Vol.1地域の特性に応じた規制改革
「構造改革特区」で弾みつく地方創生
全国から寄せられた規制改革のニーズを実現するため、これまで構造改革特区(2002年)、総合特区(2011年)、国家戦略特区(2013年)の3つの特区制度が作られてきた。構造改革特区は地域の特性に応じた規制改革を実施するもの。総合特区は、規制の特例措置に加え、財政支援も含め総合的に支援。国家戦略特区は、大胆な規制・制度改革による経済再生を目指している。
その中でも、構造改革特区は最も早くから実施された特区制度だ。全国一律での実現が難しい規制・制度改革について特例をつくり、その効果を実証できる。地域内での連携・モチベーションやブランド価値向上、産業振興にもつながり、自治体や事業者にとっては国の制度を活用して地方の課題解決を進めるための身近なツールといえるだろう。
日本酒造りの魅力が新たな観光資源に
地域のブランド価値向上も
構造改革特区は、全国の自治体が申請可能だ。今注目を集める活用事例をいくつか挙げてみよう。
2024年12月、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。これを契機に日本酒造りへの関心が高まっている。
以前から、地元の酒造業者や自治体から、廃校舎や道の駅などを利用した清酒の体験製造場を作ることで、地方創生や観光振興を図りたいという声はあった。ところが、現在の酒税法では、酒類を製造しようとする場合、酒類の品目別・製造場ごとに、所轄の税務署の製造免許を取らなければならない。既に清酒の製造免許を持っていても、別の施設で清酒の製造体験場を作ろうとする場合には、新たに免許を取る必要があり、ハードルが高かった。
構造改革特区ではこれらの規制を緩和した。既に清酒の製造免許を持つ企業なら、その地域の活性化を目的に清酒の製造体験サービスを提供する場合には、所轄税務署の承認を受ければ、新たに免許を取らずとも製造体験場を作ることができるようになったのだ。現在、この特例は4つの自治体で活用されている。
新潟県佐渡市では、2020年3月に「佐渡・学びの日本酒特区」に認定されたことを契機に、「真野鶴」ブランドで知られる尾畑酒造が廃校舎を「学校蔵」として再生し、酒造り・共生・交流・学びという4つの柱で運営。学校蔵では1週間という長期滞在型の酒造りプログラムが体験でき、2024年度は7回実施し、30人の参加者が本格的な酒造りを楽しんだ。その8割が外国人だ。参加者の中には体験後に佐渡を再訪する人もいて、佐渡という土地、日本酒、そして同社の銘柄を愛するファンの育成につながっている。

「学校蔵の酒造り体験プログラム」の様子(左)、学校蔵の外観(右)
また、愛知県設楽町では、2020年8月に「設楽のドうまいコメで酒づくり体験特区」が認定された。2021年に観光のランドマーク施設である「道の駅したら」に、酒造り体験施設となる「ほうらいせん酒らぼ」をオープン。2023年度は体験会を63回実施し、153人が参加している。この道の駅では、地域の伝統食である五平餅や道の駅オリジナルの日本酒を販売するなど、米を使った商品をコンセプトに据えた事業も官民連携で取り組み、今や設楽町の一大観光拠点となっている。

酒造り体験施設となる「ほうらいせん酒らぼ」(左)、酒造り体験の様子(右)
酒類については、他にも、農家民宿などを営む農業者が、自ら生産した米や果実を原料とした濁酒・果実酒を製造する場合、最低製造数量基準を適用しない特例メニュー(いわゆる「どぶろく特区」)、地域の特産である農産物などを原料とした酒類を製造する場合、最低製造数量基準を引き下げる特例メニュー(いわゆる「ワイン特区」)が人気だ。これまでに300を超える自治体が活用し、事業者の新規参入や新たな観光資源の創出につながっている。
株式会社の学校が
新たな学びの場を創る
日本では原則、国、地方公共団体および学校法人でなければ、学校(幼稚園、小中高、大学など)を設置することができない。この規制を緩和し、企業でも学校設置ができる特例メニューがある。
2024年12月に認定された群馬県長野原町の「長野原町グローバル教育特区」では、日本人が自然に英語を使いこなせるようになるためのアクティブイマージョン教育に加え、生きる力を育てる非認知能力の教育に力を入れるユニークな小学校が2026年4月に開校する。校舎は同町の廃校舎を活用する。事業主体は、既に同特例メニューの認定を受け、神奈川県相模原市でアクティブイマージョン教育を行うLCA国際小学校を運営する株式会社エデューレエルシーエーだ。

LCA国際小学校の授業風景。国際社会で活躍できる人材を育てると同時に、日本の歴史・文化の習得にも力を入れる
特区認定に際し、長野原町長は「『生きる力を育む町』という言葉をスローガンに掲げ、『人を育てる』ことを最大の目標にしてきた」と語る。「予測困難な時代を生きていくには、学力だけではなく、課題を発見して解決する能力やコミュニケーション能力、相手の気持ちを理解しサポートできる協調性などが重要な要素」と、町の教育ニーズとマッチした新しい小学校開設に期待を寄せる。
株式会社による学校設立は、地域独自の教育ニーズに応じた多様な学びの提供にとどまらない。廃校舎の有効活用や地域人材の育成、課外活動での地域貢献、さらには交流人口の増加や移住希望者の確保など、地域にさまざまなメリットが生まれる。これらが地域経済の活性化につながると期待して認定を申請する自治体が多くある。
小学校を起点とした長野原町の将来ビジョン
他にも構造改革特区の教育分野には、職業能力開発短期大学校の修了者が大学に編入できる特例メニューがある。熊本県ではこの特例を活用して、県立技術短期大学校から国立大学法人熊本大学への編入学を実現する道を開いた。県では、世界有数の半導体企業の操業が始まり、3,400人以上の先端技術人材の雇用が見込まれる一方で、人材確保が課題とされている。特区制度を活用して、地域が求める高度人材の早期育成を進める狙いだ。
現在、構造改革特区で活用できる規制の特例メニューは50以上。その分野は教育以外にも、観光・商工業、農業、福祉、人材、交通など多岐に及ぶ。全国の自治体で申請が可能な構造改革特区の活用で、地方の課題を起点とした規制・制度改革が進み、地方創生2.0につながることが期待される。

