総合コールドチェーンの構築に向けた株式公開買付け
先行き不透明なVUCAの時代、常に変革を求められる企業は、業務提携やM&Aといった様々な手段で自社の強みを生かし、また弱点を補いながら生き残りを図っている。変化し続ける社会のニーズに「モノを届ける」ことを通して応える物流業界もこの例に漏れない。
宅配大手の佐川急便を擁するSGホールディングスグループは2024年7月、株式公開買付けにより、低温物流大手のC&F ロジホールディングスを連結子会社化した。これもそうした変化への対応の一環だと言えよう。
取締役
デリバリー・ロジスティクス事業担当
佐川急便株式会社 代表取締役社長
本村 正秀 氏
SGホールディングスグループは、30年に向けた長期ビジョンとして「Grow the new Story. 新しい物流で、新しい社会を、共に育む。」を掲げ、様々な新しい物流ソリューションを創出し続けている。SGホールディングスの取締役としてデリバリー・ロジスティクス事業を担当し、佐川急便代表取締役社長も兼任する本村正秀氏は、同社グループが見据えるビジョンについてこう語る。
「当社グループは30年度には、連結営業収益を2兆2000億円まで高めることを目指しています。持続的な成長を実現するためには、宅配便事業を伸ばすだけではなく、宅配便にとどまらない新たな物流ソリューションを創出する必要があり、30年度には宅配便以外の事業構成比を全体の半分程度まで引き上げることを想定しています」(本村氏)
22年にスタートしたSGホールディングスグループの中期経営計画「SGH Story 2024」においても、物流ソリューションの高度化は重点戦略の一つに挙げられている。
「時間外労働の上限規制や労働力不足、インフレシフトといった多くの業界に関わる課題に加え、輸送ニーズの多様化といった業界独自の課題もあり、物流業も進化が求められています。当社グループではこれまでも、グループ横断型の先進的ロジスティクスプロジェクトチーム『GOAL®』を中心にお客様のサプライチェーン全体をコーディネートする取り組みなどを進めてきましたが、多様化・複雑化するニーズに対応するためにはさらなる高度化が必要だという認識を持っています」(本村氏)
長期ビジョンで打ち出している宅配便以外の事業構成比の向上、そして中期経営計画の重点戦略として注力している物流ソリューションの高度化を実現するための打ち手の一つが、C&F ロジホールディングスのグループへの参加という位置付けになる。では、そのC&F ロジホールディングスにはどのような強みがあるのか。
低温物流で全国をネットワーク展開する共同配送
C&F ロジホールディングスは、名糖運輸とヒューテックノオリンが15年に経営統合して誕生した共同持株会社だ。もともと名糖運輸がチルド中心、ヒューテックノオリンが冷凍中心の業態だったため、両社が統合して冷凍冷蔵食品全般を扱えるようになった。商流で言うと、食品メーカーから卸や小売店へ商品を運ぶ、コールドチェーンの上流域から中流域にかけての輸配送を得意としているのが特徴だ。これに合わせ、冷凍冷蔵の温度帯での仕分け、保管などの低温物流センターの運営も行い、低温下でのロジスティクス全体を事業領域としている。
名糖運輸の創業は1959年。71年に主要株主が協同乳業になって以降、乳製品をはじめとしたチルド物流を中心に事業を展開している。C&Fロジホールディングスの取締役で名糖運輸代表取締役社長も兼任する菅原剛氏は、同社の特徴や強みについてこう語る。
「乳業メーカー各社は配送先が共通するケースが多いため、効率化やコストカットを目的に、かなり早い段階から共同配送をスタートさせました。これをきっかけに事業が大きく成長し、全国各地に拠点を展開するまでになりました。当社の強みは、こうしたネットワークを生かし、在庫管理も含めてソリューションを展開できる点です」(菅原氏)
名糖運輸の配送先は、主に卸やスーパー・コンビニエンスストアなどの小売店だが、単に注文に応じてチルド製品を配送するだけでなく、現在では豊富なデータを基にあらかじめ注文予測を立て、食品メーカーに生産量を提案するまでになっているという。チルド商品は消費期限が比較的短いが、拠点を全国展開して配送網を敷いているため、この点もフレキシブルに対応が可能だ。菅原氏も「これだけの規模で、在庫管理まで含めた低温物流サービスを提供できるのは当社だけだと自負しています」と胸を張る。
