タレントマネジメントを活用した科学的人事が注目を集める今、デンソーでは人材情報DX基盤を活用し、ソフトウェア分野における人材育成の取り組み「キャリアイノベーションプログラム」を推進中だ。データドリブンで人×組織を最大化するチャレンジについて聞いた。

グローバル企業が動き出した
キャリア自律支援

世界屈指の自動車部品メーカーとして74年の歴史を誇るデンソー。35の国と地域に拠点を構え、グローバルで17万人が働く巨大企業だ。

2021年、同社は新たな人と組織のビジョン「PROGRESS(プログレス)」を策定した。Professional(プロ)とProgress(進化・挑戦)をかけ合わせた意味を込めており、社員のキャリア自律と成長を促す施策の見直しを進めている。

策定の背景には“100年に1度の転換期”を迎えた自動車業界の現状がある。変化の激しい環境を乗り切るため、モノづくりの量産実現力、コトづくりの事業実現力を兼ね備えた「実現力」のプロフェッショナル集団へと生まれ変わることを目指している。

PROGRESSに先駆け、2019年からはソフトウェアの開発力強化に乗り出した。CASE時代を見据え、モビリティを中心とした技術が社会全体と密接につながる中、ソフトウェアの重要性がさらに高まっているからだ。そこでソフトウェア分野における人材育成プログラム「キャリアイノベーションプログラム」(以下、CIP)をスタートさせた。改革を推進する矢野健三氏は、その内容をこう説明する。

*CASE:Connected:コネクテッド、Autonomous:自動運転、Sharing & Services:シェアリングとサービス、Electric:電動化、それぞれの頭文字を取ったもの

自らキャリアを描き、学び続けることでキャリア開発と活躍のサイクルを回していく

「CIPは継続的な学びを支援するリカレントプログラム、キャリア志向と活躍の場をマッチングするアサインプロセス、上位のプロが寄り添って現場で指導するバディ制度、自身の保有スキルを客観的に認定するソムリエ認定制度から成っています。自らが将来像を描き、学び続けることでキャリア開発と活躍のサイクルを回し、ポジティブスパイラルで上昇していくイメージです」

役割と能力のマップを作成
可視化によって自分を把握

CIPの稼働に向け、推進チームはまず「役割マップ」と「能力マップ」を作成した。役割マップには約40職種、能力マップには18種類×7段階のレベルを設定している。“共通のものさし”によって可視化することで、「『私はいまここにいるが、ここを目指したい』というキャリア目標を、上司と部下が共通のマップを見ながら確認できるようになったのは大きな成果」と矢野氏は話す。

「それまで深めてきた専門的知識だけではなく、実プロジェクトにおける成果を組み合わせて評価します。レベル4以上の高度プロフェッショナル人材については正式なアセスメントを経てソフトウェア・ソムリエに認定されることが、一つのキャリアステップになり、さらに次のステップアップを考えることができるようになります」(矢野氏)

ソムリエ認定制度については親和性の高いソフトウェア部門から開始しているが、矢野氏は「段階的にエレクトロニクス・ハードウェア部門など関連領域へも拡大したい」と意欲を見せる。一方のリカレントプログラムは、人事部門と共同でソフトウェア開発の未経験者にソフトウェアの基礎を学んでもらう「キャリア転進プログラム」も運営しており、すでに2年目、8期生を数えるまでになった。

「約3カ月間の座学および研修、その後実践トライアルのPreOJT期間を設けています。キャリアの転換になるため、いかに順調に立ち上がるかも重要ですから、上司・組織の支援に加えて専門家を含むキャリアプランデスクによる多面的なキャリア自律の支援を併せて行うことにより、新しい職場でも安心してトライできる環境を整えています」(矢野氏)

人材情報をツールで一元化し
データに基づく客観的な支援を充実

これらCIPの取り組みの中心にあるのが、人材情報DX基盤だ。マネジメントツールにはプラスアルファ・コンサルティングの「タレントパレット」を採用している。モビリティエレクトロニクス経営企画部 キャリア支援室 担当次長 鈴木章三氏は、CIPの重要な構成要素として人材情報DX基盤を位置付けた決め手を次のように語る。

「先ほど説明した世界観をデンソーグループ全体で実現しようと思うと、どこにどのような人材がいるのかを見える化し組織力をより高めていくことが重要です。すなわち、いかに組織間の風通しを良くしてデータを共有するかが鍵を握ります。こうしたデータに基づく科学的なタレントマネジメントが重要だと考え、組織変更や人事異動に左右されずに情報を一元化したいとの思いで採用に至りました」

冒頭で述べたように、デンソーグループ各社で保有する人事基幹システムそのものを横断的なキャリア自律支援に適用することは現実的ではない。そのため人事部の協力を得て人事基幹システムと連携した2階建ての構造にし、CIPの共通な定義を軸とした運用を可能にした。

「人材情報の可視化は、我々の活動にとって不可欠なものです。これまでは各社ごとのシステムで、場合によっては表計算ソフトでの管理などもあり、デンソーグループ全体で分析してマップを作成することは極めて困難でした。それを打開するための第一歩として非常に効果的なツールであり、人材情報DX基盤なくしてはここまで来ていなかったと思います」(矢野氏)

人材情報DX基盤をさらに定着させ実践的な効果を高めていくことが今後の課題であり、「ポイントは情報をどんどん活用することにあります」と鈴木氏は言う。

「なぜなら、本人が自らデータを活用してキャリア目標を考え、そこに向けたチャレンジ計画が見えるようになれば、上司・組織の支援を得やすくなります。また、経営層、育成関係者などが広くデータを利活用し改善を繰り返すことで、精度の高いデータの蓄積につながり、より客観性・納得性の高い実践的な支援が可能になるからです」(鈴木氏)

矢野氏は「変革の真っただ中にある自動車業界において、まずはソフトウェアの世界で改革の成功体験を積み重ねていきたい。人×組織のかけ算で提供価値を最大化するのが目標です」と展望を述べた。PROGRESSの考えに沿ったCIPの活用によってデンソーは次世代にフィットした人材力を手に入れようとしている。日本をリードする企業の革新的な取り組みは、多くの企業にとって励みとなるに違いない。

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