A1A株式会社
CEO
松原 脩平 氏
海外競合との戦いが激化している。日本企業の競争力底上げで重要になるのが購買力強化だ。背景には、調達・購買部門の情報共有や見積書データの活用が遅れている実態がある。過去のデータを資産として活用し、全社組織で共有すれば、弱みを強みに転換できる。交渉力を強化し、収益機会を逃さず活かすことも可能だ。A1Aと豊田通商がタッグを組み、製造業の購買力とサプライチェーンの強化を発表した。自動車業界を中心に、新たなDXが始まる。
A1A株式会社
CEO
松原 脩平 氏
ものづくりに必要な部品や資材を調達する「調達・購買部門」は、製品ラインや事業所ごとに分かれて組織されていることが多い。いつ、何をいくらで購買したのか。担当者の間で情報共有ができていないため、同じ資材を違う条件で購入していたり、異なるサプライヤーからバラバラに購入していたりといった事態が生じている。
同じことは、グローバルでも起きている。ある製品を日本、タイ、米国の3つの工場で作っている場合、例えば同じ部品を日本では100円、タイでは80円、米国では120円で調達しているケースがある。最も安いタイでの一括購入を検討したり、3工場の購買を統合してスケールメリットによるコストダウンを狙うような改善策が検討できる。
「調達・購買部門の情報共有の遅れが、大きな機会損失につながっています」と語るのは、A1A(東京都千代田区)を創業したCEOの松原脩平氏だ。例えば、売上高5,000億円のメーカーの調達総額をおよそ3,000億円と考えれば、1%のコストダウンが年間30億円の利益を生み出す。
松原氏は以前、生産ライン向けの自動制御機器の営業をしていた。「同じ商品が、A工場では100万円、B工場では110万円で売れます。担当者の間で情報が共有されておらず、毎回、非効率な交渉が発生しているのです」(松原氏)。逆に、松原氏が働いていた企業の営業部門では、どの商品をいつ誰にいくらで提案し、いくらで決着したのか、過去の取引データを客先や製品別に瞬時に検索し、比較できる仕組みがあった。「お客様との取引における情報量の差は歴然でした」と松原氏は振り返る。
こうした経験とノウハウを生かし、松原氏はA1Aを創業した。調達・購買部門の情報共有を進めるデータ基盤「UPCYCLE(アップサイクル)」を提供している。SaaS(Software as a Service)型のプラットフォームだ。過去に使用した膨大な見積書を分析可能なデータ資産として蓄え、全社的に共有し、調達・購買業務を支える大きなパワーにできる。
ただし、UPCYCLEを実現するには大きな課題を解決する必要があった。
見積書のデータ活用を阻んできた最大の課題は、データ入力に膨大な時間と労力がかかることだ。UPCYCLEは、その課題を解決した。
例えば自動車1車種だけで、部品点数は3万点以上。3~4年の開発期間に調達・購買部門が受け取る見積書は7万枚を超える。しかも、サプライヤーから来る見積書は、書式、項目、内容、全て異なることが多い。データで来るものもあるが、紙やFAXが使われることも未だにある。
取得した見積はそのままでは分析には使えない。検索や比較ができるデータにするには、見積書の内容を読み取り、数字や文字を意味のあるデータとしてデータベースに格納する必要がある。いわゆる「非構造化データ」から「構造化データ」への変換だ。この作業に膨大な労力とコストがかかるため、過去の見積書のデータ化は進んで来なかった。
「統一フォーマットを用意し、サプライヤーに入力してもらう方法を試したこともあります」(松原氏)。しかし、サプライヤーに余計な負担を強いることになるため、承諾してもらえる場合とそうでない場合が出てくる。承諾してもらえない場合は、やはり見積書を受領してデータ入力する作業が発生する。データ化できる見積書とできない見積書が混在してしまっては、検索や比較ができず調達・購買業務の本質的な課題解決ができない。
試行錯誤の末、A1Aはデータ入力の作業を丸ごと引き受けることにした。UPCYCLEのユーザーは、サプライヤーから来た見積書をスキャンし、クラウドにアップロードするだけでよい。A1AがOCR(光学読み取り装置)やAI(人工知能)、専門スタッフによる手作業などを駆使してデータを読み取り、システムに入力する。データベース化された見積書は、ユーザー側のダッシュボードからいつでも閲覧、分析できるようになる。これを一連のサービスとして提供したのだ。
