Vol.1
Society 5.0における「トラスト(信頼)」探求への挑戦

「トラストギャップ(信頼の空白域」に
いかに向き合い続けるか

2030年までに生じる「トラストギャップ」

X(トランスフォーメーション)が「トラストギャップ」を増幅させる例として、企業の開示情報に関する信頼性に影響を与える開示や監査のXにおけるAIの活用をイメージしてみよう。

会計(Accounting)や監査(Audit)のXは、それぞれの頭文字を取ってAXと呼ばれることもある。近年では、AIを活用した変革を行うこともあるので、AIやアジャイルな対応も含めてAXと総称することもできよう。

「具体的には、従来は人間が行ってきた情報収集・判断・開示や、監査の一部にAIを用いるというX(トランスフォーメーション)が進展しつつあります。AIの利活用が進展すると同時に『AIに任せっきりで問題が生じないのか』という疑問も生じます。こうした疑問に答えるためには、AIを用いた監査の探求はもとより、『AIそのものに対する監査』をどのように行うか、という新たな挑戦課題も生じています。このように、トランスフォーメーションが起こる前には考えにくかったことや、透明性の低さは、『トラストギャップ』の発生と拡大につながります」と山口氏。

「トラストギャップ」の発生・拡大はDX(デジタルトランスフォーメーション)の領域と密接に関係する。デジタルやAIを活用したコミュニケーションの進歩によって、人対人の「マン=マン・コミュニケーション」だけでなく、人対機械(マン=マシン・コミュニケーション)、さらには機械対機械(マシン=マシン・コミュニケーション)も当たり前になっている。

「マン=マシン・コミュニケーションの典型例として、様々な自動応答システムやチャットボット等があります。それにとどまらず、完全自動運転のような、人が介在しないマシン=マシン・コミュニケーションでリアルタイムのサービス提供やモノづくりが普及していく場合、人々はそれを信頼し続けることができるのか?こうした課題に向き合うため、変革の担い手である社会や企業には、常に変化する状況に対応していく上での基盤となる『トラスト』をどう維持・再構築していくかの検討が求められるのです」(久禮氏)

これは、近年注目度が高まっているGXやSXの領域においても同様で、時代の急激な変化に伴う「トラストギャップ」はあらゆる領域で広がりを見せているのだという。

山口氏は「『トラスト』を構築・強化すべき領域はどんどん広がり、個々の領域において、掘り下げるべき課題も深くなっています。その領域を『広さ』と『深さ』の両面で具体的に捉え、課題に向き合っていかなければなりません」と語る。

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2030年までに起こり得る社会の変化と「トラストギャップ」の俯瞰図。同法人がカバーするサービス領域のすべてが、変革の時代における「トラスト」の構築と密接に関わっている

「トラスト」に関する知見を結集した
トラスト・インサイト・センター

AX、DX、GX、SXなど、広範な変革の領域に広がっている「トラストギャップ」のすべてをカバーするには、やはり広範な知見とノウハウが求められる。PwC Japan有限責任監査法人は、それに十分対応できるケイパビリティを備えるべく、様々なステークホルダーと対話を行いつつ、日々努力を重ねている。

「当法人は、企業に対する信頼の付与、信頼構築や課題解決の支援、信頼基盤の共創といった監査法人としてのサービスを長年にわたって提供してきました。カバーしている領域は、財務・会計にとどまらず、オペレーション、デジタル、経営管理・ガバナンス、社会・環境など広範囲にわたります。財務だけでなく、非財務関連の『トラスト』構築まで支援できるのが、大きな強みだと言えます」と山口氏は説明する。

PwC Japanグループ内には、「トラスト」に関連する調査・研究や、分析、提言、対話などを行っている研究所やシンクタンク、組織横断の専門チームが多数ある。

基礎研究所もその一つだ。07年に設置されたこの研究所は、約17年にわたって、会計監査やサステナビリティ、テクノロジーなどに関する研究を行ってきた。いずれの研究テーマもAXやDX、GX、SXといった昨今のトランスフォーメーションに関わるものばかりだ。「PwC Japan有限責任監査法人のユニークさの一つは、長年にわたって継続的に研究活動を続けていることです。課題ごとのインパクトに対する目利き力を持った多様な人材がお互いの強みを生かしつつ切磋琢磨することで、10年先の世の中を見据えながら、『トラストギャップ』を発掘し、それに向き合うためのより実効性の高い打ち手を検討することができるようになると考えています」と山口氏は語る。

基礎研究所の他、AI監査研究所、PwC総合研究所合同会社など、グループ内のシンクタンク、研究チームの知見・アイデアを結集し、社内外のステークホルダーと連携しながら「トラスト」のあり方を追求していくトラスト・インサイト・センター(TIC)がPwC Japan有限責任監査法人内に設置され、久禮氏がセンター長に就任した。

「各研究所やチームの研究成果を集約し、外部と連携しながら、PwC Japanグループが有する『トラスト』に関する経験・知見を結集した組織です。社会全体に大きな影響を与え、未来を左右する大切な課題について研究し、人々が安心して眠れて本業・本分に集中できる社会をつくることに貢献し続けることがTICの役割です」(久禮氏)

マルチステークホルダー型で
「トラスト」の構築と向かい合う

PwC Japan有限責任監査法人は、「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」というPwCのパーパスの実現を目指し、具体的な方策として2030年ビジョン「Assurance Vision 2030」を設定した。このビジョンの底流にあるのは、「トラストギャップ」に向き合い続け、その対応を検討する姿勢だ。

「『トラスト』はワンウェイで構築できるものではありません。一方通行の発信にとどまらず、TICが社内外のハブとなって、双方向・多方向でのコミュニケーションを大切に積み上げながら研究成果やアイデアを共有する、マルチステークホルダー型の活動を目指していきます。自分たちやクライアントだけでなく、社会の不安を取り除くために新たな『トラスト』の構築に取り組んでいきたい。パブリックインタレストを追い求める社会の重要なチャネルとして、私たちは『トラストギャップ』に向き合い続けてまいります」と山口氏は語った。