“人の成長”を軸に人材戦略を推進する青山商事。並行してデータに基づく人事施策を徹底し、タレントマネジメントシステムをフル活用している。2025年には、長く人事部門に携わってきた遠藤泰三氏がトップに就任。次世代を切り開くマンパワーの拡充に向け、さらなる人的資本経営の充実を図る。同社の取り組みについて、遠藤氏と人材開発部2名に話を聞いた。
採用、育成、配置、定着、
活躍を一気通貫で見える化
「洋服の青山」や「SUIT SQUARE」など約700店舗を展開し、日本のビジネスウェア市場をリードする青山商事。2023年からはオーダースーツブランド「Quality Order SHITATE」を洋服の青山全店に拡大するなど、高付加価値な商品・サービスを提供している。近年は他業種と組んだ雑貨販売事業やフランチャイジー事業への進出も目覚ましい。
時代の流れに合わせた柔軟な対応力を支えるのが独自の人材戦略だ。2018年、同社は人事制度を抜本的に改革。従業員一人ひとりをタレントマネジメントしていく経営・人事方針にかじを切った。当時、人事戦略本部長として陣頭指揮を執ったのが代表取締役社長の遠藤泰三氏である。
「持続的成長や企業価値向上には“人の成長”が欠かせません。そこで、従業員の経験や能力、強みや入社時の思い、キャリア志向、人生観など、網羅的にペルソナを把握する必要があると考えました」(遠藤氏)
従来の人事管理システムは従業員の基礎情報にとどまっていた。そのため、採用、育成、配置、定着、活躍を一気通貫で見える化できるタレントマネジメントシステムの導入を検討。複数候補の中から選んだのがプラスアルファ・コンサルティングの「タレントパレット」だった。その決め手を、人材開発部 副部長の鍋島大作氏は次のように振り返る。
「最大の理由は、我々の狙いとマッチしたシステムだったこと。その他、柔軟性やカスタマイズ性が高い点、高度な分析機能が備わっている点、常に機能がアップデートされていく点に魅力を感じ、導入を決めました」(鍋島氏)
青山商事の人的資本経営の方向性とタレントパレットの活用イメージ
全社約7500名の
“人材カルテ”として運用
タレントパレットには入社後の人材データが一元的に格納され、パートを含む全社約7500名の“人材カルテ”として運用している。データの移行に約2年を費やし、2021年から2022年にかけて全社に展開した。鍋島氏は「タレントパレットは新たな人材戦略の土台になるシステムです。プラスアルファ・コンサルティングのサポートを受け、基礎を固めることに力点を置きました」と話す。
導入以降、採用と育成の両面で顕著な効果が見られた。採用領域では学生のアンケート回答をテキストマイニング機能で分析し、「採用イベントのどこに共感できたか、共感できなかったか」を可視化。その結果を踏まえ、より解像度の高い採用活動ができるようになった。
採用ペルソナを定義しているのも特徴の1つ。執行役員人事戦略本部長 兼 人材開発部長の小嶋英幸氏は「既存社員のSPI(適性検査)傾向値をスコア化し、新卒社員とのマッチ度を可視化、初期配属の店舗選定や、育成環境の整っている店舗に配属するなど、活躍人材の育成や離職防止にも繋がっている」と手応えを感じている。
育成に関しても同様で、適性検査、面談履歴、スキルなど多角的なデータに基づく分析を通じて育成計画の立案に役立てている。そもそも同社は人材教育を重視しており、20年以上前から店舗スタッフ向けに動画教育コンテンツを提供。この素材をタレントパレットに移行し、効率化と生産性の向上をもたらした。加えて、負担の大きかったコストの大幅削減にもつながったという。
「現状は店舗パソコンでの閲覧ですが、業務用スマートフォンで視聴できるように整備し、商品知識やお客様との対話力やコミュニケーション能力など、様々なスキルを磨くノウハウも蓄積しているので、テクノロジーやデータを駆使して成長を後押ししていきたいですね」(鍋島氏)
次世代リーダー育成や
優秀な人材の分析にも活用
これからはサクセッションプラン(後継者育成計画)にも注力していく。小嶋氏は計画の内容についてこう話す。
「経営層から課長級に至るまで、階層ごとにタレントパレットのデータから客観的に次世代リーダー候補を選定していきます。キーワード入力で適合人材を検索できる機能があるため、候補の絞り込みもスムーズです。現在、全国の人材を対象に研修を始めています」(小嶋氏)
さらにはハイパフォーマー分析にも意欲を見せる。営業成績に偏りがちだったハイパフォーマーの定義を見直し、人材データと適性検査をかけ合わせてロールモデルを示す構えだ。
「マネジメント能力や人を巻き込む力、企画力なども考慮する新しい仕組みとして、2025年4月に『人材育成委員会』を設立しました。どんな人材が出てくるのか楽しみですが、2018年に人事制度改革を始めていなければここまで達していなかったでしょう。サクセッションプランについても昨年1年間、じっくりと考え抜いた取り組みです。今後は次世代リーダー育成とハイパフォーマー分析をタレントパレットでリンクさせていきます」(遠藤氏)
青山商事が目指す持続的な企業の成長には「人的リソースの最大化」が必要である。人材育成方針には「自律型人材」の創出を掲げており、ここでもデータと人の融合が必須となる。遠藤氏自身、2000年代初頭からデータの重要性に着目し、従業員の売上実績を見える化してきた人物だけに、データ活用によって青山商事が次のフェーズに進むのは間違いないだろう。その上で、遠藤氏はこう締めくくった。
「20年前は単なる数字でしたが、タレントパレットは違います。多様なデータを集約し、人が正しい判断、そして決断を下せるようになっている。これこそが勘に頼らない科学的人事の本質だと思う」(遠藤氏)











