三菱ガス化学が描く 価値創造ストーリー

三菱ガス化学は2024年、新たな中期経営計画「Grow UP 2026 ~『伸びる』『勝てる』『サステナブル』」を始動した。前中計で進めた差異化事業への選択と集中を加速する。サステナビリティ経営を強化し、ビジョンに掲げる「化学にもとづく、特色と存在感あるエクセレントカンパニー」の実現を目指す。

 「VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に、当社が永続的に勝ち残るには何が必要かを真剣に議論し形にしました。2030年以降の世界を見据え、強靱な会社に転換する上で重要な計画です」

 同社の藤井政志代表取締役社長は、24年にスタートした新中計「Grow UP 2026 ~『伸びる』『勝てる』『サステナブル』」をこう表現する。

藤井 政志 氏
新中計の達成に向けて「第1コーナーを回ったところ」と説明する藤井社長

「Uniqueness & Presence」

 新中計の策定に際し、同社は「2030年ありたい姿」として「『Uniqueness & Presence』を軸としたエクセレントカンパニー」を掲げた。「当社は従来から手掛けている半導体関連事業、脱酸素剤エージレス®など、独自の高度な技術に裏打ちされた特色ある事業や製品を通じて、世界市場での存在感を発揮します」

 新中計では2つの目標を立てた。「事業ポートフォリオの強靱化」と「サステナビリティ経営の推進」だ。「私たちは社会的価値と経済的価値を両立し、持続可能な社会の実現に貢献することを最も重視しています」。30年、50年を見据えた時、化学会社として社会の変化に対応するには、消費エネルギーの少ない高付加価値型ビジネスへの転換が求められる。

図:三菱ガス化学が掲げる「2030年ありたい姿」
「中期経営計画 Grow UP 2026」で掲げている「2030年ありたい姿」を実現するため、
「事業ポートフォリオの強靱化」と「サステナビリティ経営の推進」という2つの目標を設定した
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ICT3事業を伸長

 「事業ポートフォリオの強靱化」では、3つの施策を挙げた。

 まず「『Uniqueness & Presence』へのフォーカス」だ。同社は前中計「Grow UP 2023」において、競争優位性と成長性のある事業を「差異化事業」と分類し、強化のために2100億円に及ぶ大型投資を行った。その中心が電子材料、EL薬品、光学材料の「ICT3事業」で、国内外で工場の増設、生産拠点の拡充などを進めてきた。

 新中計では差異化事業を「Uniqueness & Presence(U&P)事業」と改称し、「伸びる」「勝てる」「サステナブル」の観点で優れる事業と再定義した。前中計で行った投資の成果を着実に回収しつつ大型投資を継続する。全体で3年間に3000億円に及ぶ投資のうち、2500億円をU&P事業に集中させる。

 新中計でもICT3 事業を中心に据える。ICT事業には、半導体パッケージ基板に使うBT系製品、半導体向け薬液に使う超純過酸化水素、スマートフォンのカメラレンズ用の光学樹脂ポリマーなど、世界シェア1位の製品が複数ある。藤井社長は「いずれも名だたるグローバル企業をお客様に抱え、ニーズの高い成長分野です。さらなる飛躍に向けて、今は投資すべき時です」と意欲を示す。

 第2に「イノベーションによる新しい価値の創造」だ。ICT、モビリティ、医・食をターゲット領域に、気候変動もテーマに据え、課題解決に向けた研究開発を推進する。将来の柱にしようと、医療分野で抗体医薬や核酸医薬に取り組むほか、モビリティ分野では全固体電池向け固体電解質の製造技術確立なども目指す。

 第3に「重点管理事業の再構築」だ。前中計から進めていた不採算事業からの撤退や関係会社の再編を継続し、収益性・資本効率性の改善を図る。

図:ICT=成長ドライバー 電力材料、無機化学品(EL薬品等)、光学材料
Uniqueness & Presence(U&P)事業のビジネス領域。U&Pに積極投資することでさらなる成長機会を取り込む

社会的価値と経済的価値の両立

 「サステナビリティ経営の推進」でも、3つの施策を講じる。

 第1に「カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの加速」だ。同社はカーボンニュートラルに関し、幅広い分野で固有技術と専門人材を持つ強みを生かして取り組みを加速する。その1つが、天然ガス田開発の経験を活かしたCCS(CO2の回収・貯留)だ。政府が主導する先進的CCS事業に参画し、新潟県でCO2をガス田に圧入する検討を進めている。CCU(CO2の回収・活用)も推進する。CO2を原料とするポリカーボネートの製造技術開発プロジェクトに取り組むほか、国内外で他社と連携し、CO2と水素からメタノール製造を試みる。地熱発電事業に続く再生可能エネルギーや水素キャリアーとしてのメタノールやアンモニアを活用する水素ビジネスなどにも挑戦し、カーボンニュートラルという“未知の世界”へと力強く踏み出していく考えだ。

 第2に「人的資本経営の充実」だ。「従業員一人ひとりが考え、発信し、行動することが重要です。「企業は“個”の集合体です。変化を乗り越える強靱な会社になるには、従業員一人ひとりが考え、発信し、行動することが重要です。三菱ガス化学の連結8000人に及ぶ従業員が、彼らを支える家族とともに幸せで、存分に個性を発揮できるような、よい環境をつくるため、一層のレベルアップのため人的資本に投資をします」(藤井社長)

 第3に「マテリアリティマネジメントの推進」を挙げる。「事業を通じた社会課題の解決への貢献」など、11項目を定めたマテリアリティを軸に、ESGやSDGsを重視した経営を行う。「グリーンな事業や製品を志向し、透明な経営を行い、従業員や家族にバラ色の人生を送ってもらう。これが究極の目標です」と藤井社長は話す。

図:環境循環型メタノール構想
それぞれ3つの施策を推進することで2つの目標の達成を図る

投資の成果を刈り取りつつ成長

 新中計の策定に当たり、同社は30年度の売上高1.2兆円、営業利益1200億円などの財務目標と、GHG排出量39%以上削減(13年度比)、環境貢献製品売上高5000億円以上の非財務目標を掲げた。

 売上高、営業利益の目標は、前中計から2割引き上げた。藤井社長は「各部門の見込みを積み上げた、確度の高い数字です。大型投資の成果の回収時期に入った当社は、確実に成長軌道に乗っています」と自信を見せる。

 前中計では、最終年度に市場環境の悪化から、半導体関連製品の需要が下振れ、収益が減少した。自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROIC)が目標に届かなかった。新中計で再度、資本収益性を意識した経営に挑戦する。

 株式市場でも存在感を発揮すべく、配当政策も転換する。新中計期間中「累進配当方針」を採用するほか、総還元性向をこれまでの40%目安から50%目安に引き上げるなど株主還元に努める。

 「これらの目標を必ず達成できるという自信を持っています。実現に向けて今、私たちがいるのは第1コーナーを回った辺りでしょう。ここから第2コーナー、第3コーナーと勢いをつけ、ありたい未来というゴールを駆け抜けたい。会社と個人のさらなる成長につながる3年間にしていきます」(藤井社長)

藤井 政志 氏

三菱ガス化学株式会社
代表取締役社長
藤井 政志
1959年岡山県生まれ。81年大阪大学経済学部経済学科卒業後、三菱ガス化学入社。総務人事センター長、天然ガス系化学品カンパニー有機化学品事業部長などを経て2012年執行役員、15年取締役常務執行役員に就任。19年より現職。

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