2月28日から4日間にわたり開催された、第39回流通情報システム総合展「リテールテックJAPAN 2023」。日本マイクロソフトは3年ぶりにリアル展示会に出展した。危機に直面する小売業に向けて、苦境を突破し回復・成長に導くためにマイクロソフトが掲げる「Resilient Retail(レジリエント・リテール)」と、実現を支えるパートナーとの共創を紹介。ブースは熱気と会話であふれていた。展示会の様子をレポートする。
小売業は、コロナ禍、サプライチェーンの混乱、インフレ、エネルギーコスト上昇、労働力不足など複合的な危機に直面している。小売分野で世界最大規模の展示会「NRF(全米小売業協会) 2023」のタイトルは、「ブレークスルー」。厳しい状況が続くと予想される中、「打開策をどう導き出すか」に焦点が当たっていた。
マイクロソフトは、小売業の厳しい状況を理解した上で、苦境を突破し迅速なビジネス回復を目指す新たなテーマとして「Resilient Retail」を掲げた。Resilient Retailとは、変化対応型小売業への変革を意味する。重要なポイントは、変化に応じて柔軟に守りと攻めを切り替えること。そのためにはデータに基づく、現状の把握と未来の予測が必要だ。データとクラウドの活用を拡大することで、生産性を上げ利益を確保し、新たなオペレーション改革やビジネス創造にチャレンジしていく。
具体的には、信頼できるデジタル基盤「Microsoft Cloud for Retail」の提供により、「顧客エンゲージメントの向上」、「従業員の業務効率化と働き方改革」、「リアルタイムでサスティナブルなサプライチェーン」、「データによる新たな価値創出」の4つのシナリオで、パートナー各社とともに、Resilient Retailの実現を支援する。
「リテールテックJAPAN 2023」における日本マイクロソフトのブースは、4つのシナリオでコーナーを分割。Resilient Retailの考え方に賛同するパートナーが、自社に合ったテーマのもとでソリューションを紹介した。また、ブース前では日本マイクロソフトとともに、パートナー各社がセミナーを実施。多くの人が足を止め聞き入る姿から、関心の高さが窺えた。ブース内も活気にあふれ、活発な意見交換が行われていた。Resilient Retailとは具体的にどのようなものか。4つのシナリオによる展示コーナーをレポートする。
顧客エンゲージメントの向上
モノ売りから脱却し、より付加価値の高いサービスや体験価値を提供していくためには、顧客とのコミュニケーションのあり方の見直しや、顧客をもっと知るための仕組みが求められる。
日常生活で利用する人が多いLINE。小売業の戦略として、顧客とつながり続けるためにLINEを活用できないか。LINE株式会社の展示コーナーのテーマは、OMO(Online Merges with Offline)基盤としてのCDP(Customer Data Platform)の実現。LINE、Microsoft Azure、Microsoft Dynamics 365を組み合わせることで、店舗やECサイトでの購買データ、体験イベント参加情報を把握した上で、個々のお客様に寄り添う継続的な価値提供を可能にする。
多様化する価値観に対応し、顧客をファン化するコミュニティマーケティングが注目を集めている。ディスカバリーズ株式会社の展示コーナーでは、顧客同士が交流するコミュニティを提供するソリューション「Discoveries engauge for Retail」を紹介。良質かつ信頼できる情報の共有が購買行動を促進する。ディスカバリーズはソリューションの提供だけでなく、コミュニティの形成とビジネスへの貢献を成功に導くために伴奏型で支援を行う。
Webサイトやモバイルアプリなどのデジタル接点において、マーケティング観点で関心の高いのが「なぜ購入しないのか?」という購買心理だ。Contentsquare Japan合同会社の展示コーナーでは、デジタル顧客体験アナリティクスによりデジタル接点で最も顧客を引きつけ、収益に寄与している要素や商品を定量的に可視化。推測ではなく、データに基づく事実によるインサイトを提示し、ECの収益最大化を図る。
従業員の業務効率化と働き方改革
リテールにおける店舗での、業務効率化やハイブリッドな働き方の実現は、利益の確保や店頭顧客体験の向上に欠かせない重要なテーマだ。このためのクラウドサービスと各種デバイスを組み合わせた先進ソリューションが提供されている。
ローコストで導入できる「小売共通機能を装備したクラウドPOS」を紹介した、オープンリソース株式会社の展示コーナーでは、担当者の説明に対し熱心に質問する人の姿が目立った。店舗規模や用途に応じて、最適なハードウェアと必要な機能の自由な組み合わせによりITコストの削減を実現。また、従来PCやハンディターミナル、電話などを使い分けていた業務を、スマートデバイスに統合/集約することで、業務効率化の向上、働き方改革推進に貢献する。
リアルタイムでサスティナブルなサプライチェーン
リテールにとって、サプライチェーンの整備は喫緊の課題である。すでに一部のリテールでは、このためのマスター整備などにも取り組み始めているようだ。目指すのは、取引先を含むエコシステム全体を接続・可視化し、データに基づき、需要と供給の変化に柔軟に応える持続可能なサプライチェーンの構築である。
