「運べない社会」の回避に必要なのは、意識改革と行動変容
JILS総合研究所 所長
北條 英 氏
輸送力不足解決の当面の目標は
“ロードファクター50%”
昨年話題になった2024年問題で懸念されていたのは、トラックドライバーの時間外労働に上限規制を設けることによる輸送能力の低下だ。日本ロジスティクスシステム協会(以下、JILS)の北條英氏は、2024年問題を経た輸送力の現状をこう説明する。
「コロナ禍前の2019年を基準とするNX総合研究所の試算によると、24年度では約4億トンの輸送力不足が予測されていました。結果だけを見れば、貨物輸送重量が19年基準よりも少なかったことと、後述するロードファクターが改善したことで24年度は乗り切った形ですが、この懸念は今後も続きます」(北條氏)
同試算によると、5年後の30年には約9.4億トンもの輸送力が不足するとの予測になると北條氏は話す。これを配送頻度に置き換えると、19年度には週5日だった配送頻度が30年度には週3日に減ってしまうということになる。「運べない社会」は大いにあり得る未来なのだ。
営業用貨物自動車の輸送重量の推移(2019年度~2024年度)
出典:国土交通省「自動車輸送統計調査年報」よりJILS作成
物流の今後を考えるにあたって北條氏が重視するのが、先述の「ロードファクター」という指標だ。積載効率を意味するロードファクターは、積載率と実車率の掛け算で求められる。単位が%であるため数値は0から100の間で示され、言うまでもなく数値が高くなればなるほど空きスペースや空車といった輸送の無駄が少ないことになる。過去のロードファクターがどのように推移してきたかについて、北條氏はこう解説する。
「1990年代からのマクロで見た場合、50%台前半だったものがこの30年で40%を割り込むところまで下落しています。ただ、19年度に37.8%で底を打ってからは緩やかな上昇傾向にあり、最新の24年度の推定では41%台まで回復しています」(北條氏)
この回復基調の背景には、コロナ禍をきっかけとするサプライチェーンでの取引条件の見直しといった行動変容や技術開発といった要因が考えられる。ただ回復傾向にあるとはいえ、これで十分というわけではない。北條氏によると、30年度に不足すると見込まれている輸送能力を満たすために必要なロードファクターを試算すると、約60%という数字になる。90年代の50%台前半を大きく上回る水準で、「とても実現できるものではありません」というのが北條氏の見立てだ。
「ただ、過去に50%台だった時期があることを考えれば、60%は無理でも50%なら現実的な数値目標として可能性はあると考えています」(北條氏)
営業用貨物自動車のロードファクターの推移(1993年度~2024年度)
出典:国土交通省「自動車輸送統計調査年報、月報」よりJILS作成
持続的な物流の実現に向けた
推進力となる改正物流2法
北條氏が50%という数字を挙げた理由は、実現の可能性があるからという点に加えてもう1つ、ロードファクター50%を境に物流施策のフェーズが変わることを想定しているからだという。
「当面の目標は50%ですが、この数値はゴールではありません。達成後には50%を維持しつつフィジカルインターネット的な情報プラットホームで少しでも60%に近づけていったり、無人化により輸送力を増やしたりする次のフェーズがあり、当然ながらKPIも具体的な施策も異なってきます」(北條氏)
ロードファクターが、積載率と実車率という2つの要素の掛け算であることは前述した。50%を目指すフェーズでは積載率と実車率の両面から施策を考えるべきというのが北條氏の考えだ。
「50%を目指すフェーズで言うと、積載率向上の面では納品時間指定の緩和や物流事業者同士の共同輸送、AIも活用した需要予測精度の向上など、そして実車率向上の面では、業務プロセスの標準化やデジタルを活用した荷待ち/荷役時間の削減などが考えられます」(北條氏)
こうした改善は、意識改革や行動変容があって初めて現実のものとなる。その推進力となるのが、24年に可決・成立した改正物流2法だ。その1つである物流効率化法は25年4月に一部が施行され、26年4月に施行される改正流通業務総合効率化法の政省令では、一定規模以上の特定事業者を対象に物流統括管理者(CLO)の設置や中長期の計画書の提出などが義務付けられる。また、もう1つの貨物自動車運送事業法では、トラックドライバーの処遇改善や多重下請けの制限を図る議員立法が提出され、25年6月に可決されている。
「CLOが中長期計画の立案をするには経営的な視点が必要なので、自社のロードファクターや荷待ち/荷役時間といったデータを把握しておく必要があるのですが、日常業務と並行してKPIのデータを取得するのは限界があります。これが今後の課題になっていくでしょう」(北條氏)
さらに、物流業界ならではの課題として北條氏が例示するのが物流量の変動、いわゆる波動をどう抑制するかという課題だ。
「波動は季節的な特売やキャンペーンなどで物流需要が大きく変動することが一因です。AIやデータを用いた需要予測に加え、そもそも波動を抑えるために特売からエブリデイロープライスに切り替えるといった検討も一手だと思います」(北條氏)
自動化や省人化、AIなどの最新技術が
一堂に会する
近年、物流業界では新たな技術として、自動運転や路車間通信、ラストマイルを担当する自動配送ロボットなどの研究・開発が進み、一部では実証実験も行われている。これらが社会実装されるのにはまだ年月が必要だが、ロードファクター50%以上を維持したい次のフェーズでは、こうした技術が必要になると北條氏は説く。
「労働力人口の減少やトラックドライバーの時間外労働のさらなる短縮といった背景を考えれば、自動化や省人化は避けられません。トラックだけで輸送力不足が解消できないのならば、鉄道も含めたインフラの再整備を検討する余地も出てくるでしょう」(北條氏)
北條氏が提言する施策の中には、すぐに実行に移せるものもあれば実用化まで間があるものもあるが、その施策の土台となる技術やソリューションが一堂に会する展示会が、25年9月10日から12日までの3日間、東京ビッグサイトで開催される。「国際物流総合展2025 第4回 INNOVATION EXPO」だ。北條氏が理事を務めるJILSは同展示会の事務局となっている。
「AIのような最新のイノベーションに期待が寄せられていることもあり、今回もスタートアップゾーンを設けました。また、ドローンと自動配送ロボットについては、実際に見て、体感できる特設パビリオンを用意しています。これからの物流に関心のある方に、ぜひ足をお運びいただければと思います」(北條氏)
物流が日々の暮らしになくてはならないインフラであることを考えれば、課題は物流事業者だけのものではない。荷主企業や消費者も含め、社会全体で物流の持続可能性を考え、理解を深めていくことが必要だと言えよう。