日本特殊陶業は、2026年に創業90周年を迎えるセラミックスメーカーだ。2020年に策定した「2030 長期経営計画 日特BX」(以下、日特BX)では、2040年の目指す姿として「これまでの延長線上にない変化」を掲げ、大胆な事業変革に向けて歩み始めた。その変革と歩調をあわせ、事業をけん引する人材の育成に力を入れている。歴史あるものづくり企業が取り組む科学的人事の狙いについて、間接部門のトップに話を聞いた。
事業構造の変革にあわせ
自律創造人材の育成を図る
自動車のエンジンに欠かせないスパークプラグ、酸素センサで世界No.1※のシェアを誇る日本特殊陶業。販売国数は約145カ国、海外売上比率は85%、海外従業員比率は約47%と、世界を舞台に事業を展開するグローバル企業である。
※日本特殊陶業推計(2023年3月末時点)
2024年3月末時点のグループ全体売上は6144億円に達するなど、業績は順調に推移している。その一方で危機感も強い。売上は内燃機関向け部品が約8割を占めるが、自動車のEV化やクリーンエネルギーへのシフトに伴い、2030年代半ばには需要がピークアウトすると想定しているからだ。こうした構造の変化を踏まえ、2020年に策定した日特BXでは2030年時点で内燃機関事業を6割、非内燃機関事業を4割とする事業ポートフォリオの転換を目標に定めた。
目標に連動して同社では「人材」を最重要経営資源に位置づけ、意欲的な人材戦略を推進している。日本特殊陶業 上席執行役員 ビジネスオペレーション本部長の山口智弘氏は、「事業を変えるなら人材を変えていくことが不可欠。長期ビジョンの実現に向け、人材ポートフォリオの転換も求められています」と語る。
人材戦略としては、同社の特性に応じた「グローバル人材マネジメント」を掲げた。そのうえでグローバル人材マネジメントをけん引する人材像を「自律創造人材」と定義。自律創造人材とは自ら考えて行動し、現状に捉われず、最適解を考え実践する人材を指す。これを受け、既存人材に対する活躍機会の提供、育成環境の整備、組織風土の醸成に取り組むとともに、専門性に長けた外部人材のキャリア採用にも注力している。
全社スキルマップを作成し
従業員の強みを可視化
自律創造人材の育成に関しては、「目的の明確化」「意志入れ」「相互尊重」「自らの役割を果たす」という4要件をもとにした「コアスキル」、今後重点を置く事業領域で必要となる「テクニカルスキル」を明確化し、従業員一人ひとりのスキルを可視化した「全社共通スキルマップ」を作成。管理ツールにはタレントマネジメントシステムの「タレントパレット」を活用する。
「これまでの社内人材情報は属人化してブラックボックスになっていました。そこでデータを一元化して横断的に共有するためにタレントパレットの導入に至りました」(山口氏)
2021年から導入したタレントパレットにはスキルマップに加えて氏名や役職などの基本情報、職歴や業務内容などの履歴情報を蓄積し、全社横断的に人材の属性がわかるようにした。対象は国内グループ約8000人の全従業員で、既存従業員だけではなく、キャリア入社者や新卒にも適用。条件を入力して人物を検索すると条件に合致する人材が表示され、人材の特徴を掴むことができる。
「人事担当者の主観に依らず、数値によって客観的に捉えられるようになりました。従来は自分が見えている範囲だけで判断することが多かったのですが、全社的に俯瞰することで人材発掘や育成の面で非常に大きな効果があると実感しています」(山口氏)
スキルの解像度が高まったことも収穫だという。例えば人事部でも採用、人材育成、労務管理、制度策定と各ジャンルがあり、得意分野を考慮せずに選出すると上手く機能しないことも少なくない。山口氏は「一人ひとりのパフォーマンスが最大化できる部署で働くことが理想。また、新規事業開発における人材の見極めにも一元的なプラットフォームは役立ちます。データに基づいた分析が定着すれば、人事異動でも最適なマッチングが可能になると期待しています」と話す。
日本特殊陶業は、2040年の目指す姿に向け、人材育成に力を入れている
マインドセットの変革が
企業力向上の源泉になる
ただし、スキルの可視化だけで人材ポートフォリオを転換するのは難しい。山口氏は「マインドセットを変えていくことが何より大切です」と説く。2021年からの中期経営計画で「変えるために、壊す。変わるために、創る。」をスローガンとしたのはそのためだ。
「変わる」ことへの意識醸成に向けては、従業員が自身のキャリアについて上司と対話する「Myキャリア(自己申告)」という仕組みを導入。これにより自らのWILL(実現したいこと、ありたい姿)を考える機会を設けている。
「自身の強みや課題を把握できるスキルマップを活用してCAN(できること)やMUST(やるべきこと)を確認しながら、WILLを実現できる環境を整備しています。現在、スキルマップと連動した研修プログラムの構築を進めているところです」(山口氏)
エンゲージメントの向上にも積極的だ。組織の課題を可視化して改善につなげることを目的に、年1回のペースで全従業員を対象にしたエンゲージメントサーベイを実施。「結果は役員や部門長にフィードバックされ、人事部が中心となって若手従業員のヒアリングやワークショップを行うなどの改善活動を支援しています」と山口氏は言う。
2023年4月には英文商号を「Niterra(ニテラ)」に変更し、「地球を輝かせる企業になる」との思いを込めた。2024年11月には東芝マテリアルを完全子会社化することを決議するなど、事業を取り巻く環境も変化しつつある。
「スキルマップの本格的な活用とマインドセットの変革は道半ばですが、タレントパレットには推進の可能性を感じています。今後も様々な場面で活用していきたいです」と山口氏は結んだ。日本特殊陶業の果敢なチャレンジは続く。
(内容は取材当時(2025年3月)のものです)











