
日本の農業は、農業従事者の高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増大、温暖化による収穫の不安定化、収益の低迷など様々な課題を抱えている。特に大きいのは高齢化と担い手不足で、農林水産省が公表する「令和6年度食料・農業・農村白書」によれば、仕事として自営農業に従事している基幹的農業従事者は、2024年段階で111万人、平均年齢は69.2歳である。これが20年後には30万人と現在の約4分の1にまで減少すると見込まれている。こうした状況下で、従来のやり方による農業生産では、農業の持続的な発展や食料の安定供給の維持は不可能である。
高い生産性と魅力にあふれ、食料の安定供給が可能な農業の実現には、テクノロジーの活用によるスマート農業、地域資源を生かしたブランド化による競争力向上、多様なプレイヤーとの連携による地域との共創が欠かせない。ここでは、スマート農業、農産物のブランド化、地域との共創の3つについて、具体的な取り組みを見ていくことにする。
スマート農業は、ロボット、AI、IoTなどの活用により、農作業の効率化や作業負担の軽減、経営管理の合理化による生産性向上を目指すものだ。2019年から様々な技術を農業の現場に導入し、経営改善の効果を明らかにするスマート農業実証プロジェクトが開始された。その後、2024年にはスマート農業技術に適した生産方式への転換を図りながら、現場導入の加速と開発速度の引き上げを図るスマート農業技術活用促進法も施行された。
スマート農業実証プロジェクトの水田における効果を見てみよう。ドローン農薬散布では、作業時間が慣行防除に比べて、平均で61%短縮。特に組作業人数の多いセット動力噴霧と比べると省力効果が大きいことが明らかになった。ドローンではセット動噴のホースを引っ張って歩く必要がなくなり、作業者の疲労度が減る一方で、セット動噴と同等の防除効果が得られた。
また自動水管理システムは作業小屋から離れた水田に設置し、見回りを減らしたことで、作業時間が平均で80%短縮できた。障害型冷害対策としての深水管理も適切にでき、取水時間を変更することで、高温対策の効果も期待できる。さらに直進アシスト田植機は、従来型と比較して、作業時間が平均で18%短縮された。加えて、男性だけで行っていた田植え作業への女性の参画が可能になっただけでなく、新規就農者でも操作できることから、若者の新規雇用につなげることができた。
スマート農業実証プロジェクトは水田作以外に、畜産、施設園芸、露地物野菜、お茶やサトウキビなど地域作物など全国217地区で実施されており、農業現場へのスピーディな導入が求められている。
農産物のブランド化は、特定の農産品について独自の価値を作り、それを消費者に認知してもらうためのマーケティング戦略である。農林水産物の価格低迷、消費者意識の多様化・高品質志向などの中で、従来の農産品との差別化による販路拡大を目指し、ブランド化に取り組む生産者や地域の動きも多い。
各地で様々な取り組みが行われてきているが、鹿児島県の「知覧茶」、徳島県の「なると金時」、北海道の「十勝川西長いも」など地域団体商標として登録されている有名な農産品は息の長い取り組みが結実している場合が多い。
最近、注目を集めているのが農産物の生産にとどまることが多かった農業者が、加工・流通(2次産業)や販売・消費(3次産業)に関わることで、経営の多角化を進める6次産業化である。農産物や自然エネルギー、風景・伝統文化など農山村に存在する地域資源を活用した付加価値を創出することで、農家所得の向上と地域の活性化に結びつけることが可能になる。
その具体例がマイナビ運営の農業総合情報サイト「マイナビ農業」とスイーツパンの八天堂、ホテル・レストラン運営のPlan・Do・Seeの3社が共同開発した「丹波栗くりーむパン」である。この取り組みは持続可能な農業を応援するために、形や色が規定に満たないことや保存期間が短いなど、通常の流通に乗せることができない高品質な規格外果物を活用しようというプロジェクトだ。さらに今後は宮城県の「ミガキイチゴ」のジャムを使ったくりーむパンも発売する予定だ。
地域との共創は、IT企業や商社など今まで農業とは縁がなかった企業が持っている技術やノウハウを活用して、新たに農業に参入するものだ。NTT東日本のグループ会社であるNTTアグリテクノロジーは、秋田県で、地元の生産者や加工事業者、販売者と連携し、秋田県産“夏秋いちご”の地域ブランド化を進めている。同社は秋田県潟上市内でイチゴファームの運営を行うことで、県内の生産者と連携した産地リレーや、生産者や製菓店、商社などと商品開発を進めている。そして将来的には地域ブランド化にとどまらず、高級ブランドとしての立ち位置をめざす考えだ。
こうした様々な取り組みを通して、持続可能な農業と食料安全保障に貢献する日本農業の新たな時代が切り開かれるだろう。