静かなるゲームチェンジの号砲

大量生産・大量消費・大量廃棄…… 従来の常識は通用しない。
サーキュラー・エコノミーの時代に世界は突入した。
「地球の限界」を知り、中長期的視座での経済活動が始まっている。
新たなルールのもと、資源循環というテーマにいかに向き合うべきか。
企業価値を高めるための、鉱脈を探ってみる。

総論

循環資源大国の実現に向けて
官民共同モデルで
グローバル競争を勝ち抜く

脱炭素の“カギ”を握るサーキュラー・エコノミー。世界がしのぎを削る巨大市場で、日本がリーダーになれる軸は何か。世界に伍する技術を有する日本。その技術力を生かしたビジネスモデルが実現できれば、日本は「循環資源大国」になりうる。今はその好機だ。経済産業省 田中将吾氏に、日本の戦略と具体策を聞いた。

経済産業省
産業技術環境局 資源循環経済課 課長
田中 将吾 氏

2001年経済産業省入省。経済産業政策局 調査課、商務情報政策局 情報通信機器課、経済産業政策局 産業再生課で課長補佐、大臣官房会計課で政策企画委員、資源エネルギー庁 長官官房 総務課で戦略企画室長を経て、2020年日本貿易振興機構 ベルリン事務所 次長。2022年から現職。

サーキュラー・エコノミー(循環経済)を前提にした新市場の創造に向け、世界は急速に動き出している。欧州が取り組む成長戦略「欧州グリーン・ディール」では、サーキュラー・エコノミーをCO₂削減の重要な基盤と位置づけ、様々な規制が進む。米国では、個々の民間企業がサーキュラー・エコノミーに率先して取り組み、再生資源の利用を戦略的に拡大している。画一的なルールではなく、競争原理によりダイナミックに新市場を創出しようとするのはいかにも米国らしい。

日本がサーキュラー・エコノミーの実現を目指す上で重視すべき“軸”は何か。「欧州型の規制アプローチは、需要と供給のバランスが取れないと企業の疲弊を招き、道半ばで停滞する可能性があります。米国型の個社対応では、設備投資など不可逆的リスクが大きくなりかねません」と経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課 課長 田中将吾氏は指摘し、こう続ける。「大事なのは、サーキュラー・エコノミーをいかに回し続けるか。1つの車輪ではなく、官民共同の両輪で進めていくことが日本では重要です。政府目標であるカーボンニュートラルを達成する上で、サーキュラー・エコノミーが非常に有効であることを理解していただくことも含め、官民一体で取り組んでまいります」。

ビジネス成長を伴う資源循環
達成度の見える化を推進

2020年5月、経済産業省は日本におけるサーキュラー・エコノミーの方向性を示す「循環経済ビジョン2020」を公表。「環境活動としての3R(Reduce、Reuse、Recycle)」から「経済活動としての循環経済」への転換を目指すとした。3Rの延長線上ではなく、資源投入量・消費量を抑え、ストックを有効活用して付加価値の最大化を図っていく。2022年10月には、官民共同で同ビジョンを実現する「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」が立ち上がった。名称に込めた狙いについて「資源循環は一過性のものではありません。持続性の観点では、ビジネスの“成長”を伴うことが必要です。また、パンデミックや地政学的環境などにより資源を巡る世界的緊張が高まる中、“資源自律”の観点でサーキュラー・エコノミーを捉える重要性が増しています」と田中氏は話す。

同研究会では、動脈産業(天然資源を使ってモノを作る産業)、静脈産業(廃棄物として回収・処理し、再資源化する産業)、有識者、消費者、IT分野などの代表者が一堂に会し、大所高所から議論して認識の共有や提言を行う。研究会で扱うテーマについて田中氏は話す。「再生可能資源を調達条件とするグローバル企業が今後増える可能性があります。リサイクルを前提としたものづくりや、高度なリサイクル技術の開発を推進し、ビジネスモデルの革新を図ることは優先課題です。再生資源のみに頼るのは限界があるため、“バイオものづくり”の技術向上や、長期利用のための財のサブスクリプションやシェアリングも重要です。また、欧米では“修理する権利”(メーカーを通さない形で各製品の修理ができる権利)なども議論されています」。

企業の挑戦には資金調達が欠かせない。「資源循環に取り組む企業に対し、資金を直接提供できるのは消費者と金融機関です。応援する企業を選択する際、評価の根拠となる数値を示すために、企業における資源循環達成度の見える化を進めます。投資における判断基準の明確化により、金融市場がサーキュラー・エコノミーの車輪の一つになる必然性が生まれます」(田中氏)。

■サーキュラー・エコノミー(循環経済)と成長志向型の資源自律経済
従来は一方通行だった経済の流れを変革し、自律した強靭な資源循環システムを構築。国際競争力の獲得を目指す

世界に冠たる技術を有する日本
課題はビジネスモデルづくり

サーキュラー・エコノミーにおいて、世界に対していかに競争優位を確立していくべきか。技術とビジネスモデルの2つの観点から、田中氏は言及する。

「日本は、ものづくりやリサイクルの分野で世界に冠たる技術を有しています。しかし、チャレンジすべきテーマがあります。例えば、リサイクルの精度を決定づける分別技術。動脈産業、静脈産業それぞれの強みや弱点を見据え、分別技術を高めるための研究開発や実証を進めています。産業全体から俯瞰して個々の技術を捉えることが重要です」

「問題は、技術をいかにビジネスベースに乗せるか」と田中氏は指摘し、こう続ける。「海外企業は、再生資源やバイオ資源の利用率を可視化し、付加価値として販売するなど、マネタイズに長けています。発想の柔軟さは、日本も見習うべきです。新設した研究会でも海外のケーススタディーなどを紹介していきます。マネタイズは、需要の創造と表裏一体です。サーキュラー・エコノミーの有効性の可視化は、ビジネスモデルの定着においても重要です」。

日本企業にとって、サーキュラー・エコノミーの取り組みが遅れることによる最大のリスクは、「突然、市場から再生資源利用率何%以上という数値が示されること」と田中氏は強調する。「逆転の発想に立つと、市場のニーズに応える技術と供給能力を持つことが、静脈産業はもとより動脈産業の強みとなります。リスクとビジネスの両方の観点から、民間企業は資源循環の取り組みに対するコストを先行投資と考え、スピード感を持って着手すべきです。政府は投資の支援を含む環境整備に力を注ぎます。官民一体となって踏み出す覚悟を持つことが、グローバルでの競争力につながります」。

循環資源の需要拡大に伴い、資源の争奪戦も激しくなる。日本はアジア経済圏を充実させ、動脈産業も静脈産業も価値を提供していく戦略が必要だ。サーキュラー・エコノミーは、日本を「循環資源大国」に変える好機となる。官民のチャレンジは、環境と経済の両面で日本を新時代のリーダーに押し上げる。

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