Vol.2絆で繋ぐドローン実証
連携“絆”特区がスタート
2013年から始まった国家戦略特区は、国と自治体・事業者が協力し、民間有識者の力も活用して、地域の実情に応じた規制改革を強力に進める取り組みだ。これまで、地方創生と日本全体の国際競争力の強化をめざし、様々な分野における地域課題解決に取り組んできた。また、政府はこれまでの10年間の地方創生をめぐる成果と反省を生かし、「地方創生2.0」として新たな取り組みを進めようとしている中、地域の課題を起点とする規制改革を大胆に進めていく特区制度は、その重要な一翼を担うものとされている。今、そこに注目の新しい動きがある。2024年に新たに指定された国家戦略特区の一つ「連携“絆”特区」では、共通の課題を有する自治体同士が連携しながら、課題解決型、ボトムアップ型の新たな取り組みが始まっている。
ドローン先進地域として
手を組む福島、長崎
地域における産官学などの多様なプレーヤーの連携のもと、共通の課題を抱える自治体間の連携により、規制・制度改革を進め、地域課題解決に取り組む新たな国家戦略特区が「連携“絆”特区」だ。
2024年6月、ドローン配送などの新技術の早期実装を目指す「新技術実装連携“絆”特区」として福島県と長崎県が、半導体関連産業の拠点形成を目指す「産業拠点形成連携“絆”特区」として宮城県と熊本県が指定された。
福島県には中山間地域、長崎県には離島が多く、物流、医療、教育など生活関連サービスの維持や、新産業創出による地域活性化など、共通の地域課題を抱えている。これらの課題解決に向けた一つとして注目されているのが、ドローンによる配送サービスだ。

福島ロボットテストフィールド外観(左)、長崎で実装されるドローン配送の様子(右)
長崎県は日本で最も有人離島が多く、行政・住民から特に高いニーズがある。すでに2022年から、配送拠点から島々の港までドローンが海上を飛んで、多い時で1日延べ20機ほどが、日用品・食品や医薬品などを配送している。長崎はドローン配送の先進地域なのだ。
一方、福島県では、「福島イノベーション・コースト構想」のもと、東日本大震災と原子力災害で被害を受けた浜通り地域を中心として、産業を回復し、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトが進んでいる。この取り組みの一つとして、南相馬市にフィールドロボットの一大開発実証拠点である「福島ロボットテストフィールド」(RTF)が整備され、現在、その周辺にはドローン開発を含む80以上のロボティクス企業などが集結している。福島はいまや国内有数のドローン技術の先進地域だ。
両者は地理的には離れているものの、特区という絆のもとで得意分野を連携させることで、ドローン活用による地域課題解決や産業振興が加速しはじめている。
レベル4によるオンデマンド配送の実現に向けて——
エリアで一括して飛行許可、住宅の上も飛べる
ドローン配送の実証事業は全国各地で行われているが、ドローン配送サービスを実現するには、安全性を重視した法規制や地理的条件を乗り越える必要があり、簡単なものではない。その道を開くために、特区を活用してさまざまな実証を先行的に進め、安全な運用方法の確立とサービスの最適化を図ることができるのは大きな武器だ。特区での実証は、それまで得られなかった豊富な知見を生むことで、規制改革につながり、そして全国への普及に進むことが期待される。
2024年に連携"絆”特区として指定された福島・長崎の両県では、いち早く、レベル4飛行によるオンデマンド配送の実現に向けた実証を始めている。レベル4飛行とは、住宅上空など有人地帯で行う目視外飛行であり、最もハードルが高く、まだ実例も多くない。
現在、レベル4飛行は、個別に飛行経路を特定して国土交通大臣からの許可を得ているが、許可を得るためにも相当の時間がかかる。これでは、事業者側にとって申請にかかる負担が大きく、迅速なサービス展開も難しい。利用者のリクエストに応えて柔軟に配送ルートを設定し、オンデマンドで配送するためには、これまでの制度がネックになるのだ。
そこで福島・長崎では、安全対策を講じた上で、飛行経路をあらかじめ特定することなく一定のエリア単位で飛行許可を可能とする制度改革を目指す。これが実現すれば、一度許可を得たエリア内であれば、オンデマンドで柔軟に配送が可能となる。実現に向けて必要な論点を整理するため、両県では特区として先行して技術面の実証を行うとともに、サービス性についても検証をしているのだ。
連携“絆”特区で目指すレベル4飛行によるオンデマンド配送について
多様な実証フィールドを駆使した
確かな技術力を特区で活かす——福島
浜通りの南相馬市に2020年に整備された「福島ロボットテストフィールド」(RTF)。無人航空機や自動運転ロボットなどを主な対象に、実際の使用環境を拠点内で再現しながら研究開発、実証試験が行える国内トップレベルの研究開発拠点だ。中でもドローン技術やサービスの実証に使われる例が多く、2023年度は75%がドローン関係だったというが、連携“絆”特区の指定によってその取り組みは加速している。
ドローン配送が普及する上では、雨風に強く、通信障害にも強い機体が不可欠だ。こうした過酷環境でも安定的に飛行できる新型ドローンの開発が産官学共同で進んでおり、そのテストのためにRTFの風洞棟や電波暗室が頻繁に活用されている。ここだからできる技術実証環境が整っているのだ。
福島ロボットテストフィールドの全体図
2025年2月には、特区として目指すレベル4飛行に向けた検証を行うため、RTFの市街地エリアで、ドローンのプロペラ音を測定し、住宅上空をドローンが飛行する上での騒音に関する検証が行われた。また、市街地上空を飛行する上で、ドローンのバッテリー切れなどの緊急事態が起こった場合に、送電線などを回避しながら的確に着陸地点へ誘導できるかどうかのテストも実施された。
このようにRTFを中心として特区としての福島県での実証も進められているが、地域と連携し、物流事業者、飲食チェーン、地元スーパー、医薬品卸事業者など多くの企業が参画していることが特徴だ。こうした地元企業と住民の理解は、ドローン実証を進める上での重要なポイントになる。