UPCYCLEの概要。見積書のデータ化に必要な手間と時間を解消し、スピーディに活用できる
「この判断が、大きな転機となりました。UPCYCLEを試してみたいというお客様が、一気に増えたのです」(松原氏)。UPCYCLEを導入すれば、過去から現在に至る膨大な見積書を容易かつスピーディに検索し、条件を比較し、見積査定の精度を飛躍的に向上できる。調達・購買プロセスの改善にも活かせる。価格の動向を時間軸で分析・比較することも可能だ。
組織の枠を超え、データを全社規模で共有できる。経験のない部品を調達する際も、他部署で実績がないか、似た部品の購買経験はないかなど、過去のデータ資産を新たな購買交渉に活かせる。査定の精度とスピードが格段に向上し、生産性が高まる。査定ミスが減り、コストダウンの機会損失を減らせる。
しかし、「調達・購買部門の変革は、まだ十分ではありません」と松原氏は語る。データ活用だけでは解決できない課題がある。それを解決するのが、豊田通商との資本業務提携だ。
「データを共有し、分析する基盤として、UPCYCLEはかなり良いものになっているという自負はあります。しかし一方で、データを分析した結果、新たなサプライヤーや調達ルートが必要になった時、どうすればよいのか。その先の手段がないのです」(松原氏)。
そこで今回、資本業務提携したのが豊田通商だ。
同社は世界35カ国、153カ所に営業拠点を保有する。ネジからバッテリー、モーター、半導体など、膨大な種類の部品・原材料を世界中から調達できる。外部の企業がこのネットワークを活用し、サプライチェーンを変革できるサービス「Streams(ストリームス)」を展開している。
豊田通商が構築しているグローバル調達ネットワーク。
それだけではない。豊田通商は製造事業者のサプライチェーンの変革を支援する様々なサービスを、矢継ぎ早に出している。例えば、最近問題になっている金型の保管・管理や、サプライヤーのリスクを可視化するスコアリングなどだ。A1Aとの提携では、データ分析によって明らかにしたサプライチェーンの課題解決を、実行面でサポートする。
豊田通商株式会社
サプライチェーン本部
ビジネスアライアンス事業部 Streamsプロジェクトグループ
グループリーダー
梨田 和利 氏
豊田通商サプライチェーン本部ビジネスアライアンス事業部Streamsプロジェクトグループグループリーダーの梨田和利氏は「UPCYCLEは製造業全般に使えますが、特に自動車業界に向いている点がポイントです。グローバルの競争が激しく、購買部門の変革が強く望まれている業界だからです」と語る。自動車業界の厳しい要求に耐えるプラットフォームは、他業界でも魅力的だ。「世界では日系企業以上に海外新興企業がどんどん強くなっています。日系企業の強みを更に強化できるのが、UPCYCLEです」と述べる。
豊田通商株式会社
サプライチェーン本部
ビジネスアライアンス事業部 Streamsプロジェクトグループ
課長補
髙杉 向 氏
また、豊田通商サプライチェーン本部ビジネスアライアンス事業部Streamsプロジェクトグループ課長補の髙杉向氏は、「可視化は目的ではなく手段。重要なのは、その先にあるサプライチェーンの変革です。豊田通商は実行面をお手伝いできるパートナーとして、A1Aと連携していきます」と語る。
A1Aと豊田通商の連携により、日本の製造業は購買力を更に強化することができる。UPCYCLEは調達・購買部門のDXを進めながら、さらに多くのデータ基盤とつながることで、原価企画、新製品開発、進行管理など、多くの担当者が使えるプロダクトになっていくだろう。
「UPCYCLEはDXを個別最適から全体最適へと広げ、更なる業務効率化や生産性向上を可能にしていきます」と、梨田氏は抱負を述べた。
豊田通商株式会社
サプライチェーン本部
ビジネスアライアンス事業部 Streamsプロジェクトグループ
グループリーダー
梨田 和利 氏
豊田通商株式会社
サプライチェーン本部
ビジネスアライアンス事業部 Streamsプロジェクトグループ
課長補
髙杉 向 氏
01可視化経営の現在地

インタビュー