過去の成功体験に縛られることなく、いつの時代も挑戦を続けるソフトバンク。人的資本経営が叫ばれる前から“人のポテンシャル”を原動力に道を切り開いてきた。そして今、タレントマネジメントシステムをスキルやキャリアの見える化に活用しているという。導入の狙いと未来の展望を、人事本部をつかさどるキーパーソンに聞いた。
何事もチャンスとして捉える
ソフトバンクの企業風土
ソフトバンクの歴史はまるで生き物の脱皮のようである。黎明期のPC/ソフトウエア事業に始まり、出版、インターネット、モバイル、AI・IoT・スマートロボティクスと、時代とともに進化してきたのは周知のとおりだ。
人事本部 本部長の源田泰之氏は「事業ドメインがどんどん変化してきたこともあり、前例を踏襲する考え方がありません。変化を楽しみ、何事もチャンスとして捉える企業風土はソフトバンクならではのものです」と語る。
源田氏によれば、ソフトバンクの人事施策は人的資本経営で重視される自律的キャリアを支援する内容がほとんどだという。自主的に手を挙げた人に機会を提供し、自分自身が描くキャリアデザインを支援するのが基本だ。
人材開発部門の部長時代の2009年から始めた、社内認定講師制度は顕著な例である。さまざまなスキルやキャリアを持つ社員が講師となって自らの知恵や経験を生かして研修を実施するもので、今では総勢100人以上が登録。ビジネススキル、ロジカルシンキング、コーチングなど日常業務に沿った実践的な内容となっており、社内の認定講師で研修の約8割をまかなっている。そのほかにも、新規事業提案制度「ソフトバンクイノベンチャー」では、起業家育成プログラム「イノベンチャーラボ」に5800人以上(2023年10月末現在)が登録し、累計21件のプロジェクトが事業化されている。
「このように、当社では人的資本経営が叫ばれる前から人材育成、キャリア支援に注力してきました。こうした仕組みのほとんどを挙手制で展開してきたこともあり、結果として自律的キャリアを育むことにつながったと自負しています」(源田氏)
最近実施した国産クラウド開発に関する社内公募では、想定をはるかに上回る応募があったと話す。
「クラウド事業に関する経験はおろか、エンジニアリング・マネジメントの経験がなくても応募可能としました。合格者にはみっちり2カ月間の専門研修を受講してもらい、スキルの習得状況を鑑みて細かい配属先を決定します。100人を超える規模でリスキリングと配属をセットにした社内異動は珍しいですが、まったく畑違いの人たちが融合することでイノベーションが起きる可能性は高い。そのことはソフトバンクの歩みが証明しています」(源田氏)
拡張性と柔軟性の高さが
導入の最大の決め手に
そもそもソフトバンクには人的資本の最大化こそが社員の成長を促し、ひいてはそれが企業の成長につながるとの考え方がある。「人事にとって人材が成長する環境をどのように整備するかが重要であり、私はその点を常に意識しています」と源田氏は言う。
2021年からはこれまで以上に人材戦略を活性化すべく、プラスアルファ・コンサルティングが提供するタレントマネジメントシステム「タレントパレット」の導入を開始した。各部門と人事部門が円滑に連携して、スキルや経験、キャリア目標の確認といった人材情報の活用に役立てるのが目的だ。
「こうしたツールの採用はトップダウンで進むケースが多いですが、我々は部門の課題を拾い上げてボトムアップで導入しました。人事情報は人事部門内に閉じてしまうことが多く、部門内での適材適所、育成計画、適正な評価に生かすには非常に多くの工数がかかっていたからです」(源田氏)
導入にあたって各社のツールを検討したが、他社と比較して分析や可視化機能、表現力などが優れていたことが決め手となった。中でも、拡張性と柔軟性の高さを最も評価する。
「ソフトバンクにはグループ会社が開発した独自の人事基幹システムがあり、全社員の社員情報、勤怠データ、人事施策、給与計算などを集約しています。通常は外部システムと連携するにはかなりの時間とコストがかかりますが、タレントパレットは基幹システムのデータを取り込むだけで人事情報の一元化を可能にしてくれました。各部門からは、情報の見える化によって人材データをもとにした分析や評価が加速したと、ポジティブな声が届いています」(源田氏)
2万人近くの社員を抱える大組織なだけに、現在は法人SE部門や営業部門を中心に活用し、全社展開を見据えて今後徐々に他部門へ拡大していくフェーズだが、「個人に限らず組織の情報集積地として活用する習慣が根づき始めています。ゆくゆくは全社の人材戦略に貢献するプラットフォームとして活用できるものに成長させたい」と源田氏は期待を寄せる。
戦略的に生成AIと
次世代社会インフラにシフト
2023年5月には向こう3カ年の中期経営計画を発表。AIとの共存を実現する次世代社会インフラの提供を掲げ、新たな挑戦を続けている。本計画に沿って、生成AI、地方分散型AIデータセンター、超分散コンピューティング基盤(xIPF)など、未来を支えるテクノロジーにリソースをしっかりと投入していく。生成AIに関しては子会社のSB Intuitionsを2023年に設立するなど本腰を入れている。
「いかに生成AIと次世代社会インフラの事業を推進するための組織を整備していくかが目下の課題。SB Intuitionsにはソフトバンクだけではなく、エンジニア人材が豊富なグループ会社の社員も出向しています。今後はグループ全体で経営戦略と人材戦略を連動させることが鍵を握ります」と源田氏は強調する。
それゆえ今回の一大転換期でもタレントパレットのような分析・可視化ツールを駆使しながら適切な人材育成と配置を実現し、レジリエントな組織を構築したいとする。科学的人事を標榜するタレントパレットとソフトバンクのフロンティアスピリットが生む相乗効果を楽しみにしたい。
ポートフォリオを起点として、人事戦略の9つの要素を体系化











