
日本の農業が抱える高齢化と担い手不足の課題。中でも秋田県は人口減少率と耕作放棄地増加率が高く、県内の農業はこの深刻な状況に直面している。地域の課題解決と価値創造への貢献を重要な使命としているNTT東日本グループは、この課題に対処すべく、2022年に秋田県でスマート農業の取り組みを開始した。
「移住した当初、私は生産者の方々と一緒に担い手不足解消のためのロボティクスやAIなどを活用した実証実験に取り組んでいました。しかし、そうした中で、スマート農業だけでなく、生産者がきちんと稼ぐことができる農業の実現、この両方が求められていると気づきました。私自身、農業経験はありませんでしたが、そんな私たちが取り組んで、うまくいけば未経験者の新規就農も可能になるし、NTT東日本グループも本気だと地域から評価されると考えたのです」とNTTアグリテクノロジー 秋田潟上夏秋イチゴファームで農場長を務める中戸川 将大氏は語る。

そこで着目したのが、例年、国産いちごの収量が減る6月から11月に収穫できる夏秋いちご。夏秋いちごは高値での取引が見込めるため、生産者の収益向上も期待できる。さらに秋田県の気候は夏秋いちごの栽培に適しており、ハウスの暖房設備も要らず、初期投資も少なくて済むことも大きなメリットだった。そこで、2023年7月、県内のいちご生産者と協議会を発足させ、農研機構東北農業研究センターが2021年に開発した夏秋いちご「夏のしずく」という品種を「秋田夏響」というブランド名で売り出し、産地化をめざすことにした。
NTTアグリは、2024年5月、秋田県潟上市内にてハウス2棟で栽培を行う「秋田潟上夏秋イチゴファーム」の運営を開始した。現在、栽培している夏秋いちごは「夏のしずく」と北海道で開発された「すずあかね」の2種、計4,000株だ。
「栽培を始めた最初の年(2024年)は本当に試行錯誤の連続でした。栽培に適した水や肥料の与え方がわからず、苗の成長がよくありませんでした。花に付着すると実がつかなくなってしまう害虫の対策にも苦労しました。このときは毎日長時間、害虫を1匹ずつ手で捕り続けて何とか乗り切りました」(中戸川氏)。
初年度で様々な栽培ノウハウを習得し、2年目となる今年(2025年)はさらなる収量の増加を目標にしている。夏秋いちごの産地である北海道では、トップレベルの生産者の収量が1株あたり700~800グラム前後とされており、2年目でそれに近づこうとしている。
そこで、販売店やハウスメーカー、冷蔵設備会社、地域の学術機関などでコンソーシアムを形成し、秋田県での産地形成を推進していく考えである。その上で、めざしているのが栽培地を広げていく栽培方法の平準化だ。潟上エリアだけでは秋田県としての産地形成はできないので、栽培地域の拡大と新たに参入する生産者が安定的に販売できるスキームの確立を図ろうとしている。
現在は、秋田県全体で夏秋いちごの産地形成を順々に図っていく準備を進めており、最初に収穫できる県南部の湯沢地域からスタートして、潟上などの中央部、青森県境の鹿角、大館まで、仲間づくりも合わせて、県全体として目標を決めて取り組んでいく。






秋田県における夏秋いちごによる産地形成のめざす姿
NTTアグリでは、2024年から地域商社を通じて夏秋いちごの販売を開始した。そして、地域の製菓店にも夏秋いちごを使ってもらうための取り組みを行うなど、新たな需要の掘り起こしにも積極的に進めている。
現在、夏秋いちごの地域ブランド化をめざす取り組みは、1次産業(生産)、2次産業(加工・流通)、3次産業(販売・消費)の各分野から参画したメンバーで運営する6次化推進協議会が中心となって進められている。
「今まで生産者はいちごを出荷するだけで加工や販売にはタッチしておらず、加工・販売も同様で、それぞれの分野だけ行っていました。6次化推進協議会では、生産、加工、販売のメンバーが一緒になって議論を行い、商品開発から販売まで総合的に推進しています。その中で、商品化や販売戦略で高付加価値を出して高く売ることに同意したメンバーで構成、生産者がきちんと利益を確保できるWin-Winの関係構築を図っています」(中戸川氏)。
6次化推進協議会では、2024年9月、道の駅で「夏いちごフェア」を開催。生産者も先頭に立ち、朝採り生いちごや製品化したスイーツやジェラートを販売した。この催しが大好評だったことから、2025年にもフェアを開催する計画だ。
今後、秋田潟上夏秋イチゴファームでは、栽培ノウハウを動画マニュアル化し、秋田県から生産者向けに公開する準備を進めている。さらに10月には香港のイベントに夏秋いちごを出品し、嗜好調査を行い、その結果をもとにブランド化とハイブランド化の両方につなげていく狙いがある。
これらの取り組みを通して、NTTアグリでは、秋田県の農業・食品産業全体の競争力強化を図り、持続可能な地域社会・農業をめざしたロールモデルとして全国に発信していく考えだ。