農林水産省 水野政義輸出・国際局長に訊く
大豆やラベル表示の可能性にも着目

食品産業今直面する課題
持続可能な
食料システムの構築

農林水産省は、2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」の中で、「2030年までに食品企業における持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現を目指す」と掲げている。3年が経過した24年の今、食品産業が直面している課題やサステナブルな原料調達が求められる背景などについて、農林水産省輸出・国際局長の水野政義氏に訊いた。
※水野政義氏の肩書は取材当時のものです。

食品産業が直面する
グローバルな課題と対策は?

世界的な人口増加や気候変動などの影響を受け、世界は今、様々な課題を抱えている。中でも、食料の安定供給と地球環境の両立に向けての対策は急務とされる。

水野氏
農林水産省
輸出・国際局長
水野 政義

農林水産省輸出・国際局長の水野政義氏は、「世界的な人口増加によって食料の需要が伸び続けていく一方で、食料生産に投入できる資源は限られています。また、気候変動による異常気象の多発などで世界的な食料生産の不安定化も予想されます。加えて、食料の需要拡大による国際間の調達競争激化のリスクなどもあります」と現状を分析する。

続けて水野氏は、「これらの課題解決のために、食品産業は大きな役割を果たすことができると考えています」と語る。その役割とは、「世界的に持続可能な食料システムを構築していくこと」だという。

「持続可能な食料システムの構築には、バリューチェーン全体で取り組む必要がありますが、この中で、生産の現場と消費者の間をつなぐこと。これこそが食品産業に求められる役割だと思います。今日では、生産現場が海外で、消費は日本ということも少なくありません。食品企業がグローバルに調達してきた原材料を、食品として日本の消費者に届けるという意味でも、食品産業、食品企業の果たす役割は大きいと考えます」(水野氏)

具体的な活動としては、「世界各国で生産されているものが持続可能だということを消費者に示して、消費を促していくこと。同時に、日本で行われている持続可能な食品の生産方法を海外に向けて発信していくことも重要になってくると思います」と水野氏。

「今や、サステナブルな食料生産の実現は、消費者だけでなく、投資家や取引先など、広く求められるものですから、各食品企業はサステナブルな経営を実践し、その取組をアピールしてもらいたいと思います。そのためには、加工食品の商品パッケージにラベルを付けてその取組を強調するなど、宣伝広告活動の中でアピールする必要があると考えます」(水野氏)

こうした考えの下、農林水産省は2023年3月、食品企業がこれらの取組を実施する際の手引きとなる「食品企業のためのサステナブル経営に関するガイダンス」を策定、公開した。

「このガイダンスの目的は、各食品企業が、気候変動や人権尊重、食品ロスの削減などの課題ごとに目標とその取組方法を決め、その取組を外部にどんどん発信してもらうことです。情報開示の方法などについても提示していますので、各企業はこのガイダンスに従って、実践していただきたいと考えています」(水野氏)

持続可能な食料システム構築へ
大豆の可能性

ではなぜ今、「持続可能な食料システムの構築」が求められるのか。その背景には、「直面する課題解決のために、各企業が責任ある消費を推進することが、世界的に求められているという事実があります」と水野氏。

「特に食品の原材料を途上国から輸入する場合、先進国日本の食料消費が途上国における環境破壊や人権侵害を誘発しているという疑いを持たれないように、責任ある消費を持続可能にすることによって、人権尊重や環境にプラスになる生産を促していくことが、従来にも増して求められていると思います」(水野氏)

こうした状況下で、全世界的に注目を集めているのが、環境負荷が少ない植物由来の原料から作られる「プラントベースフード」。日本は特に「大豆」の果たす役割が大きいが、水野氏も「プラントベースフード素材として大豆を重視しています」と言う。

「大豆というと、世界的には油糧用途、油目的の使用が中心ですが、日本の場合は古くから豆腐、納豆、味噌、しょうゆと、食事に欠かすことのできない、なじみ深い食材ですので、その点に着目して、日本独自の施策を進めていきたいと考えています」(水野氏)

食材としての大豆のメリットについて、水野氏が注目しているのが、「動物性たんぱく質に代わるたんぱく源であるだけでなく、たんぱく質、炭水化物、脂質と三大栄養素をバランスよく含んでいること」という。「つまり、人間の栄養にも、農業生産の環境負荷低減という面でもプラスであるということです。ここをうまく訴求していきたいと思います」。

大豆製品の利用を政策的に後押しするために、農林水産省が実施した施策のひとつが、22年に制定した「大豆ミート食品及び調製大豆ミート食品(大豆ミート食品類)」の日本農林規格「JAS」だ。

近年、市場にはたくさんの「大豆ミート」が出回っているが、一般消費者には、「大豆ミートとは何なのか」が分かりにくい、という指摘がある。「この問題を解決するために、国としてJASを作りました。例えば『動物性の原材料を一切用いていない』など、基準に適合したものだけに、大豆ミートとしてJASマークを表示できるようにしています。現在、食肉会社も含め、5社6工場がこのJASの認証を取って、生産を始めています」(水野氏)。

みえるらべる

みえるらべる
農産物の環境負荷低減を示す「みえるらべる」(見る+選べる)。「温室効果ガス削減への貢献ラベル」と「温室効果ガス削減への貢献+生物多様性保全ラベル」の2種類あり、★1つ~3つで等級表示される。

もうひとつの施策が、農産物の環境負荷低減の取組の「見える化」で、24年3月から、これを推進するためのラベル(愛称「みえるらべる」)の本格運用をスタートさせた。これは、「温室効果ガス削減への貢献」および「生物多様性保全への配慮」について、その度合いに応じて★の数で表示したラベルで、対象品目は23品目に及ぶ(生物多様性保全への配慮は米のみ)。

「環境負荷低減の取組を消費者に理解してもらうには、個々の食品企業の努力だけでは難しい部分もあります。国が中立的客観的な評価手法を作り、それに基づき生産者の環境負荷低減の努力を評価し、さらにその結果を『見える化』することによって、消費者により信頼される形で情報伝達ができるのではないかと考えています」(水野氏)

さらに、今後の展開について水野氏は、「生産者には環境負荷低減の取組を促し、消費者には環境負荷の少ないものを消費する行動を促していく。この両方を農林水産省として進めていきたいと考えています。まずはそれを国内でしっかりと進めて、できれば国際的にも展開していきたいと考えているところです」と語った。