人的資本経営の重要性が叫ばれる中、個人の能力の可視化や自律的なキャリア形成、リスキリングが注目されている。人材活用に詳しい慶応義塾大学の岩本隆特任教授、そして「タレントパレット」を提供するプラスアルファ・コンサルティングの鈴村賢治氏との対談から、これからの企業に必要な人事戦略を読み解く。
「人材活用」こそが
企業成長のキードライバーに
――組織のパフォーマンス向上を目指し、個人の能力可視化に取り組む企業が増えてきました。こうした傾向についてどう思われますか。
岩本 失われた30年を経て、ようやく人材の重要性に気づいたのではないでしょうか。2017年3月に働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」を公表しましたが、そこを起点にワークライフバランスを重視し、テクノロジーの活用によって労働生産性を向上する動きが活発化しました。それが現在のHR(人事・労務関連)テクノロジーの隆盛につながっています。
鈴村 我々がタレントマネジメントシステム「タレントパレット」をリリースしたのが2016年で、まさにその流れと合致します。弊社は創業以来、マーケティングにおけるビッグデータ分析を得意としてきました。それを踏まえ、「顧客の見える化はそのまま社員の見える化に活用できる」との観点から、分析技術を人材領域に応用しました。
さらに2020年には新型コロナが世界中を襲い、業態そのものを転換するなど経営に直結する課題が出てきました。ここで重要なのは紛れもなく人材です。迅速な意思決定のためにも、人事戦略の見直しが必要になったのです。
――スキルの可視化が企業にもたらす効果とは何でしょう。
鈴村 例えば、中期経営計画などで事業転換や新規事業を実施するなど、現状の事業から大きく変化していかなくてはならない場合、今後のあるべき姿に向けて必要なスキルが異なってきます。そうした際に経営層は可視化したスキルマップを参考にして、全社的にどのようなスキルを持っている人がどれくらいいるのかなどを、人材ポートフォリオとして把握し、適切な人材配置や人材育成、採用計画などが可能になります。とかく人事は属人的で、経験と勘が先行してしまいますが、担当者が辞めてしまえばブラックボックスになってしまう。持続可能性の面でも、データによるスキルの共有は欠かせません。
――昨今では人的資本経営がハイライトされていますが、企業の変化を感じますか。
岩本 既存産業が成熟した現代の日本企業にとっては、事業ポートフォリオの変革が最も大きな経営課題となりました。変革の推進力は、かの松下幸之助氏が「企業は人なり」との言葉を残したように、イノベーティブな組織であるかどうかにかかっています。現に企業の統合報告書でも人材の活躍や成長、柔軟な組織文化を掲載し、投資家の判断材料とするケースが多数見受けられます。
鈴村 これまでの企業の基準は「ヒト・モノ・カネ」でした。しかし、新規事業を立ち上げたり、組織を変革したりする場合は人間の創造性が不可欠です。そのため企業は、「ヒト・ヒト・ヒト」が成長を左右するキードライバーだと認識するようになりました。
そうした中、必要なポジションに必要な人材を当てはめる適所適材のアプローチが浸透してきました。いわゆるジョブ型で、相当数の企業が検討しています。ただし、社員のパフォーマンスを最大化する適材適所も忘れてはならない。この両輪をうまく回すことが、日本企業の経営層、人事部門にとって腕の見せどころになるでしょう。
社員のキャリア形成を導き
企業が支援することが大切
――キャリア形成に向け、新たな知識を習得するリスキリングも盛んです。顕著な例がDX人材の育成ですが、煩雑なITスキルをどう測定すればいいのでしょうか。
岩本 データを活用し、スキルを標準化したスキルマップが有効です。欧米ではスキルマップが浸透しており、採用、異動、育成など人事関連のすべてにまたがるプラットフォームに進化していくと言われています。
鈴村 タレントパレットでは、一般社団法人iCD協会の定義する「iCDディクショナリー」を標準機能として実装し、ITスキルの見える化を整備しています。これを人材データベースとひも付け、リスキリングのプラットフォームとして活用する企業も増えてきました。データに基づいたエビデンスがあるからこそ、社員の学習意欲が生まれます。新たなポジションに抜てきされる可能性が高まり、自律的なキャリア形成を後押しするからです。
岩本 確かに、自分が活躍できる、成長できることを企業が担保してくれることは大切です。その点でもタレントパレットは企業にとってありがたいツールだと思います。
経営のかじ取りに役立つ
スキルを可視化した人事データ基盤
――タレントパレットを上手に活用している具体例を教えていただけますか。
鈴村 例えばデンソーグループやニチレイのような大手企業では、人事基幹システムとタレントパレットを連携させ、人材育成やグループ企業間での人材の抜てきなど戦略的な人事戦略を行っています。これにより社員の目指すべきスキルを示しながら、将来的なキャリアをレコメンドしています。また、大手の電力会社では適所適材のアプローチで、あらかじめ、例えば再生可能エネルギーなど、これから必要となる職種や能力を定め、これらのスキルを備える人材をタレントパレットを使ってリストアップ。現有戦力のスキルチェンジの参考データとし、不足する場合は外部人材の採用も含めて判断しています。経営層が大きなかじ取りを迫られる際に、科学的に検証するデータ基盤として活用いただいている好例です。
――今後、データを活用した人事戦略は標準になっていきそうですね。
岩本 日本企業の人的資本経営には「全員活躍」の言葉がフィットします。社員の活躍はこれまで見落とされがちでしたが、これからはつぶさに検証しながら全社員の底上げが求められます。こうした人材活用システムはますます浸透していくでしょう。
鈴村 人事戦略はこれまでマスで語られることが多く、マーケティング業界で言う「1to1」のような一人ひとりにフォーカスして考えられてきませんでした。しかし、タレントマネジメントシステムがあれば、個々のスキルや経験を可視化することで、より効果的に人的資本を強化し企業競争力向上に役立てることが可能です。さらに人事施策は数年単位のPDCAサイクルですから、データを蓄積することで、より精度を高めるための分析・改善もできるようになります。科学的な人事戦略を推進することで、今後も多くの企業の人材活用をご支援していけたらと考えています。
社員の自律的キャリア形成を支援する学習ダッシュボード
スキルレベルや研修受講状況など育成に関するデータの一覧をグラフで確認ができ、
上司や本人自身の育成マネジメントに活用することができる。










