商品開発や市場流通のあり方を顧客目線で見直すと同時に、組織改革も進めるパナソニック。日経ビジネスLIVE SPECIAL「X FORUM 2024」では、同社の代表取締役 社長執行役員の品田正弘氏を迎え、ベイカレント・コンサルティング 常務執行役員 CDOの則武譲二氏と日経ビジネス前発行人の北方雅人が、改革の背景を聞いた。
企業に新たな価値をもたらす
「未来起点+人起点」経営
現在、パナソニックでは「未来起点+人起点」の企業価値経営を推進しているという。パナソニックの品田氏は、この「未来起点」を、大きな変節点を迎える今という時代に、社会課題や地球環境問題に対応すべく、未来を見据え、長時間かけて変革することと定義する。「人起点」は、顧客価値を創造するために社員全員が顧客に向き合い、働きがいと誇りを持って業務に取り組むことを表しているという。
では、この方針に基づいて実際に進められている社内変革とはいかなるものか。品田氏はそのビジョンについて言及する。
「『未来起点+人起点』という方針の中で実現しようとするサステナビリティとウェルビーイングの両立は、簡単ではありません。そこで次世代にバトンを渡しながら、例えば10年間、20年間という長いスパンで一貫性のある経営を行うべきだと考えています。また、コンペティション(競争)からコ・クリエーション(共創)へ視点を移すことも必要だと思います。日本企業は、国内で競争しすぎてしまった結果、国際的な競争力をつけられなかったのではないかという反省があります。環境問題の解消など、1社でできることは限られています。これまでは利害が反していた相手とも、一緒に価値を生むことを考えなければなりません」
[写真左から] 日経BP 日経ビジネス前発行人 北方 雅人、パナソニック 代表取締役 社長執行役員 品田 正弘 氏、ベイカレント・コンサルティング 常務執行役員 CDO 則武 譲二 氏
なぜ指定価格制度の
導入に踏み切ったのか?
パナソニックが2020年度から運用をスタートさせた指定価格制度の話題に及ぶと、品田氏は制度導入の背景についてこう語る。
「長い間、家電業界のビジネスモデルは、右肩上がりの成長とデフレ経済を前提にしたものでした。しかし人口が減少傾向である今は、総需要が緩やかに縮小しています。これまでの競争の仕方を継続しても、メリットを享受できる人は少ないのではないか。そう考えたのがきっかけでした」
新製品は発売後約1年で、販売価格が3割ほど下がる。この価格を元の水準に戻すために都度、マイナーチェンジをした型を「新製品」として発売する。これが従来型のビジネスモデルだった。利益を安定させるための慣習だったが、他方、チャレンジングな開発を行う余力はそがれていく。変化の薄い製品改修の繰り返しは、開発現場のモチベーションを下げる要因となる。
顧客側にとっても、新発売の際に購入した商品が1年で安くなる状況は、気分がよいものではない。販売店側にも、新旧製品間のスペック差が小さいため、結局は新製品の価格が旧製品の価格に引きずられるというデメリットがあった。
パナソニックはこの現状を打破すべく指定価格制度を導入した。同制度では売価の動きを抑えるため、新発売から1年経過しても価格が下がらない。結果、魅力がないと判断された製品は売れなくなる。メーカー側は「お客様にとって価値のある製品を乾坤一擲でつくり、その価値をお客さんに認めてもらう」(品田氏)ことが求められる制度だ。
顧客に向き合い、本当に価値のある製品をつくる。生活者の困りごとを解決し、社会生活の改善と向上を実現するという、同社が創業時から受け継いできた精神に立ち返ることに他ならない。
メリットがあるといっても、これまでの商慣習を大きく変える制度の導入に踏み切るには、相当の覚悟が必要だったはずではないか。ベイカレント・コンサルティングの則武氏がそう水を向けると、品田氏は次のように答えた。
「売り上げが落ちた時、社内からは指定価格制度に原因を求める声も上がりました。値引きを前提にした接客を行ってきた流通業界からも様々なご意見をいただきました。ただ、この制度は製品とセットなので、よい製品を出せるまでは踏ん張ってやってみようと。それで量販店様に対して、お客様の役に立てる製品をしっかりと提供していくことを約束しながら進めてきたのです」
品田氏は社内に向けて「短期的には売り上げやシェアを落としてもよい」と説明したという。制度導入に対し、不退転の覚悟で挑んだことが分かるエピソードだ。
組織改革の核心は
「CXに横串を刺す」
現在では、社内に施策の意義が浸透し、社員の意識や行動も確実に変化しているようだ。流通業界の理解を得ることにも成功した。単身者用の食洗機や手のひらサイズのメンズシェーバーなど、ヒットも生まれている。品田氏が根気強く続けてきた説明の通りになったのだ。
社内の意識を変えるだけではない。パナソニックはさらなる組織改革も進める。まずは分社社長への権限委譲。「家電製品から、電設資材、照明または大型空調やコールドチェーンに至るまで、多岐にわたる商材を扱っていますが、それぞれの業界には専業メーカーが存在します。そのような中で、各業界に向き合って競争力の向上・維持を実現していくという狙いで、分社社長へある程度の権限委譲を行っています」(品田氏)。
この取り組みと並行して、組織を横断して活動するCXOチームも設置する。その上で同社全体でCX(顧客体験)を最適化する取り組みなどに力を入れてきた。
「様々な領域で製品を提供しているので、当社製品を複数使用いただくお客様もいらっしゃいます。分社への権限委譲を進めてはいますが、CXの提供も分社ごとにバラバラになって、結果的に製品価値を毀損するようなことは避けたい。CXの最適化を通じて、パナソニックとして製品価値をいかに提供していくか、分社の垣根を越えて全社的に考えていく必要があると思っています」(品田氏)
大改革を断行してきた品田氏にとって、「変革期に求められるリーダー像」とは何か。鼎談の最後、北方が発した問いに品田氏が答える。
「一番難しい仕事をする人物である、ということでしょうか。時代の変節点にいる私たちは、難しい局面に立ち向かう勇気が必要です。私が社長をやっている間に成就できることは、そんなにたくさんないのかもしれません。環境問題への貢献という話であれば、なおさらです。個人的には、何十年と先に理想を実現するための礎をつくる役割を担っていると考えています。なので、10年後くらいに『あの時こういうことをやってくれてよかった』と思ってもらえたらよいですね」
「パナソニックが進める事業と組織の大改革」
keynote lecture 3
現場から挑む、銀行改革
「金利のある世界」の到来へ
裸の王様にならないために



