“人材の見える化”で不確実な時代を勝ち抜く 人的資本経営を実現する 科学的な人材データ活用 “人材の見える化”で不確実な時代を勝ち抜く 人的資本経営を実現する 科学的な人材データ活用

データドリブンによって“エンゲージメントの源泉”を科学的に抽出し、人的資本投資を加速させたユナイテッドアローズ。ツールと人間力をかけ合わせ、コロナ禍の危機を乗り越えた人事のキーパーソンが成功の秘訣を語る。

生え抜きのCHROが
2018年から人事改革に着手

ユナイテッドアローズは1989年に設立した国内セレクトショップのトップランナーだ。1990年、東京・原宿に1号店をオープンして以降、順調に事業を拡大。2023年12月末時点で全国に220店舗を構え、従業員数3500人超を有する一大企業へと成長した。

同社は2018年の段階から人的資本経営に力を入れ、データを活用した科学的・戦略的人事を推進している。その旗振り役が執行役員 CHROを務める山崎万里子氏である。1996年の新卒入社以来、広報宣伝、経営企画、マーケティング、経営戦略本部などを渡り歩き、マルチキャリアを築いてきた。

「2018年、私が人事部に異動した当時はちょうど社会の変革期。タレントマネジメントやダイバーシティの重要性が叫ばれ始め、新たな組織文化の構築が求められていた頃です。経営幹部からは『社風を変えてほしい』と言われました。人事の仕事は初めてでしたが、これまでの経験で培ったノウハウを人事に活用できるとの確信はありましたね」(山崎氏)

山崎氏が思い描いたのは「意思を持ってデータを読み込む」こと。すなわちデータドリブンの人事戦略を掲げたのだが、着任当初はエクセルで入力された評価シートが各所に散在し、集約するだけでも多大な工数がかかっていた。

「まずは各データを統合して、データの裏に潜む課題をあぶり出したいと考えていましたが、これでは先に進めません。そこでタレントマネジメントシステムを導入することにしました。検討に当たって外せなかったポイントは、“乗りこなせない高級車は不要”ということ。従業員すべてが高いITリテラシーを持っているわけではないですし、当社は店舗スタッフの現場職が多いためモバイル対応は不可欠です。それらの要望に応えてくれたのが『タレントパレット』です。必要要件を満たした上で、“これは直感的に使える”と思えたので、2019年11月に導入しました」(山崎氏)

未曽有の危機を乗り越えた
エンゲージメントの向上

タレントパレットは人材データベース、人的資本ダッシュボード、人材育成・スキル管理、アンケート機能、テキストマイニング、人事評価などを備えるSaaS型タレントマネジメントシステムだ。

導入後まもなく、コロナ禍が世界を襲った。アパレル業界にも嵐が吹き荒れ、ユナイテッドアローズも業績が急激に降下。会社の未来に不安を感じた従業員の離職が続くなどの危機に見舞われた。

「顧客満足度、従業員のエンゲージメント、企業の経営は密接にリンクしています。順調な時期は正の相関が保たれますが、コロナ禍では顕著に負の相関が表れました。従業員のモチベーションが下がってお客様への対応がおろそかになり、売り上げも下がる負のスパイラルに陥ったのです。この危機を乗り越えるために、従業員のエンゲージメントをいかに向上させるかが人事の最重要課題になりました」(山崎氏)

山崎氏は、ここでタレントパレットが効果を発揮したと振り返る。ユナイテッドアローズでは全従業員を対象に、自らの半期評価、360度評価、エンゲージメントサーベイ、従業員意識調査などをフル活用している。

「年に1度、エンゲージメントサーベイと従業員意識調査のデータを統合して人事戦略の基礎にしています。従業員意識調査にはフリーコメント欄を設けていますが、従業員の“本音”が寄せられるので非常に有益です。私はその生データをくまなく確認して、文章の熱量や行間からにじみ出てくるニュアンスを読み取るように心がけています。会社はそれぞれ違うものですし、人的資本経営の教科書通りにはいきません。いかに自社らしい血を流し込むかが鍵を握るからです」(山崎氏)

これらの結果から、多くの従業員が教育制度の充実を望んでいることが浮かび上がった。

「例えば店長職を務める人が『今だからこそサプライチェーンやマーケティングを学び直したい。その勉強をさせてほしい』とリスキリングのニーズを訴える意見が多かった。コロナ禍の厳しい状況でも会社を去らなかった人たちは、未来のユナイテッドアローズを支える貴重な人材です。その思いに応えるためにも、リスキリングをはじめとする再教育に注力する方針を固めました」(山崎氏)

意思を持ってデータと向き合い
挑戦できる風土を整備していく

具体的には無料でビジネススクールを受講できる制度を整えた。中でも、今後のOMO施策のさらなる推進を見据えたデジタルマーケティングやKPI分析などの講座が人気だったという。これにより16%も従業員のエンゲージメントが上昇。データドリブンの人事施策がぴたりとはまった。
※OMO=Online Merges with Offline

「データを活用した人事戦略で成果を出す秘訣は『問いを立てる』ことです。『恐らくこうだろう』との仮説を立てて調査し、定量的な検証を重ねる。それから検算をした上で実行に移すことが大事です。

私たちは経営理念や中長期経営計画などブレない軸を最上層に置き、そのビジョンに向けてどんな人材を増やすべきかを逆算して仮説を立てました。コロナ禍を経て一定のエンゲージメント獲得、業績回復、離職の抑制を実現できたこともあり、今後は再成長に向けてギアを一段上げていく必要があります。それを踏まえると、もっともっと挑戦できる風土を整備しなくてはならない。ですから従業員が安心して挑戦できるように、より風通しの良い職場にしていくのが次の課題。そのためにも、今以上にデータを活用しながら心理的安全性を確立していきたいと考えています」(山崎氏)

言うまでもなく、人的資本経営の基本は従業員のやる気を引き出すことにある。ツールを駆使しながらもデジタルだけに頼らず、意思を持ってデータと向き合うユナイテッドアローズの人事戦略は、多くの企業が参考にしたい成功事例といえよう。

順調な時期は正の相関が保たれ、どこかにほころびが出ると負の相関が表れる
出所:beBit 16業界eNPS調査結果

※1 NPS: Net Promoter Score
※2 eNPS: Employee Net Promoter Score

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