「三菱ガス化学はニッチトップの事業を束ねたような、独自性豊かな会社です。今後も特色ある事業によって存在感を発揮していきたい。ありたい将来像からバックキャストし、先行き3年の指針をつくりました」。小林千果執行役員経営企画部長は新中計「Grow UP 2026」の概要をこう説明する。
「Grow UP 2026」では2大目標として「事業ポートフォリオの強靭化」「サステナビリティ経営の推進」を挙げる。三菱ガス化学のミッション「社会と分かち合える価値の創造」に沿い、社会的価値と経済的価値の両立によって、持続可能な社会の実現を目指す。
「事業ポートフォリオの強靱化」と「サステナビリティ経営の推進」という2つの目標を設定した
ICT3事業に集中投資、3年で売上高1.5倍に
1つ目の目標である「事業ポートフォリオの強靱化」では、資本効率を強く意識しながら、事業改革を推進していく。具体策として3つの施策を打ち出した。
第1の施策「『Uniqueness & Presence』へのフォーカス」では、前中期経営計画同様に差異化事業への選択と集中をさらに加速する。勝負する市場の成長率やシェアで「伸びる」事業を、投下資本利益率(ROIC)や利払い・税引き・償却前利益(EBITDA)の基準で「勝てる」事業を見極める。加えて、温室効果ガス(GHG)排出量やサステナブル関連の取り組みの有無によって「サステナブル」を評価する。3軸を満たす事業を「Uniqueness & Presence(U&P)事業」と定義し、徹底して強化を図る。
「Grow UP 2026」では、3年間で営業キャッシュフローを上回る総額3000億円の投資を行い、そのうちの2500億円をU&P事業に集中させる。中でも、成長ドライバーと位置づける電子材料(BT材料)、半導体向け薬液(EL薬品)、光学材料の「ICT3事業」に注力する。小林部長は「ICT3事業の売上高を26年度に23年度比で1.5倍に拡大する計画です」と語る。
これらU&P事業には、前中計でも大型投資を実施してきた。「Grow UP 2026」期間中に、欧州では建造物などのコーティング材などに使われるメタキシレンジアミン(MXDA)の新工場、タイではBT材料増産設備が完工する。世界各地における半導体工場の増設に伴い、EL薬品の生産能力も向上させる。こうした成果をしっかりと刈り取っていく。
執行役員 経営企画部長
小林 千果 氏
価値創出の確度とスピードを上げる
第2の施策「イノベーションによる新しい価値の創造」ではICT、モビリティ、医・食をターゲット領域に据え、また、気候変動課題の解決をテーマに研究開発を推進する。
確実に成果が見込めるのが、現在の事業の延長線上で開発を進める新規BT材料や新規半導体向け薬液だ。医・食分野では、バイアルやシリンジなど樹脂製医薬品容器の「OXYCAPT™」への期待が高まる。壊れにくく軽くバリア性が高いことから、既存のガラス容器の代替需要を獲得し、早期に事業化できる可能性が高い。
サステナビリティに関係する研究開発で有望なのが「リサイクルEP」だ。リサイクルEPは、光学樹脂ポリマー「ユピゼータ®EP」を用いてスマートフォンのカメラレンズなどを製造する工程で発生する端材を再利用してつくるもので、ラマン分光を使った端材選別技術の確立にもメドが立っている。
引き続き、研究開発に対する投資も積極的に行う。23年度に256億円だった研究開発費を26年度に280億円に、553人だった研究開発人員を600人超に拡大する。「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」や、知的財産情報を分析し経営に生かす「IPランドスケープ」の活用も進め、イノベーションによる価値創造の確度とスピードを上げていく。
「事業ポートフォリオの強靱化」の第3の施策は「重点管理事業の再構築」だ。収益性や資本効率に課題が残るポリカーボネート系製品、キシレン分離/誘導品を「重点管理事業」と位置づけ、コスト削減やバランスシートのスリム化に取り組む。
カギを握る固有技術と専門人材を保有
もう1つの目標である「サステナビリティ経営の推進」に関しても、3つの施策を打ち出す。第1の施策は「カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの加速」だ。
三菱ガス化学グループは「30年にGHG排出量の13年比39%削減」「50年カーボンニュートラル達成」というロードマップを描く。事業ポートフォリオ改革に伴う製造拠点の統廃合や設備の停止等による削減、高効率設備への更新、燃料転換などの施策を進めている。
