の1。しかし、駅の外への輸送はできません。主要地点間を結ぶ幹線は鉄道で運ぶなど、輸送手段の特性を生かすことで、国内輸送インフラの脱炭素化、安定化、シームレス化が図れます。異なる輸送手段が連携するモーダルコンビネーションを実現するうえで欠かせないのが、物流網のIT化です。しかし、なかなか進まないのが現状です。
パナソニック コネクト株式会社
代表取締役 執行役員 社長・CEO
樋口 泰行 氏
樋口 あらゆる分野で日本の現場は、従業員の豊富な経験やスキルにより競争力や品質の向上を図ってきました。その一方で、現場への高い依存度が、欧米に比べてシステム化や標準化が遅れる要因の1つになったと言えるでしょう。しかし高齢化社会が進む中、熟練作業員が次々とリタイアし、ベテランのスキルに頼ることもできなくなる。10年後の“現場”のあるべき姿は、システム化を抜きに考えることは不可能です。現場の自動化とともに、伝授が難しいベテランの勘や経験をAI(人工知能)などで置き換えることで、品質の向上、作業の平準化を図ることも重要です。
鉄道がトラック、船舶、航空機などと連携し、最適な輸送手段を提供する「モーダルコンビネーション」。各々の特性を生かし、既存の枠にとらわれない交通インフラの最適解を求める
写真提供:日本貨物鉄道株式会社
―JR貨物における現場のIT化について教えてください。
犬飼 JR貨物もいわゆる労働集約型で、人に頼らなくてはできない作業が多く存在します。現場のIT化として、象徴的な事例がフォークリフト作業のプロセス変革です。当社では2000年から取り組んでおり、パナソニックさんには2012年からパートナーとしてご協力いただいています。フォークリフトオペレーターは元々、行き先などが書かれた紙ベースで作業を行っていました。1日1万個以上のコンテナが動いています。フォークリフトによる荷役作業のIT化は、懸案事項でした。
このIT化の中で、貨物駅でのフォークリフトによるコンテナ荷役作業管理システム「TRACEシステム」を開発してきました。しかし勘と経験に基づくアナログ作業のシステム化は、容易ではありません。IT技術と現場に対する理解の両面が必要となるからです。長年試行錯誤を重ね、システムの維持と発展に苦戦してきました。パナソニックさんにパートナーとなっていただいてからは、堅牢なハードウエアで業務を止めないシステム設計を活用することで、より安定的で、費用対効果に優れたシステムを構築することができました。パナソニックさんには何度も現場に足を運んでいただき、結果見つかった改善点を修正できたことで、さらなる飛躍につながりました。現場に寄り添い、現場と一緒にIT化を進める、パナソニックさんの企業姿勢を高く評価しています。「TRACEシステム」によりコンテナの位置情報をリアルタイムに把握することで、フォークリフトによる荷役作業を見える化し、作業の平準化、効率化を実現する現場になくてはならないシステムとなりました。現在、全国のコンテナ貨物駅139駅のうち、111駅で導入しています。
TRACEシステムの実際の使用イメージ。画面から指定のコンテナの位置情報を瞬時に把握可能。デバイスには高い堅牢性を誇るパナソニックの「タフブック」を採用、現場からの感触は良好だ
樋口 犬飼社長におっしゃっていただいた「現場に寄り添う」は、ものづくり100年の中で受け継がれてきたパナソニックのDNAです。また、ハードウエアとソフトウエアを組み合わせ、現場基点でシステムを洗練させていくのも、当社の強みです。TRACEシステムは、GPSとJR貨物さんが設置するIDタグ(無線ICタグ)により、貨物駅構内におけるコンテナの位置を数十センチ単位でリアルタイムに把握できます。また、コンテナが置かれている場所に番地のような特定の符号を付け、どのコンテナが何番地にあるといった情報をフォークリフトの車載端末に通知。目的のコンテナへの移動の効率化が図れます。コンテナ搬送の自動報告、フォークリフトの現在地の一元管理など荷役作業の見える化が可能です。さらに重量検知センサーによりコンテナ重量を自動計測し、過積載でないかをチェック。荷役時間の短縮と作業の正確性、安全性の向上を実現します。
―荷役作業のIT化の次のステップとなる、現場改革のテーマをお聞かせください。
犬飼 TRACEシステムに関して、当社の情報システム部とパナソニックさんのSE部門が密に連携をとっており、現場の状況把握・対応はもとより、さらなる進化に向けた取り組みが続いています。TRACEシステムにより、フォークリフトオペレーターは勘や経験に頼らず、ディスプレイに表示される作業指示に従い、コンテナ荷役作業を行っています。人手不足の解消、作業の平準化に向けた現場改革の大きな一歩です。次のステップとして、フォークリフト動線の最適化について、パナソニックさんにご検討いただいています。広い構内を多くのフォークリフトが作業しておりますが、コンテナ荷役作業の順番やそれに伴い発生する走行ルートの選択は未だ勘と経験の領域です。コンテナとフォークリフトの位置や状態といった情報を活用し、人もリフトも最大限に生かす、ムダのない荷役作業の実現を目指します。