2025年2月に実施した実証実験にて、市街地フィールドを飛行するドローンの様子
「ドローンの機体だけではなく、多数の事業者と住民の理解を踏まえた新たな物流システム全体を構築することがドローンサービスの鍵になる。南相馬市からスタートして、その後、近隣の浪江町やいわき市にも広げ、2026年度には福島全域で、さらにその先にはこの福島モデルを他県にも展開していきたい」と、福島県の担当者は語る。
先導する実装サービスに
特区で更なる価値創出を——長崎
有人離島が全国で最多の長崎県。交通に不便な半島や中山間地域も少なくない。日常的な買い物だけでなく、医薬品の供給にも不安を感じる住民が多い。離島には船で医薬品が配送されており、常備薬はなんとか間に合うものの、急に必要になった薬をすぐに本土から取り寄せることができない。また、本土へのアクセスが近隣の島を経由しないとできない二次離島も多く、例えば人口約300人の久賀島から長崎市内の病院に通うには片道だけで数時間かかる。高齢者にとっては通院し、薬を処方してもらうのも大きな負担だ。
このような状況を打破するため、ドローンを活用した日用品や医薬品の配送は以前から求められていた。すでに豊田通商の子会社そらいいなが、2022年から医療用医薬品及び、日用品・食品のドローン配送に取り組んでおり、その配送実績は2000回を超えているという驚きの実績だ。ただ、これまでは住宅上空などを飛行するレベル4飛行ではなく、海上を飛び、港湾部などの無人地帯に荷物を投下するレベル3飛行。より医療機関や患者の自宅に近い場所にスピーディーに届ける「軒先配送」のためには、レベル4飛行の実現が不可欠だ。なおかつ、柔軟にルートを設定してオンデマンドに配送することが求められる。
モバイルクリニックと連携したドローンのレベル4飛行での処方薬配送実証
処方薬配送における現状と実証での取り組み
2025年2月には、福江島で、診察したその日のうちに処方薬を患者のもとにドローンのレベル4飛行で届ける実証を行った。島の診療所と患者宅近辺に到着した巡回診療車をオンラインで結び、医師によるオンライン診療を実施。診療所で薬を積み込んだドロ−ンは、患者宅のそばまで飛行して、処方薬が届けられた。迅速な医療提供といった地域課題の解決に向けて、明るい光が見えた実証だった。九州初のレベル4飛行実証としても、多くの注目を浴びている。

2025年2月に実施した実証実験にて、
ドローンに処方薬を積み込む様子(左)、患者宅に処方薬が届けられる様子(右)
「医師によって処方された薬を、日を待たず短時間で患者のもとに届けることができれば、離島に住む不便が軽減できる。レベル4飛行によるドローン配送サービスは、離島や中山間地域を抱える他の自治体でも活用できるもの。連携“絆”特区での実証がいずれは全国に波及することを期待したい」と県の担当者は語っている。
連携の先にみえる
地方創生
連携“絆”特区への指定をきっかけに福島・長崎の両県で取り組みが加速するドローン配送だが、単一の自治体ごとにではなく、複数の自治体が情報や知見を共有する連携は、国家戦略特区が新しいフェーズに入ったことを示している。技術に蓄積のある福島の知見と、サービス提供を積み重ねてきた長崎の経験が組み合わさり、いま新たなシナジーが生まれようとしている。そしてその成果は、同様の地域課題を抱えるすべての自治体に広がっていくのだ。
「いずれは全国どこに住んでいても、ドローンが飛んできて、家の前まで荷物を運んできてくれる、そういった世界を作っていきたい。そのためには特区を活用して先進事例を作っていくことが欠かせない」と、長崎県の担当者はこれからの展望を語っている。
「ドローン配送に限らず、これをきっかけに、連携で加速する地域課題解決をしっかり進めたい」と、内閣府の担当者は語気を強めた。始まったばかりの取り組みは早くも成果を見せようとしているが、地域の課題を起点として規制改革を進める特区制度にはますます期待できそうだ。