一方のヒューテックノオリンは、53年に農林協同倉庫として設立。その名の通り、当初は農業倉庫としてのスタートだったが、66年に冷蔵倉庫事業、74年には冷凍食品メーカーの共同配送事業を開始、現在は冷凍食品の共同保管・共同配送体制を全国に展開し、保管と配送を一括で請け負うネットワークを築いている。「近年、2024年問題が話題となりますが、低温環境下での将来の労働力不足を見越して86年に日本で初めて冷凍の大型自動倉庫を導入したのも当社です」と語るのは、C&Fロジホールディングスの取締役兼ヒューテックノオリン代表取締役社長の安喰徹氏だ。
「現在では、冷凍倉庫の保管パレットの約半数を自動化済みです。また、他社に先駆けて冷凍の自動倉庫を導入したことで多くの知見の蓄積があり、保守業務も自社で行える体制を築いています。物流品質を担保する上で重要なのは、オペレーションを自前で行うことだという考えから、自社員・自車両・自社施設にはこだわっています」(安喰氏)
取締役
株式会社ヒューテックノオリン
代表取締役社長 兼 営業本部長
安喰 徹 氏
取締役
名糖運輸株式会社
代表取締役社長 兼 営業本部長
菅原 剛 氏
さらに、共同配送・共同保管の付加価値を高めるため、倉庫機能に保税蔵置場承認を得て、輸入品の取り扱いや冷凍野菜・冷凍果実のリパック加工といった事業も手掛ける。
名糖運輸とヒューテックノオリンのこうしたノウハウや強みを掛け合わせたC&F ロジホールディングスは、国内の営業拠点128カ所、車両約2800台、ドライバーは約4000人を数え、低温物流事業者として業界3位のシェアを占めるまでになっている。
商流面でもオペレーション面でも、互いの強みで補完し合える
SGホールディングスグループが中期経営計画で打ち出している物流ソリューションの高度化において、C&F ロジホールディングスに期待されるのは、言うまでもなく低温食品物流の上流から中流域にかけてのノウハウやアセットだ。
「冷凍冷蔵の宅配サービスとして、佐川急便にも飛脚クール便がありますが、消費者や企業へのラストワンマイルを担う下流域のみのサービスです。今後、低温食品物流の上流から中流域にかけてC&Fロジホールディングスのノウハウやアセットを活用して、新たな低温物流ソリューションが提供できます」(本村氏)
飛脚クール便は小ロットを得意とするが、宅配機能を持たないC&F ロジホールディングスは、逆に小ロット宅配や過疎地での配送に課題を抱えていた。
「当社のような共同配送の場合、効率性を維持するためにはどうしても10ケース単位といった最低保証が必要になります。ロットの大きい配送を当社が担当し、小ロットの宅配を飛脚クール便にお任せできれば、双方の良さが生かせます」(菅原氏)
また、近年は卸や小売業が経営統合や買収で寡占化している傾向があり、そうした顧客と対等なパートナーシップを築く上でも、「企業規模を大きくする必要がありました。その点ではSGホールディングスのブランド力は申し分ありません」と菅原氏は語る。
両社の強みとシナジー創出
代表取締役社長
山本 将典 氏
もう1つ、SGホールディングスグループから見て、C&F ロジホールディングスをグループに迎え入れる意義があった。それは、同社グループでロジスティクス事業を展開する佐川グローバルロジスティクスが、同社グループ初となる冷凍冷蔵倉庫「Cold Logi船橋」を開設し、運営していたことだ。同社代表取締役社長の山本将典氏は、その意義をこう説明する。
「佐川グローバルロジスティクスでは、現状、常温物流で培った様々なノウハウを低温物流施設の運営に生かしています。今後も新しい低温物流施設の開設を視野に入れており、C&F ロジホールディングスと知見を共有することで、より高度な低温物流ソリューションを提供できると考えています。また、低温物流の上流から中流域を得意とするC&F ロジホールディングスとラストワンマイルに強みを持つSGホールディングスグループのシナジーにより、サプライチェーンにおいてさらに広い領域に最適な物流提案が可能になります」(山本氏)
こうして両社の強みや課題を見てくると、SGホールディングスグループとC&F ロジホールディングスは、お互いにさまざまな面で補完し合える関係であることが分かる。
さて、具体的にどのような経緯でこの株式公開買付けが進んだのか、実際にどのようなシナジーが期待できるのか。そして、両社が描く物流の未来については、本シリーズ後編となるVol.2で取り上げたい。