長期循環型事業目指し統合的リスクマネジメントを推進

リスクの多様化と複雑化が進み、企業はより戦略的かつ包括的なマネジメントを迫られている。多角的に事業を展開する東急グループでは、時代の変化に先んじ、本社主導で最適なリスクマネジメントのあり方を追求し続けてきた。持続可能な成長を目指す先進的な取り組みをモデルに、日系コングロマリットが目指すべきリスクマネジメントのあり方を探る。

マーシュ ブローカー ジャパン
株式会社
代表取締役社長

村山 知生

1995年マーシュ ジャパンに入社。リスクマネジメント領域で30年以上の経験を有し、うち7年間はニューヨーク本社で勤務。東京へ帰任後、マーシュ ブローカー ジャパンで大手企業の支援を重ね、2020年から現職。

東急株式会社
取締役 専務執行役員

藤原 裕久

1983年東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)入社。財務部門にて財務戦略の立案・推進に従事したのち、 米国サンディエゴの駐在を含む国際事業を推進。保険代理店の子会社役員、東急株式会社の経営企画、IT・デジタルテクノロジーの担当を経て、2022年から現職。

自然災害で被害を受けて認識した
全社横断的な視点の欠落

村山氏:創業100年を超える東急グループでは、リスクに対する向き合い方も都度アップデートされていますよね。

藤原氏:鉄道事業に端を発した当社ですが、今では「交通」に加えて「不動産」「生活サービス」「ホテル・リゾート」の4つの事業領域を有しています。私の入社当時は多摩田園都市の開発が盛んで、リスクマネジメントは地区ごとに実施していました。しかし1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、安全安心を旨とし、多くのプロパティ(不動産)を所有する企業として、リスクマネジメントを高度化させる必要があると認識を新たにしました。また、当時は17の上場グループ会社があり、当社のガバナンスの確立に向けて求心力が求められるタイミングでもありました。ですから、グループ内の保険代理店を統合して包括保険プログラムを組成し、リスクマネジメント機能と、損害保険の窓口を一本化したのです。2000年ごろのことです。ただその後、東日本大震災や2019年に発生した台風15号の被害に際し、一部付保が整っていなかったことが明らかになりました。保険加入の判断が各事業会社任せになっていたことが原因でした。全社横断的という視点に欠けていたことを目の当たりにし、変革に着手したのです。

村山氏:今でも多くの企業が事業部門ごとにリスクマネジメントを行っている中、東急グループはグループ全体でのマネジメントへの移行が非常に早かったと言えます。本社がグループ全体を俯瞰(ふかん)し、リスクマネジメントの方針を策定すれば、一つひとつのリスクに対して、どこまでをコントロール(回避または低減)し、どこからをファイナンスの課題(移転または保有)とするのかを判断できますし、リスクが顕在化したときにも、迅速な状況の把握や判断、ステークホルダーへの説明が可能になりますよね。保険に関して付け加えると、個別に現場任せにしていては、小さな保険に大量に加入することになってしまい、スケールメリットも得られません。最適な保険を調達するには、グループ全体のリスクを把握できる体制が必要なのです。

保険への理解を深め覚悟を持ち
“生き物”に対応し続ける

藤原氏:グループ最適を実現するために、まず注力したことはリスクマネジメントを担う我々自身が覚悟を持ち保険を理解することでした。過去の通例に漫然と則るのではなく、各保険の特性を組み合わせて活用していく主体性が必要です。被保険者側の理解を深めることも重要ですね。これについては本社が所管するグループ内保険代理店が、付保状況や保険市場の動向について情報発信をしています。目的は、保険の使い方について柔軟なスタンダードを構築することですね。例えば、保険のコストとメンテナンスや修復コストを照らし合わせ、包括的に判断するといった手法が挙げられます。グループ内にはプロパティを貸す側・借りる側双方がありますが、その両者でも認識や情報を共有しています。

村山氏:社会情勢の変化を受け、多くの日系保険会社は保険の限度額と契約期間を制限して料率を上げる傾向にあります。コストアップに直面している日本企業は、これまでのように特定の親密保険会社に依存することなく、最適な保険を世界の保険市場から調達する必要性が高まっていますね。

藤原氏:リスクマネジメントは、生き物に向き合うことと同じです。時代の変化、お客さまの動向、事業ポートフォリオによって変わり得る。これからは未経験のリスクにも遭遇するでしょう。昨今ではグループワイドに再生エネルギー事業も拡大しており、そのリスクマネジメントにも苦慮しています。それを前提に、予防ももちろんした上で、保険会社の保険でカバーするのか、あるいはキャプティブ保険を選択するのかなど見直しを続ける必要があります。そうした勉強をする上でも、マーシュのような専門家の力添えは不可欠です。

村山氏:キャプティブとは、グループのリスクを専属的に引き受ける保険子会社を設立し、リスクを自家保有するスキームです。欧米の大企業では極めて一般的で、日本でも近年活用する企業が増えています。グループ全体の財務戦略方針に基づいて積極的にリスクを保有し、許容できないリスクに限定して保険を手配することで、トータルコストの最小化を実現しようとされている東急グループには親和性の高い取り組みかと思います。

長期循環型事業を支える
ステークホルダーとの対話

藤原氏:東急の4つの事業はどれも永続的なものです。うち、デパートやスーパーなどの生活サービス事業とホテル・リゾート事業は付加価値を創出する事業です。その付加価値創出事業のインフラとして交通事業と不動産事業を活用し、グループ内に価値を集積していく。それが我々の目指す長期循環型事業のあり方であり、コングロマリット・プレミアムとしての姿です。最も大切なのは、約550万の沿線住民をはじめとしたエンドユーザーの皆さま、従業員への安全安心を提供し続けることです。そのためにも、リスクに対するカルチャーを本社主導で全社的に構築し、マネージしていく必要があります。日々変わる状況の中で、これからも様々なステークホルダーの方々との対話を尽くしてまいります。

村山氏:長期的かつグループ横断的なリスクマネジメントは、シニアマネジメントのリーダーシップなくして実現できません。どんな事業でも事故は起こり得るものです。経営層が音頭を取ってリスクを洗い出し、財務的インパクトを計り、リスクのコントロールとファイナンスを両輪で動かしていくことが重要になります。東急グループでは本社が事業全体のリスクを俯瞰し、旗振り役となることで、異なる事業領域においても現場レベルまでリスクカルチャーを浸透させており、それが事業間シナジー強化にもつながっています。まさにサステナブルなリスクマネジメントの好例と言えるでしょう。

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マーシュ ジャパン株式会社

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