在庫管理の観点で、小売業におけるサプライチェーンの出発点と言えるのが店頭棚だ。SES-imagotagの展示コーナーでは、クラウドに接続した無線カメラを商品棚に設置し、AI駆動型の在庫管理を実現する、Captana(商品棚リアルタイム監視ソリューション)を紹介。店舗のデジタル化により商品や棚の状況を可視化し、運用効率を高め顧客満足度の向上を図る。
人手不足が深刻化する中、倉庫自動化のニーズが高まっている。株式会社YEデジタルの展示コーナーでは、自動倉庫に特化したWES(倉庫実行システム)を紹介。自動化設備のスピーディな導入とともに、倉庫内のオペレーション全体の最適化を実現。自動化、省人化、ロス削減により倉庫スループット最大化に貢献する。物流倉庫の複数拠点への展開も可能だ。
データによる新たな価値創出
顧客とのタッチポイントから様々なデータを収集・分析し、可視化することの重要性がますます高まっている。データ活用により“気づき”を得ることで、継続的なオペレーションの改善や、収益拡大、新たな価値創出を実現できるからだ。
顧客のライフスタイルや嗜好の多様化が進む中、飲食小売業では勘と経験に頼った店舗運営の見直しが求められている。EBILAB株式会社の展示コーナーでは、店舗に関するデータを可視化した「店舗分析BI」と、来客・売上・メニュー出数などを予測する「来客予測AI」を兼ね備えた「TOUCH POINT BI」を紹介。属人化から脱却し、データに基づく店舗運営を行うことで、レジリエントな飲食小売業を実現できる。
リテールメディアは、データ活用による新たな収益源を創出する。構築・協業するリテールメディアの規模が、配信可能リーチ数3100万人、購買分析可能な流通決済総額8兆円を突破した株式会社アドインテ。同社の展示コーナーでは、小売業が保有するオフライン・オンラインすべてのタッチポイントを媒体化するリテールメディア構築支援Connected Retailを紹介。小売業のメディアとしての価値を創造し、顧客体験の向上に貢献する。
データによる価値創出では、大量データを効率的に処理できるデータ分析プラットフォームが必要だ。従来の課題は、BIとAIが分断されていたこと。Databricksは、構造化データの分析で利用するデータウェアハウス機能と、半構造化・非構造化データの分析で使うデータレイク機能を1つのレイクハウスプラットフォームに集約することで、コスト削減、生産性向上を図る。Databricksを Azure 向けに最適化したのが Azure Databricks である。小規模データ利用のEBILAB株式会社から株式会社アドインテ、大規模データ利用の北米スターバックスまでシンプルな構造かつ優れた拡張性により Azure Databricks の活用シーンが広がっている。
技術革新は、これまでも小売業の未来を切り拓いてきた。変化に強い、持続可能な小売業への進化を目指すResilient Retailにおいて、最新テクノロジーはどのような役割を果たすのだろうか。その一端を垣間見る展示もあった。
今回、日本マイクロソフトのブースで人気を集めていたのが、メタバースの展示コーナーだ。HoloLens 2 と Dynamics 365 Guides により、アパレルを想定した店舗従業員教育のデモが行われた。HoloLens 2 の画面はデモのモニターに表示され、聴衆との間で情報を共有。HoloLens 2 をつけた新人従業員役の女性が、空間に表示された作業ガイドに従って接客におけるポイントを学んでいく。メタバースで自身のキャラクターを動かし、あたかも実空間で作業しているかのように、没入感のある指導体験を受ける様子は革新的だ。
小売業における競争ではなく、共創をテーマにした展示も興味深かった。企業間でデータを共有し、経費削減や安心安全に向けて、企業間の垣根を超えた共創型プラットフォームの構築を目指すというものだ。エネルギー、機器の保守・メンテナンス、防犯、災害対策など利害関係の及ばない領域を対象とする。重要なポイントは、数字を羅列した表ではなく、店舗における冷蔵庫や空調、照明などのデバイス管理の情報を IoT データとして収集・分析し、デジタルツイン店舗としてわかりやすく表現すること。ビジネスの担当者が直観的にわかりやすく、なおかつ使いやすいものでなければ活用されないからだ。現在、小売企業の間で議論が進められている。
話題の「ChatGPT」など最先端のAIを利用できる「Azure OpenAI Service」に対する期待は大きい。ブース前で行われた日本マイクロソフトのセミナーでは、小売業のECサイトで「ChatGPT」を活用したケーススタディを紹介。今後、企業が利用できるAIサービスとして順次提供される。
4つのシナリオの展示コーナーを一周すると、Resilient Retailの目指す姿が見えてきた。DXの本質と向き合い、課題解決に向けて、リテール企業とテクノロジー企業がこれまで以上の協力体制でDXを推進できるか。実行する時期が来た。
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