樋口 難しいのは、熟練度や性格など人によって走行ルートの選択の仕方が異なるということです。これを効率的な作業とするには従業員個々の作業分析が必要となります。パナソニックは、工場における生産性、効率性の追求において、工程や作業内容を科学的に分析し、最善の生産管理方法を追求する手法「IE(インダストリアルエンジニアリング)」に磨きをかけてきました。IEとセンサー、AIなどのテクノロジーを融合することで、フォークリフト動線の最適化はもとより、「誰が、いつ、どのように」荷役作業を行うか、システムによる計画・指示を可能にします。
犬飼 現場を知り、テクノロジーと結びつけることが大切だと、私も思います。パナソニックさんの展示会に足を運ぶと、「この技術を使えば、当社のこの課題を解決できる」といった、技術との出会いが楽しみです。例えば現場では、人の目で確認・点検する作業が多くあります。ウエアラブルのカメラを使った画像認識により、点検の効率化と精度の向上が可能です。人が介在する現場作業のシステム化では、AIの活用が欠かせませんね。
樋口 そうですね。課題となるのは、お客様ごとにAIシステムの開発を行うと、コストも期間も膨大になるということです。パナソニックが、2021年9月に買収完了したサプライチェーン・ソフトウエア世界的大手のBlue Yonderは、優れたAIパッケージを有しています。今後、AIパッケージを軸に、メンテナンス領域はもとより技術継承など現場改革のニーズに応えていきます。
写真はJR貨物からパナソニックに寄贈された、パナソニックのロゴが入ったコンテナの鉄道模型。両社の関係性の深さを物語る
―モーダルコンビネーションの実現に向けて、JR貨物の具体的な取り組みをお聞かせください。
犬飼 JR貨物において、物流現場のあるべき姿が次世代貨物駅「スマート貨物ターミナル」です。パナソニックさんにもいろいろご協力いただいており、移転を予定している仙台貨物ターミナルで実現を目指しています。同駅では、入換機関車の無線操縦や隊列トラックの導入など、駅作業の省力化や安全性向上のほか、レールゲート(マルチテナント型物流施設)を建設し、貨物駅との間でコンテナ自動搬送、貨物の自動積替え機能などの技術開発を進め、従来の貨物駅にはない先進的なオペレーションの駅にしていきます。また、貨物駅に直結したレールゲートをご利用いただくことで、お客様の発から着までのトータルの輸送コスト削減に寄与いたします。
レールゲートは、物流機能以外にも、鉄道、トラック、飛行機、船舶といった輸送手段の結節点という重要な役割を担います。結節点機能を持つ貨物駅は、鉄道を軸としたモーダルコンビネーションの拠点です。2020年3月に「東京レールゲートWEST」が営業を開始し、この5月には「DPL札幌レールゲート」また7月には「東京レールゲートEAST」が完成しました。今後、全国主要都市へ結節点を広げます。JR貨物は、鉄道ネットワークと結節点機能を持つ貨物駅からなる物流プラットフォームを構築。最適な物流ソリューションをワンストップで提供する総合物流企業を目指します。当社の現場を深く理解しているパナソニックさんには、今後も引き続き、現場視点を大切にした先進的な提案をお願いいたします。
物流現場は悪天候でも、昼も夜も稼働しなければならない。社会に必要不可欠な事業であるだけに、課題解決と全体最適化は急務といえる
樋口 モーダルコンビネーションは、俯瞰して見ると、CO2削減、効率化、物流安定化に向けた国内物流網の全体最適と捉えることができるでしょう。Blue Yonderの技術を活用し、パナソニックが提案するオートノマス(自律型)サプライチェーンの考え方とも一致しています。AIなどを活用し、システムが変化に応じて最適なルートや手段を判断し、現場にフィードバックする。先進のテクノロジーやシステムの導入において、重要なポイントは導入しただけでは改革につながらないということ。現場理解とITの両輪で進めることが大切です。今後も、JR貨物さんとの厚い信頼関係のもと、パナソニックは現場に寄り添い、IEとテクノロジーを駆使し、同社が目指す貨物鉄道輸送の現場改革、総合物流企業の実現をご支援していきます。犬飼社長、ありがとうございました。
お問い合わせ
「かなえよう。」スペシャルサイト_case05_鉄道輸送の現場を再発明する
- パナソニック コネクト
パナソニック コネクト株式会社
https://connect.panasonic.com/jp-ja/