稲永 滋信氏/土屋 敬司氏/辻岡 謙一氏/三善 心平氏

富士フイルムビジネスイノベーションが挑む事業変革
「トライアンドエラー」で変革を前進させる現場主導のDXと生成AI活用術

DXを前進させるには、明確な「あるべき姿」の設定とともに、「何が何でもやり続ける」というチャレンジ精神が不可欠だ。実際にチャレンジ精神を発揚し、試行錯誤を重ねながら一歩ずつDXを前進させているのが富士フイルムビジネスイノベーションである。その取り組みについて、同社取締役常務執行役員の稲永滋信氏、DX推進部部長(取材当時)の土屋敬司氏と、PwCコンサルティングの三善心平氏、辻岡謙一氏が語り合った。

チャレンジ精神を発揮したからこそ
乗り越えられた難局

三善富士フイルムビジネスイノベーションは、富士フイルムグループの中でどのような事業領域を担当されているかご紹介いただけますでしょうか。

稲永我々の前身は、皆さんもよくご存じの「富士ゼロックス」です。2021年に「富士フイルムビジネスイノベーション」に社名変更し、従来からの商材である複写機・プリンタ・印刷機に加え、顧客企業のDXを支援するビジネスソリューションなどを提供する会社として再出発しました。

土屋富士フイルムグループは、デジタルカメラなどの「イメージング」、医療システムなどの「ヘルスケア」、半導体材料などの「エレクトロニクス」、オフィスソリューションやビジネスソリューションなどの「ビジネスイノベーション」の4領域で事業を展開しています。そのうちのビジネスイノベーションを、我々が担当しています。

富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 稲永 滋信氏 富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 土屋 敬司氏

(右)
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
取締役 常務執行役員
稲永 滋信

(左)
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
DX推進部 部長(取材当時)
土屋 敬司

辻岡富士フイルムグループは、非常にユニークなパーパスを掲げておられるそうですね。

稲永「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というのが、我々のグループパーパスです。我々自身、これまでのビジネスでは非常に苦しい時期ももちろんありましたが、それら様々な経験、取り組みを経て、お客様をはじめ、すべての皆様の笑顔を引き出したいという思いからこのパーパスを制定しました。

三善苦難をご経験されたということですが、中でもデジタルカメラやスマートフォンの普及による写真フイルム需要の急減は、非常に大きな衝撃だったのではないでしょうか。

稲永まさにご想像の通りです。富士フイルムの写真フイルム販売がピークを打ったのは2000年。その後、販売数量が急減しました。

ここで一番学んだのは、市場は激変するということでした。フイルム事業は100年続く歴史ある事業で、デジタル技術の進化に伴いそこが変わっていく予感はありましたが、激減するとは思っていなかったのです。しかしながら事実として市場は変化した。予測できなかった事態でした。

三善とはいえ、その後富士フイルムグループは、ヘルスケアやエレクトロニクスへと事業領域を広げ困難を乗り越えることに成功されました。

稲永そうした危機的状況下で飛び地に行くと勝ち目がありませんので、事業的な連続性、技術的な部分、そしてビジネスモデルといったところをいかに保ちながらチャレンジするかを考えて徹底的にやってきました。とにかく果敢にトライするチャレンジ精神を発揮したからこそ、難局を乗り越えることができたのだと思っています。

三善企業が窮地に立たされた際に、経営トップがコア事業や成功体験から脱却して、経営に危機意識を持つというのが非常に難しいポイントの一つだと思っています。

富士フイルムグループは、時代の変化に対応して、自らも変わっていかなければ生き残れないという強い危機感をお持ちになったからこそ、大きな事業変革を成し遂げることができたのではないでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社 辻岡 謙一氏 PwCコンサルティング合同会社 三善 心平氏

(左)
PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
テクノロジー&デジタルコンサルティング事業部
三善 心平

(右)
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
テクノロジー&デジタルコンサルティング事業部
辻岡 謙一

“現場主導のDX”を目指し
「デジタルオフィサー」を配置

辻岡富士フイルムグループは、DXもチャレンジ精神を発揮しながら推進しているとうかがっています。具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

土屋まず、富士フイルムグループ全体としてのDXビジョンが策定されました。「イノベーティブなお客様体験の創出と社会課題の解決」「収益性の高い新たなビジネスモデルの創出と飛躍的な生産性向上」という2つのビジョンです。「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」というグループパーパスとも強く関連しています。

この富士フイルムグループのDXビジョンに基づき、富士フイルムビジネスイノベーションとしては、「お客様のビジネス変革を実現するビジネスイノベーションパートナーへ」という独自のDXビジョンを策定しています。このビジョンに沿って、当社では「お客様のDXを実現するソリューション・サービスを提供」「デジタルで未来のワーク(ワークスタイル)を創造」「DXを通じてCX(Corporate Transformation)を実現」の3つに取り組んでいます。

辻岡どのような体制でその3つに取り組んでおられるのですか。

土屋富士フイルムグループでは、グループ全体のDX推進の最高意思決定機関としてCEOを議長とする「DX戦略会議」が設置されています。CEOをディレクターとしたグループ横断体制で「All-Fujifilm DX推進プログラム」が展開されており、当社もその枠組みの中でDX推進を展開しています。

具体的な取り組みの一つは、各部門や事業拠点に「デジタルオフィサー」を配置した“現場主導のDX”です。デジタルオフィサーにはそれぞれの業務におけるDX推進をリードする役割を担っていただいています。デジタルオフィサーだけでは解決できない課題は、CoE(センター・オブ・エクセレンス)に相当するDX推進部が解決を支援しています。

ただし基本的には、“現場主導のDX”を推進していますので、「最終的に頑張るのは現場のあなたたちです」と、口酸っぱく地道に言い続けて、最近では少しずつ成果が上がってきていると感じています。

辻岡現場ごとにDXの推進役を置くというのは、非常に有効なアプローチだと思います。経営層がどんなにDX推進を呼び掛けても、実際にそれをやる現場の仕組みがちゃんと出来上がっていないと思うように進まないものです。

DXの主役はあくまでも現場の方々ですが、その役割や目標が明確になり、現場の取り組みをサポートする組織まで用意するというのは、模範的なDX推進のための体制づくりだと言えそうです。

ところで、DXを進める上では、データ活用のための環境整備が不可欠だと思います。この点について、富士フイルムビジネスイノベーションは、どのように取り組んでおられますか。

稲永おっしゃるように、可能な限りのデータを集め、必要に応じて柔軟に利活用ができる環境が整っていないとDXは前進しません。当社は、外部環境の様々な変化をタイムリーに把握し全社共有できるようにするため、社内外のすべてのデータを1つに集約できるデータ基盤を構築しています。