事業を通じて、社会全体のカーボンニュートラル実現にも取り組む。長尾伸一CSR・IR部サステナビリティ推進室長は「当社グループは、脱炭素実現のカギを握る固有技術と専門人材を保有しています。この強みを生かし、エネルギー・気候変動問題解決に貢献していきます」と意気込む。
CSR・IR部 サステナビリティ推進室長
長尾 伸一 氏
その取り組みの中には、U&P事業として強化する事業や製品も含まれる。代表例が「環境循環型メタノール」だ。メタノール取扱量国内トップの企業として蓄積してきた触媒技術や製造技術を活用して、CO2や廃プラスチックなどを原料とするメタノールの製造技術を開発し、環境価値を生かした市場開拓に挑んでいる。循環型のメタノール製品やサービスを「Carbopath™(カーボパス)」と名付け浸透を図る。「24年3月には、新潟県の下水処理場から発生する消化ガスを原料に、バイオメタノールの製造を開始しました。このほか、燃料用途や素材原料用途に展開しながら小規模プラントで実証を重ね、環境循環型メタノールとして、30年度までに10万t規模の商業生産の開始を目指しています」(長尾室長)。
カーボンニュートラルに不可欠な技術と注目が高まるCCS(CO2の回収・貯留)にも力を注ぐ。地下深部の地層中にCO2を貯留するCCSでは、隙間の多い貯留層やCO2を漏洩させない緻密な遮蔽層などが必要となる。天然ガス田と地質学的に特徴が合致することから、新潟に天然ガス田を持ち探鉱・開発を行ってきた三菱ガス化学の強みを生かせる。政府が主導し同社も参画した北海道苫小牧市での先進的なCCS実証実験では、これまでに30万tのCO2を圧入した。新潟県の東新潟油ガス田でもCO2圧入の検討を進めている。新潟地区での年間貯留目標は約140万tで、30年までの事業開始を目指す。
天然ガス開発で培った技術を応用し、クリーンエネルギーとして注目される地熱発電事業にも取り組む。現在、国内3拠点で地熱発電に参画しているが、新たに三菱ガス化学主導での発電所運営を目指し、宮城県など国内外の複数拠点で探査を行っている。
環境負荷低減に貢献する製品を「Sharebeing™」と名付けブランド化する取り組みも始めた。23年に2043億円だったSharebeing製品の売上高を、26年に2700億円、30年には5000億円まで拡大することを目指す。代表製品の1つである植物由来の原料を使った超高屈折率メガネ用のバイオマスレンズモノマーは、「Episleaf™」ブランドで販売を始めている。
地質学的に天然ガス田の特徴と合致することから、天然ガスの探鉱・開発を実施し、天然ガス田を持つ三菱ガス化学の強みが生きる。
画像:グローバルCCSインスティテュート提供
各部門を牽引する「KEY人材」を輩出
「Uniqueness & Presence」を極め、企業価値を向上していく上で不可欠なのが、人材のさらなるレベルアップである。「サステナビリティ経営の推進」の第2の施策「人的資本経営の充実」でそれを実現する。
「当社の特徴である戦略的な人事ローテーションを深化させ、多様な経験を積む中でマネジメント人材や高度専門人材としての能力を高めるとともに、各部門を牽引する『KEY人材』を持続的に輩出し成長へとつなげます」と長尾室長は説明する。
23年には、東京・江東区にグループ内外の様々な人材と組織をつなぐ施設「MGC Commons」を開設し、組織の垣根を越えて自由なコラボレーションができる環境も整えた。
第3の施策「マテリアリティマネジメントの推進」では、11項目を定めたマテリアリティにKPIを設定し、PDCAをしっかりと回すことで非財務価値を向上し、サステナビリティ経営の確実な実践につなげる。
「中期経営計画を有効に機能させるには、グループの従業員一人ひとりが計画を『自分ごと』と捉え、目標・施策や狙いを十分に理解することが欠かせません」。小林部長は「Grow UP 2026」推進に当たっての課題をこう語る。そのため、「Grow UP 2026」の発表後は、国内外の事業拠点を回り説明会を開催してきた。従業員には理解しにくいROICの説明会も開き、資本効率を意識する重要性も浸透させた。
加えて、小林部長は「従業員が自立しつつ活性を高められるよう、自由に意見や発想を出し合える組織風土も重要です。説明会では必ず意見交換の場を設定するなど、風通しの良い社風の維持にも心を砕いています」と話す。
特色ある技術をベースに描く明確な成長戦略と従業員の力、そして組織風土――。三菱ガス化学はそれらすべてを整え、「2030年ありたい姿」の実現に向け走り始めている。


