TICは、PwC Japanグループ内の複数の研究所や研究チームの知見・アイデアを結集し、グループ内外のステークホルダーと連携しながら「トラスト」ニーズの所在や対応のあり方を研究するグループである。
そのTICの中でも、幅広い領域について中長期的な視点で研究を行っているのが基礎研究所だ。
2007年7月にあらた監査法人(当時)内に設立された基礎研究所は、今年で設立18年目を迎えた。監査法人が基礎研究のために独自の研究所を持つことは異例であり、非常にユニークな存在だと言える。
同研究所の大きな特徴は、世の中がどのように変化していくのかをマクロ的な視点で捉えながら、未来における会計、監査や保証のあり方を研究している点である。
「将来の監査法人業務に影響をもたらすと思われる経済・社会の基礎的な流れについて、独自の研究を行う常設機関として活動を行ってきました。信頼を支える監査や保証のあり方を研究テーマに掲げているので、設立時の17年前から『トラスト(信頼)』に向き合ってきたと言えます」
そう語るのは、所長の矢農理恵子氏である。
23年12月、PwCあらた有限責任監査法人(当時)と、PwC京都監査法人(当時)が統合され、PwC Japan有限責任監査法人が誕生。同じタイミングで基礎研究所はTICの中核機関の一つとして位置づけられた。
矢農氏は、英国ロンドンの国際会計基準審議会(IASB)で日本人初のプロジェクトマネージャーを務め、帰国後はPwC Japanグループの会計論点の最終判断を行う部門のリーダーや、PwCグローバルネットワークの会計相談を担うグループの日本代表などを歴任。日本の会計基準や国際財務報告基準(IFRS)に関する重要論点の最終承認者として会計基準の適用に係る課題解決に携わり、24年7月1日、基礎研究所の新所長に就任した。
矢農氏の所長就任と同時に、副所長に就任したのが山田善隆氏である。
山田氏は監査の品質管理システムの構築と運用に携わった後、企業の財務諸表の監査や開示支援業務などに従事。その傍ら、日本公認不正検査士協会や日本監査研究学会の役員も務めてきた。学会を通じてアカデミアとのネットワークも構築しており、民間の基礎研究所と学術機関との連携を強化させる役割が期待されている。山田氏も矢農氏と同じく、日本の会計基準とIFRSの適用に携わっている。
「現場での監査業務の経験に加え、監査の品質管理の経験やアカデミアの知見の活用により、基礎研究の幅を広げることを期待されていると感じています」と山田氏は語る。
矢農氏、山田氏による新体制の下、基礎研究所は研究テーマのさらなる拡大と、研究の深化を目指している。
様々なX(トランスフォーメーション)によって生まれる、新たな「トラストギャップ(信頼の空白域)」を探り出し、それを満たすための方法を研究することも重要テーマだ。
基礎研究所はこれまでにも「トラストギャップ」について研究を重ねてきた。
「07年より、監査・保証に関する基礎研究を進めてきました。14年からは、企業のサステナビリティ開示に関する研究も実施してきており、これがサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に関わる『トラスト』の研究の原点になっています。また、22年には、AIによるトランスフォーメーション(AX)の実装とAIに関する『トラスト』の研究もスタートしました。今日のように、それぞれのX(トランスフォーメーション)が注目されるかなり以前から、未来を見据えて研究を行ってきています」と矢農氏は説明する。
同法人は22年、若手職員を中心に「4つの未来シナリオ」(図参照)を整理した。
人々がより良い未来(シナリオ1)を手に入れるためには、世の中の仕組みに対する「トラスト」が欠かせない。逆に「トラスト」が失われてしまうと、ディストピア化する社会(シナリオ4)に陥ってしまう。
「トラストギャップ」を埋め、より良い社会のために、いかにシナリオ1の未来に導いていくかを研究することが、基礎研究所のミッションなのである。